6 氷雨

阿弖流為あてるい!」と廃墟のおりで叫ぶ香具師やし


スノーフレーク凍りつきたる友の遺書


木枯こがらしや海は見るたび姿変え


雛罌粟ひなげしや夢の夜に降る星のごと


(ルイ・ル・ナンの「農民の家族」の正面左側に存在感のある老婆が描かれている。その眼は不敵とも言えるほどの強い光を放っていて、実在の人物を描いたのではないかと思われるほどの力に圧倒される。絵画の中の老婆はいつまでもこちらを見ているが、現実の人間はいつか永遠に瞑目する日を迎える。確かにそういう日はやってくるのだ。)

幾十年生きて琥珀こはくの眼を閉じる


分度器の角で作った擦過傷さっかしょう


(白木蓮の咲く形を見るたび聖火を連想する)

立つ鳥の航路照らせよ白木蓮


手荷物は岩波文庫秋の旅


ワレラミナ、コトノハツムグかいこナリ


ともしびが車窓に溶ける氷雨ひさめの夜


氷雨ひさめかな車窓に溶ける赤信号


コスモスは夕焼けの花母の花


(熊谷守一「ようの死んだ日」を見て)

吾子あこの死に裂ける臓腑ぞうふを画布に


轢断れきだんからす飛び立つ鉄路かな


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