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 召喚石とは、魔力を蓄積させることにより、魔獣を召喚させることが出来る魔道具のことらしい。


蓄積させた魔力により、召喚できる魔獣が異なる。


今回のブリリアンバッファローのようなAランク魔獣を召喚するためには、10人以上の人間が1か月は魔力を込め続けなければならない。


 厄介なところは、魔獣を召喚したとしても、使役は出来ないということ。魔獣が全て邪神の眷属だからだ。


 今回のスタンピードでは、渓谷の深部で召喚石を使用して、ブリリアンバッファローに渓谷中の魔物を押し出させたという訳だ。


「ただ、召喚石が見つかっただけで犯人が特定できないんだ。召喚石を所持することは、王国法で禁止されていないから、趣味で集めている貴族や豪商はそこそこいる。サザーラ侯爵だって、趣味で集めていたと言われれば言い逃れられてしまう。せめて召喚石を使う瞬間を押さえられれば良いんだけどな」


 なんでそんなに危険な物の所持が禁止されていないんだという疑問はあるけれど、使用することは固く禁止されているらしい。


 剣や弓を持っていても犯罪にならないのと同じ理屈なのか?


「あなたたちは、どうやってその証拠を押さえるつもりなの?」

「相手が召喚石を使わざるを得ない状態に追い込むさ」

「どうやって?」

「・・・・・・」

「アタシ、良いことを思いついたんだけど」


 シャリスが微笑む。


 その笑みは、可憐な少女というよりは、意地の悪い悪徳令嬢のような笑みであった。





 シャリスを連れ出した翌日、俺は実に15日ぶりに登校した。


 登校早々、担任教師から「謹慎開け早々に無断欠席とは、随分と豪気ですね」とお褒めの言葉を賜ってしまったが、仕方が無いだろう。


「それにしても・・・・・・」


 教室の雰囲気が随分と変わっていた。中でも1番の変化は、我がクラスから第一王子がいなくなっていたことだ。


 学園側の配慮で、危険が及ぶ可能性のあるクラスから安全なクラスに移動させたらしい。


 どうして危険が及ぶかって?


 クラスの半数がエンディール公爵家の派閥。さらにフォーリーズ辺境伯家の派閥が数多くいる。


 表向きはまだシャリスは犯罪者で、俺はその婚約者。それも、事件が起こる1週間前まで学院を離れてこそこそ何かを企てていた、なんて吹聴されていれば、サザーラの派閥以外の者も危機感を覚えるだろう。


