65 螢袋ほか

夏雲を掴みたいがために生きる


夏雲や心の鬱を清くせよ


蚊を叩き潰す嫌ひな奴のごと


一粒も見分けられずに雨あがる


みんな虹見てゐるうちにり稼ぐ


みんな赤じゃなくていいのに罌粟けしの花


待ってゐる人を忘れて螢袋


桔梗きちこうのフォルムのやうな人になる


桔梗きちこうは少女の息吹もて開く


五月雨の仕舞いを看取りつつあぐら


少年がいつかの夏を思ひ出す


少年と少女と螢袋かな


愛されて染められたくて螢袋


五月雨に打たれて池の皮薄き


月を見ぬ螢袋のうつろかな


梅雨の日のカッターの刃を見つめをり


母なき子にも母なり夏の夜の海


夏めきて嫌ひな奴に好かれたし


広島の八月の傷終わりなし


もう会はぬ人ばかりなり夏の道


隠栖したくてまず十薬どくだみを植えまくる


「にじ・さわって・クル」とメモして消へた次女


金雀枝や我は悪魔と契りし身


まだ空を飛べぬまゝなり虹を見る


芋の葉の幼き頃や露もまた


蟻をみな潰したくなる真昼かな

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る