13 レオン・スピリアールト頌
(レオン・スピリアールト Le'on Spilliaert 1881~1946 ベルギー、オステンド生まれの画家。ジェームズ・アンソールと同郷である。ほとんど独学だが20代半ばから画家として知られ始め、若くから他の誰とも違う独自の画風を確立していた。スピリアールトは故郷オステンドの海辺を夜中に散策することを好み、そこから作り上げた世界を紡いだ。夜の海に光る灯台や、海を見つめる女性が、深い沈黙と共に描かれる。光と闇の対象を切れ味鋭く表現することにも優れ、彼のもっともよく知られた作品である「めまい」に於いてそれははっきりと見て取れる。スピリアールトの画風は幻想的と見なされがちだが、空想の動物や神話の人物が登場するわけではない。むしろ日常を異化した世界と呼ぶのが適当と思われる。日本では2003年に東京、兵庫、愛知で展覧会が開かれ初めて紹介された。ベルギーと言えばアンソールやポール・デルヴォーのような特異な画家が多いが、スピリアールトは未だ知名度の点では彼らに劣るだろう。しかしあらゆる流派から超越し、高く洗練されたその世界は、「一度見たら忘れられない」強い魅力を放つ。)
(「めまい」より)
極光の
戻れ得ぬ
限界の
孤絶なら影さへかくも頼もしき
忘れけり海を見つめし歳月を
月の夜は白き風さへ吹き抜ける
冬の海
姿見に薔薇は映れど我は消え
ただ歩く水平線の彼方まで
人もなく音もなけれど続く道
海黒し
白浪は眠る女のみだれ髪
潮騒はひとり語りの老楽師
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