 そういった建前で、サザーラ侯爵の派閥が多くいる3組に移動となったらしい。3組には、先日シャリスに丸焼けにされたエリファ嬢も在籍しているとのことだ。


 危険な目に遭ったエリファ嬢を護ると、以前にも増して第一王子はエリファ嬢にべったりらしい。


 完全なマッチポンプである。


 真実を知った第一王子がどんな顔をするのか。特に興味は無いな。


「それで、三姉妹はなんで俺を囲んでいるの?」


 なぜか席に着くと舌打ち三姉妹が俺を囲むように立ち、こちらに尻を向けて仁王立ちしている。


 高位貴族が騎士にでも護られてるみたいだな。


「シャリス様がお戻りになるまでは、私たちがお護りいたします」

「リクス様に変な虫は近づけさせません」

「これ以上側室候補が増えると、娶ってもらえなくなってしまいますわ」


 アイナ嬢の言ってることが一番意味わからんけど、俺を護る気はあるらしい。何からかは不明だが。


しかし・・・・・・


「キミたちは、シャリスが無事に帰ってくると信じているんだね」

「「「もちろんですわ!」」」


 こういう時は息ぴったりだよね、この子たち。


 きっとこの子たちなら、大丈夫だろう。


「シャリスを助けるために、ちょっと協力して欲しいんだけど」


 そう言いながら、ばさりと紙の束を机の上に置いた。


「フォーリーズ辺境楽団?」

「特別コンサート?」

「開催決定?」


 一枚ずつ手に取り、文節ごとにセリフ分けをしながら、三人娘はチラシを読み上げた。


 そう、チラシである。


 なんでこうなってしまったのか、未だに俺の理解は追いついていないのだが、なんと3日後の放課後に、訓練場を貸し切ってコンサートを開催することになったのだ。


「このチラシを、出来るだけ多くの人に配ってもらいたい」

「それで、本当にシャリス様を救うことができるんですの?」

「大丈夫だ、とシャリスは言っていたよ」

「「「シャリス様が?」」」

「まあ、信じるかどうかはキミたちに任せるけどね」


 三姉妹は半信半疑ながらも了承してくれた。


 できればエンディール家の派閥の人たちにも声をかけて、大々的に配って欲しいと伝えた。


 さすがに三人で2000枚近いチラシを配るのは大変だろうしね。



 チラシ作戦は三姉妹に任せるとして、俺にはもう一つ仕事が残っている。不本意ではあるんだが、重要な仕事だ。


 俺は席を立ち、今まで遠巻きに俺を観察していた連中のところへ移動する。


 彼らは俺が近づくと、引きつった笑顔のまま硬直していた。


「キミたち、確かうちの寄子だったよね?ちょっと顔、貸してもらえる?」

「お、おおおおお、お許しくださいませリクス様!わ、わわ、私は決して、決してリクス様をないがしろにしていたわけではありません!」

「そ、そそそうでございます。ふぉ、フォー!フォーリーズ家には大恩がございます。ご子息のリクス様に、ふ、ふふふ、不敬を働くなど、ございません!」


 どういうわけか、硬直していた少年二人組は、突然ペコペコと頭を下げたり上げたりを繰り返している。さらに早口でまくしたてるように話しているから、何を言ってるのかいまいちわからない。


 これが公爵家の寄子と田舎貴族の寄子との違いということか。


「ここでは落ち着いて話も出来ないな。どうだろう、昼休みに校舎裏で・・・・・・」

「「お許しくださいませ~~~!」」


 なぜか全力疾走で教室から飛び出してしまった。これから授業が始まるというのに、大丈夫なのだろうか。


 仕方が無いので、他の寄子を探すことにする。


「すまないが、フォーリーズ家に縁のある者は・・・・・・」


 先ほどのやり取りを見ていたのだろうか?教室に居た子息令嬢の約3分の1が我先にと飛び出して行く。


 こいつらがきっとうちの寄子衆に違いない。


 そんな姿を見て、ちょっと悲しくなったよ。俺たちが毎日命がけで魔獣と戦っているのは、あいつらの生活を護るためでもあるんだから。


「ちょっとリクス様。こりゃ一体何の騒ぎだよ」


 始業間近になって、飛び出して行った連中と入れ替わるように、目をこすりながらギースが教室にやって来る。


「ちょっと作戦の下準備をね。チラシの方はエンディール家に縁のある人たちが手伝ってくれるそうだ。もう一つの方をこれからお願いしようとしたんだけど、この様さ」

「内容は話したのか?」

「いいや。声をかけただけ」


 ギースは苦笑しながらも、俺の肩に手を置いて「問題無い」と言ってくれた。


「そもそも、フォーリーズ家の寄子にやらせたんじゃ、相手に不審がられるぞ」

「確かになぁ。それじゃあ、ギースの主様の派閥にお願いできなかな?」

「動かすことはできるけど・・・・・・後々主様がキレるかもしれねえな。その時は、リクス様が助けてくれよ」

「わかったよ」



 この日から3日間。学園中で一つの話題が持ちきりとなった。


「リクス・ヴィオ・フォーリーズが邪法の力を用いて、こんさあととやらを開催し、王都で邪神の眷属を大量召喚しようとしている」


 これで大物がたくさん釣れたら良いな。






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