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 ある者はロングソードを肩に担ぎ、ある者は槍を背負い、ある者はダガーに舌なめずりをする。


 その全員が、例外無く鮮血で全身を赤黒く染めていた。ひどい人なんか、頭のてっぺんから腰辺りまで血で染まり、現在もひたひたと返り血が滴っている。


 この人たち、どこかの商隊を血祭りにあげた直後の盗賊団かなんかじゃないの?


 少なくとも、一度会っていなければ、アタシは全力で彼らから逃げ出していたと思うよ。


「そんで奥様、このチンピラ共はどうしやす?皆殺しですかい?」


 見るからにチンピラの風体な男性がそう尋ねてきた。なんで最初の発想が皆殺しなのか、全く理解できないけど。


「今回の事件の共犯者です。正式な取り調べをする必要がありますので、殺してはいけませんよ」

「「「うぃ~っす」」」


 どうやらアタシの指示にも従ってくれるらしい。三人の男性隊員がひょいっとクライス達を肩に担いでくれた。


「スタンピードはどうなりましたか?」

「すたん?ああ、魔獣の侵攻なら、問題無く殲滅しやした。隊長がいねえんで、どこまれやればいいんかわからねえから、動く物は全部ってかんじでさあ」


 まさかとは思うけど、一般人もやっちゃってないよね?信じても良いんだよね?


 なんてことを考えるほどには、この人たちの見た目は恐ろしかった。


 リクスも、盗賊よりも盗賊らしい、なんて言ってたから不安の種は消えることは無かった。


 でも、強さだけは信頼できる。あのAランク魔獣のブリリアンバッファローを一蹴したんだから。


「それで、他の部隊の人たちはどこに?まさか、やられたとか?」


 先ほどから、野盗集団・・・・・・精鋭部隊の人たちしかいないのだ。もう少しまともな・・・・・・話が通じそうな・・・・・・常識がありそうな・・・・・・


 失礼の無い言い回しが思いつかないんだけど、他の部隊の人たちがいない。


 さすがに音楽による強化が無ければ、Aランク魔獣が率いる1000の魔獣相手にも苦戦したに違いない。


もしかしたら、彼らしか生き残れなかったんじゃ・・・・・・


「いや、あいつら返り血が気持ち悪いってんで、水浴びしてから合流する予定でして。ああ、もちろん誰もケガなんかしてませんぜ?」

「あんたらも少しはきれいにしてから来なさいよ!見た目怖いんだから!門番がいたら間違えなく捕まってるわよ!一仕事終えた盗賊にしか見えないんだから!心配して損したわよ!」


 思わず本音をポロリとこぼしてしまった。


最近自分の考えや感情が表に出やすくなってしまったように思う。これでは、公爵家の令嬢として失格だな。


自分の気持ちを押し殺して愛想笑いをして、言葉の裏を読みながら腹の探り合いをする。自分の弱みを見せないように振る舞いながら、相手の弱みを探すような生活に疲れてしまっていたんだと思う。


それに気が付いたのは、殿下が下級貴族の令嬢とデートをしているなんて話を聞いた時だ。アタシとは月に一度のお茶会でしか会わないのに、他の女とデートだなんてって頭にきたけど、そんな感情はすぐにどこかへ消えてしまった。


元々殿下との間に愛だの恋だのといった感情は無かった。貴族令嬢としての義務感で役割をこなしてきただけだ。自分で望んで殿下の婚約者になったわけではない。


だったら、もう縛られる必要はないんじゃないか。


アタシが殿下のお気に入りの令嬢に嫌がらせをしているという噂が出回った時も、わざわざ訂正しなかった。婚約破棄の口実にでも使われれば良いとさえ思った。


でも、いざ婚約破棄を突きつけられた時に、イラっとしちゃったんだよなぁ。あのエリファとかいう女の胸を・・・・・・媚びるような顔を見て、こいつだけは将来の王妃にしてはならないと思ってしまった。


