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さて、三日後に国外追放される聖女様を救出することになったわけだが、問題が山積みだ。
まず、聖ミスティカ教国はベイリーン王国の隣国ではない。
ベイリーン王国は大陸の端(ちなみにフォーリーズ領は一番端っこ)にあり、教国は大陸中央部にある。魔道列車など移動手段が発達していても、国境をまたいで運行しているわけではないので、国ごとに列車を乗り継ぐ必要があるし、検問所を通過する必要がある。特に検問所を通過するためには審査があり、そこに時間がかかるんだ。下手な疑いをかけられれば、何日も足止めされることになる。
次に、聖女がどのルートを通って隣国に追放されるかがわからない。最低でも4つのルートがあるため、ルート分岐前に追いつく必要があるだろう。陛下はエルディアに追放されると言っていたが、その情報が正しいとは限らないので、捕らえられている教会から追放される前にたどり着くのが理想だ。
「圧倒的に時間が足りない」
教国にたどり着くまでに、最低でも二国を通過しなければならない。教国の検問所を通過することも考えれば三カ所だ。どこか一つでも引っかかれば即アウト。それに、列車だって上手く乗り継げるかどうかわからないし。
「それに、誰を連れて行くかだよなぁ」
スムーズに検問を通過するためにも、同行する人材は重要だ。精鋭部隊の連中なんか、野盗と間違われて検問所にたどり着く前に攻撃されかねない。かといって、彼らは単体で上級の魔獣を屠るだけの戦闘力がある。少数精鋭というのであれば、彼らの中から数人選抜するのが良いだろう。ただ、彼らだけでメンバーを組んだ場合、完全に野盗の集団にしか見えなくなってしまう。魔道列車にすら乗せてもらえないかもしれない。
「無難に、歌い手一人、演奏家一人、兵二人ってところか?」
俺をいれて五人であれば、旅の一行としてはそこまで大人数ではないだろう。貴族の次男坊が学院の休校を利用して旅行中って設定でいけば、メイドと執事、護衛の兵士ってことで無難なはず。
「というわけで、これからメンバーの選抜を行います」
あの事件以降、俺の楽隊は王都にあるエンディール公爵家で世話になっていた。とっととフォーリーズに帰るように言っているのだが、王都での生活が気に入ったらしく、だらだらと半月も居座っている。
本来であれば、婚約が受理されなかった時点で世話になるわけにはいかなかったのだが、俺たちに恩義を感じてくれたエンディール公爵が滞在を許してくれているのだが、楽隊は好き勝手に演奏するし、戦闘部隊は日がな一日飲み歩いているしで、本当に迷惑である。
まあ、おかげでいちいちフォーリーズから呼び寄せる手間が省けたんだけどね。
「まず歌い手から。立候補はいる?」
「「「「はい!」」」」
元気に手を挙げたのは四人。パートリーダーのリリーナ、元フォーリーズ家メイドのユフィ、村娘からスカウトしたリナ、そして・・・・・・
「・・・・・・シャリス」
「はい!はいはい!はい!」
めっちゃ元気に挙手をする、エンディール公爵令嬢のシャリス・ヴィラ・エンディール。
エンディール公爵家の庭だから、この場にいるのは仕方ないけど、なんでキミが一緒に行こうとしているの?
あまりの必死な挙手に、ユフィとリナが萎縮して手を下ろしちゃったじゃん。リリーナだけは通常営業で、微動だにせずまっすぐに手を挙げてるけども。
「さすがに、婚約者でもない貴族の男女が出国するのは怪しまれるんじゃないか?」
「今の時代、仲の良い男女が国外旅行なんて普通にするわよ。それに、もし怪しまれたら駆け落ちだって言えば良いわ!」
なぜか自信満々と胸を張るシャリス。
仮にも三大公爵家の令嬢が、辺境伯家の次男坊と駆け落ちしてます、なんて言ったら絶対に出国できないと思う。
「じゃあ、メイドの経験があるユフィにしようかな・・・・・・」
「リクス様、さすがにこの状況では・・・・・・」
ユフィがもの凄く恐縮している。射殺さんばかりの圧をシャリスとリリーナから向けられれば仕方がない。でも、お願いだから止めてあげて。ユフィは俺が小さかった頃の専属メイドで、姉さんみたいなもんなんだからね。
「楽隊からは、ダントでいいかな。ちょっと強面な執事役ってことで」
「おいおい隊長。大丈夫かよ」
ちらりと視線をシャリスたちに向けたダントが、困ったようにそう言った。大丈夫ではないだろうけど、さすがにシャリスを連れていくわけにもいかないからな。
残りは剣部隊と大盾部隊から一人ずつ選ぶことにした。さすがに精鋭部隊から選べなかったので。
とりあえず、選ばれた四人には旅支度をして一時間後に駅前広場に集合するよう伝えて解散とした。
一時間後・・・・・・
「お待ちしておりました、たいちょ・・・・・・ご主人様」
「待っていたわよ、あ・な・た」
「隊長ぅ~、ごめんなさい、ごめんなさい」
集合場所に到着すると、三人のメイドが待ち構えていた。いや、一人はメイド服の上に革鎧を装備して帯剣してるし、一人は新妻気取りなので、メイドはユフィ一人だけか。悪いことをしていないユフィが必死に謝っている姿を見て、申し訳なく思った。
「ほら見ろ隊長。結局こうなったぜ」
そう言って俺の肩に手を置いたダントは、エンディール家から借りた執事服を身に纏っていた。ダントが着られる執事服をわずか一時間で用意してしまうとは、さすが公爵家である。
「それで?どうしてお前までここに来てるの?」
「そりゃこっちの台詞だよ」
なぜかふてくされた様子のギースがダントの後ろから顔を出した。ギースは一見すると冒険者のような軽装備で、これからどこぞのダンジョンでも探索するかのような装いだった。
「学院の休校を利用してダンジョン探索か?」
「そんな訳あるかよ。せっかく寮の厨房を借りて新作スイーツの研究をしていたのに、リクス様が国外に出かけるから、護衛として同行できるように三十分で支度しろって命令が来たんだよ」
それはこの前言ってた、フェルス家のスパイからの情報か?俺が国外に出かけるからって、わざわざギースを護衛によこす必要なんてないと思うんだけど。
というか、ギースにも意外な趣味があるんだと思って、ちょっとだけほっこりした。
「残るは剣部隊のコーダと大盾部隊のガランか」
「隊長、二人は来やせんぜ」
「え?なんで?」
ダントは疲れたような視線を偽メイド二人に向けた。
いやいや、いくらついてきたいからって、歌い手が戦闘職の枠を無理矢理奪っちゃダメでしょ。
「これどうすんの?戦闘職ギースしかいないじゃん」
支援職6、戦闘職1というなんともアンバランスなパーティ編成だ。ギースに強化を集めまくって無双させろってか?誰もそんなロマンを追い求めちゃいないよ。
「ごめんなさい、リクス様。お二人をお諫めできなかった私の責任です。私が盾を持って前線に立ちます」
「いやいやいやいや、何言ってるんだユフィ。キミは何も悪くないのに、そんな危険なマネさせられないよ」
現在はフォーリーズ領の軍属とはいえ、歌い手であるユフィはまともに軍隊の訓練などしていない。それに元はメイドさんなのだ。大盾を持って最前線に立たせるなんてあってはならない。
ユフィがやるならいくらでも俺が代わりにやるわ!
まあ、いざ戦闘となれば、誰に前衛をやらせるかは決まっているけどね。
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