1-41


「大盾部隊、リクスたちを護りながら後退。魔法部隊は詠唱準備。剣部隊は抜剣、かかれー!」

「「「おおぉ!」」」


 剣を抜き放ち、騎乗したシャリスを戦闘にして、剣部隊の連中が声をあげながら突撃を敢行する。


 全く状況がわからないが、一言だけ言いたい。


「なんでシャリスがうちの部隊を率いてるの!」

「隊長、騒いでないで後退しますぜ」


 ダントに担ぎ上げられるようにして、大盾部隊と共にドラゴンから距離をとる。おかげでリリーナたちも歌を中断し、ダントたちにかけられた強化も切れてしまう。


 まあ、大盾部隊のおかげで安心して後退できるわけだけど。


「グギャアアアァ!」


 遙か前方では、強化も受けていないシャリスと剣部隊が、ドラゴンに斬りかかっている。王都の騎士団は強化を受けてやっとダメージを与えていたというのに、現状でかなりのダメージを与えられているようだ。


 なんで?


『フォーリーズの民は総じてレベルが高いからのぉ。ステータスが段違いじゃ』

「騎士団って、王国最強じゃなかったのかよ」

『技術は高いんじゃろうが、毎日高ランクの魔物集団を相手にしとるフォーリーズの兵と比べたら赤子と大人くらいの差があるじゃろうな』


 うちの兵たちは王国最強の部隊を軽くひねることができるらしい。聞かなかったことにしよう。


「そんなことより、なんであのドラゴンは首落としても復活したんだよ。生き物としておかしいだろ」

『召喚石とか言ったか?ワシの時代にそんな物は無かったからのう。どういう原理で魔物を呼び出したのかもわからん。どれ、ちょいと調べてくるか』


 くそじじいは光球となってふよふよとドラゴンに向かって飛んで行った。急に出ていたけど、できればドラゴンと戦う前に出てきて欲しかったよ。


普段はどうでも良い時にホイホイ出てくる癖に、たまにこういうことがあるんだもんなぁ。


「まあいいや。楽隊は演奏の準備に入れ」

「「「はい!」」」

「歌い手のみんなは、まだいけそうか?」

「はい!」「「「・・・・・・」」」


 リリーナは元気だ。うん、こいつは俺の言うことにNoと言わないからな。他のみんなは、どうやら疲労困憊のようだ。体力的な問題と言うよりは、魔力消費が激しすぎたから魔力切れに近い状態だろう。1曲保つかどうかってところだろう。


 リリーナも返事は良いが肩で息をしている状態だ。彼女も限界が近い。


 歌が無いだけで強化の効果は極端に低くなるからな。


 ドラゴンを倒しきる方法を把握してから、万全を期して演奏をはじめなければいけないだろう。


『1曲だと、ちぃとまずいかもしれんのう』


 いつの間にか帰ってきたじじいが、ふよふよと俺の回りを飛び回っていた。


『召喚石とかいう石。あれは邪神の力を帯びておった。それが核になって、込められた魔力の分だけ何度も再生を繰り返すようじゃ。核が魔力切れを起こすまで倒し続けねばならんじゃろう』

「核を直接砕くんじゃダメなのか?」

『核は体内にある。体内にある状態で核を砕いても、体の中を駆け巡って再び元に戻るじゃろうな。じゃからのう』

「核を体内から抜き取らなければいけないってことか」


 あの猛攻を掻い潜って、ドラゴンの体から核を抜き取る。かなりハードな仕事だな。それを1曲の演奏時間内にやり遂げなければならないとなると、相当難しいな。


 それに、楽曲によって強化できる内容が異なる。部隊によって異なる強化をかけることができれば、戦いようはあると思うんだけど。


『無いことは無いがのぅ』

「あるんかい!」

『しかしのぉ、失敗すればおそらく、王都ぐらいなら跡形も無くなるぞ?』


 おぉう。随分とリスクが高いようだ。訓練場の周辺からは避難しているだろうが、学院内から避難している人はほとんどいない。王都から避難している人なんて皆無だろう。


 そんな状況で王都が跡形も無くなる可能性のある賭けに乗れるか?