だから、あの会場の中で最も有力な貴族家であるリクスにエスコートをお願いした。


エンディール家とフォーリーズ家は殿下の王位継承を認めないと印象付けるために。


なぜかプロポーズされてしまい、アタシも了承してしまったのだけど、今ではそれが最高の結果になったと思う。


殿下の王位継承を後押しする上級貴族が激減したし、シリウスの病気を治してもらえたんだから。


それに、あいつと一緒にいるのは楽しいし。


だから、あいつと一緒にこれからも歩むために、今アタシに出来ることをやらなくっちゃ。


「精鋭部隊の皆さん、良く聞いてください。今現在、リクスと楽隊の皆さんはボスクラスの魔獣と戦闘しています」


 その言葉に、精鋭部隊の面々の表情が険しくなる。彼らでも、ボスクラスの魔獣と戦うとなれば、命がけとなるのだろう。


「私は、リクスの剣であり盾であるあなたたち全員を彼の元まで連れて行くためにここまで来ました」

「わかったぜ、奥方様。今すぐにでも・・・・・・」

「いいえ。全員が揃ってからです。皆さんには、それぞれ役割があるのでしょう?」

「そりゃ、そうだけどよぉ」


 中途半端な戦力ではダメだ。連れて行くなら、ボスクラス魔獣を倒しうる戦力。それも、リクスのことを信頼し、彼の指揮に応えられる最高の戦力じゃなきゃ。


「と言う訳だから、あなたたちも他の部隊と合流し、状況を説明してきなさい。それから、速やかに返り血をどうにかなさい。大至急よ!」

「「「お、おお!」」」


 そう言って、精鋭部隊の面々は来た道を駆け戻って行った。


「随分と扱いになれてるんだな」


 精鋭部隊の後ろ姿を眺めながら、ギースが声をかけてきた。


 別に扱いになれているわけでは無い。ちょっと付き合いがあるだけだ。


「一応あの中にも、お嬢の部下がいるんだけどねぇ。すっかりシャリス嬢の命令を聞いちゃって」

「途中で裏切ったりしないでしょうね」

「それはないよ。始まりはお嬢が送り込んだ密偵だったけど、今ではリクス様に忠誠を捧げている。自分の命と引き換えにしてでも、彼らはリクス様を護るさ」


 それを聞いても、リクスは喜ばない気がする。あいつこそ、誰かのために自分を犠牲にする奴だ。自分のために誰かが死ぬことを、リクスは最も嫌うだろう。


「部隊の兵士を掌握してポイントを稼いだみたいだけど、お嬢は正妻の座をあきらめてはいないよ」

「だったら、そのお嬢も表に出て来て、正々堂々とアタシと勝負したらいいじゃない。リクスが危険な目にあっているのに、従者を一人寄越して終わりじゃ、とても本気とは思えないわね」

「つまり、シャリス嬢はかなり本気と言う訳だ」

「んな!」


 急になんてことを言い出すんだこの男は。わけわかんないこと言うから、物凄く顔が熱くなっちゃった。どうしてくれるのよ!


「うちのお嬢はその・・・・・・何というか、時期じゃないというか・・・・・・そんな感じだ」


 どんな感じか全くわからないけど、彼らには彼らの事情があるんだろう。今のところは深く突っ込む事はしないでおこう。


「大体、エンディール家は辺境伯家の次男坊との結婚なんて必要としてないだろ」


 フォーリーズ辺境伯家の兵は強力だ。この国一と言っても良いだろう。軍閥であるエンディール家としては、リクスとの婚姻に十分な意味がある。


 だけど、そんな政治的な利益なんかよりも、もっと大事なことがある。


「アタシはリクス・ヴィオ・フォーリーズに惹かれてるの。だから、彼との結婚はアタシがしたいことだわ」


 そう言って笑ったアタシの顔を見て、ギースは頭を抱えていた。





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