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 歓迎パーティから一夜明けて、今日から授業が始まる。学園の制服に袖を通し、ネクタイをきつく締めて頭を覚醒させ、マントを羽織って気合いを入れる。


 ちなみに、マントを羽織ることが許されるのは、国内外の生徒問わず、伯爵家以上の上級貴族のみだ。今では貴族も平民も平等に扱われるが、無礼打ちが許されていた時代では、知らずに上級貴族に無礼を働きその場で斬られる、なんてことが度々あったらしく、そうならないために上級貴族にはわかりやすくマントを羽織らせるようにしたんだとか。


 いつしかそれが学園の伝統みたいになり、今でも上級貴族のマント着用は義務付けられている。


 現在でも上級貴族家では手広く事業を行っているところが多いので、将来の就職先を見つけるコネクション作りには役立っているらしいが。辺境のフォーリーズにわざわざ就職したがる変わり者なんてほとんどいないから、俺がマントを羽織る意味があるのかは甚だ疑問ではあるのだが。


 どうにか真面目な生徒として振る舞い、昨夜の名誉挽回をしたい。せめて、悪目立ちしないポジションになるよう努力しよう。



 そう思っていた時期が、俺にもありました。


 自分の所属するクラスに入ると、案の定目立っている。女子からは侮蔑の視線を向けられ、男子は遠巻きに見ながら何かを話している奴らが多い。


 そして、一番の問題は・・・・・・


「おはようございます。殿下」

「お席はどちらになさいますか?」


 なぜか第一王子と同じクラスになってしまった!


 こういうのって、もっと上級貴族をばらしたりしないの?クラスなんて30人8クラスもあるんだよ。第一王子とその取り巻きの二人、俺を合わせるとマント組が4人もいるよ。


 取り巻きは取り巻きなんだから、王子と同じクラスでも良いだろうが、そこに俺まで混ぜなくてもよいでしょお!


 王子と取り巻きたちに見つからないように、そっと視線を逸らしてみたが、どうやら無駄だったらしい。取り巻きを従えた王子が、迷わずこちらに歩を進めている。


「貴様、フォーリーズ辺境伯家の者らしいな。名は?」

「はあ、リクスと申します」

「殿下に対して無礼であろう!頭が高いわ!」

「王族に対し、膝をつかぬとは何事か!」


 取り巻き怖いんですけど?名乗っただけなのに、なんでいきなり剣を向けられてるんだ意味わからん!


「ふん、辺境の田舎者は礼節も知らんらしい」

「魔獣番風情が、殿下と同じ教室で机を並べるとはな。いっそ馬小屋に机を置いた方が、居心地が良いのではないか?」

「は、はあ」


 めっちゃ煽ってくる取り巻き二人組。正直ぶん殴ってやりたいが、そんなことすれば俺の悪評がさらに加速する。ここは我慢です。こう見えて、我慢の出来る子なんです。


「二人とも、止めろ。授業初日から下らぬ言い合いなどするな」

「「は、申し訳ございません」」


 あんたはパーティで婚約破棄してましたけどね。取り巻きを諫めてくれたから、まあ感謝ですね。


 嵐は去り、三人は教室の一番前の席を陣取ったようだ。王族はなんでも一番が好きってか?最後尾に席を確保しといてラッキーだぜ。



 始業時間となり、全ての席が埋まる。俺の隣には、時間ぎりぎりに入って来た男子が座っている。俺がだいぶ早く教室に来てしまったため、俺の周囲には人が集まらず、登校が遅くなった生徒が仕方なしに座っていき、隣の席が埋まったのは、結局一番最後だった。


 王子の取り巻きとのやり取りを見ていた生徒たちなんか、座っていた席を移動して、可能な限り離れていきやがったし。きっと俺に話しかけてくれる奴なんていないんだ。もう、学校辞めても良いかしら?