 でも、どのみちドラゴンを討伐できなければ王都が壊滅するのは目に見えている。一縷の望みに賭けた方が良いだろうか。


『心配無い。成功率は8割と踏んでおる』

「かなり高いな」

『うぅむ。おそらく・・・たぶん・・・きっと・・・大丈夫じゃろう?』


 一気に信頼度が下がったんだけど大丈夫だろうか?


『神でも女心はようわからん。ちょいと聞いてくるぞい』


 そう言い残して再び最前線までふわふわと飛んで行く光の球。今まさに炎を纏わせた剣でドラゴンに斬りかかろうとしているシャリスの周りを飛び回ると、シャリスが振りかぶった剣をぴたりと止める。


 最前線で剣を振り回すのも問題だが、ボスクラスの魔獣の眼前で動きを止める方が大問題だと思う。


 シャリスもまずいと思ったのか、そそくさと前線から引き揚げて魔法部隊の後方まで下がった。


 近くに来て分かったけど、なんかあいつ顔が赤いな。戦闘で興奮しすぎたか?エンディール公爵も武闘派だから、血筋なのかもしれん。


 再び光の球がシャリスの頭の周りをふわふわ飛び回ると、シャリスは首を左右に振ったり両手で顔を覆ったりと忙しそうだ?


 最終的に顔を両手で隠したまま小さく頷くと、光の球と一緒にこちらに戻って来た。


『喜べリクス。9割9分大丈夫そうじゃ』

「1分は失敗する可能性がある?」

『うむ。思春期特有の素直になり切れない気持ちが1分、と言ったところかの』

「いや~!やめてください神様!思春期とか言わないで~!」


 なぜかシャリスさんご乱心である。というか、どうしてシャリスまで一緒に戻ってきたのだろうか?


『次の楽曲、シャリスがセンターでメインじゃ!』


 リリーナたちの限界が近いから、シャリスにメインで歌わせるというのは良い案だと思うけど、成功率が上がった理由と、シャリスさんご乱心の理由がさっぱりわからん。


 それに、1曲でそれぞれに異なる強化をかける方法もまだ聞いていないんだけど。


『簡単に言うとじゃな、リクスの魔力を楽曲の力で制御して、兵たちに力を分け与えるんじゃ』

「俺の魔力を?」


 ふむふむ。確かに制御に失敗したら王都が消し飛ぶかもしれないな。しかも確実に俺が原因で。


「俺の魔力を制御できる楽曲なんて聞いたこと無いんだけど?」

『うぅむ。リリーナたちでは方向性が違ってのぉ。正しく力が働かなかったんじゃ』

「方向性?」

『気持ちの、じゃな』

「ぎゃあぁ!気持ちとか止めてください!それ、絶対リクスに詳細説明しないでくださいね!アタシが直接言わなきゃ意味無いやつですから!」


 音楽の方向性の違いって奴か?なんかうちの楽隊が解散しちゃいそうな問題なんじゃないの?


『リクス。お主は楽曲が始まったらシャリスの歌に身をゆだねろ。そうすれば、自然と魔力の制御が出来るはずじゃ』

「抽象的過ぎてよくわからん」

『シャリスの歌に合わせて魔力を放出。制御できたら戦闘部隊にその魔力を供給。わかったか?』

「・・・・・・さっきよりは」


 結局ぶっつけ本番でやるしかないわけだ。


「じじいが隣でアドバイスしてくれるんだろ?」

『無論じゃ。これが出来るのはワシの眷属だけじゃからの。みっちり仕込んでやるわい』

「それで、どんな楽曲を演奏するんだ?」

『楽曲は、親愛じゃ!』


 新しい楽曲かと思ったら、よくコンサートの最後に演奏している曲だった。


 じじいの眷属になって初めて教えてもらった音楽で、俺も大好きな曲だ。


 今まで戦闘時に演奏したことは無かったから、強化の効果は無いのかと思っていたんだけど、重要な楽曲だったらしい。


「やめてよ~!親愛とか、タイトル~!」


 思春期特有の行動なのか?この調子で失敗しないことだけを祈りたいね。






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