「あんた、昨日シャリス嬢と婚約したっていう辺境伯家の次男様だろ?」

「え、お、ああ」


 そう思っていたら、以外にも隣の席のやつが話しかけてきた。まさか話しかけられると思っていなかったので、若干どもってしまったが、許容範囲だろう。


「俺はギース・ヴィオ・ハディル。南方にあるハディル子爵家の三男だ」

「リクス・ヴィオ・フォーリーズ。気軽にリクスと呼んでくれ」


 出来るだけさわやかに微笑みながらそう言って、そっと手を差し出す。ふふふ、こう見えてコミュ障では無いのだよ。


「ああ、よろしく頼むよ、リクス様」


 そう言って、ギースは俺の手を取った。その後すぐに教員が入ってきたため、彼とはそれ以上話ができなかった。


 そう言えば、俺の婚約者?様はさすがに別のクラスらしい。結局名前すら知らない状態で、果たして本当に婚約者と呼べるのか?そもそも、あちらとしてもこの婚約騒動は事故みたいなものだし、家同士でどうにか破談にしてくれるだろう。父上、兄様、ご迷惑おかけします!



 授業初日はオリエンテーション。クラスごとに学園の施設を見学して回る。ギースがいてくれたおかげで、俺はぼっちを回避できた。この調子で行けば、ぼっち飯も回避できるのでは?


「皆さん、こちらが訓練場になります。剣術、魔法の実習ではこちらを使います。毎日通う事になるでしょうから、しっかりと場所を覚えておいてください」


 訓練場と言われた建物は、ドーム状の建物で、土が敷き詰められた訓練スペースと、階段状に席が設置されている観覧スペースに別れており、かなりの広さがあった。訓練スペースと観覧スペースの間には、強力な防御魔法が施されているらしい。防御魔法がどの程度信頼できるのかはわからないが、学生が授業で使用する程度の魔法であれば、問題無く防ぐことが出来るらしい。


「先生、せっかくのオリエンテーションです。訓練場を使用して、一つ余興を催す許可を頂きたい」


 そう言って発言したのは、王子の取り巻きだった。ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら、なぜか俺の方を見てる?


「余興ですか?午前中はここで終わりですので、昼食までの時間であれば構いませんよ」

「せっかくの訓練場ですので、王国の盾として誉のある、フォーリーズ家の剣をお見せいただきたいのです」

「せんせー!うちの剣は寮に置いて来たんでここにはありませーん!さー、学生食堂に行きましょー」


 よーし、ここの学食は種類豊富でどれも上手いらしいからな。楽しみだぜ。


「剣を見せろとは、貴様の剣技を見せろということだ。そのようなこともわからんのか、この田舎者め!」

「えー、わかりませんけどー。大体、剣術の授業で嫌と言うほど手合わせするでしょー。なんで今なんですかー」


 そんな悪目立ちなんて絶対に嫌だし、なんかこいつの言う事聞くのも嫌だ。王子の取り巻きだからって、自分も偉い気持ちでいるのか?


「貴様、私を愚弄するか!相手は私がやってやる。さっさと準備をしろ」

「ふつーに嫌ですけど?大体、やってやるってなんですか?あんたに相手してもらいたいとは全く思いませんけど?」

「はっはっは、知っているぞ?貴様は身体強化はおろか、魔法全般が全く使えないそうではないか。皆の前で恥をかくのが嫌で逃げようとしているのだろう?そんな落ちこぼれが、よくもこの伝統あるベイリーン王立学園に入学できたものだ」

「・・・・・・」


 どうやら、俺のことはある程度調べてケンカを売っているらしい。別にバカにされるのは構わないが、ちょっとだけ頭にきちゃったよ?


「じゃあ、一勝負だけ受けましょう。ただし、勝負で私が勝ったら、金輪際ちょっかいをかけないでいただきたい。」

「良いだろう。その代り、私が勝てば貴様はこの学園から去ってもらう」


 こうして、俺と取り巻き野郎との剣術勝負が行われることになってしまった。





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