1-5

 なぜか俺はオリエンテーションの余興として、第一王子の取り巻き野郎と剣術勝負をすることとなった。




そこまでは良しとしよう。




しかし、問題が二つ。




一つは、取り巻き野郎の物言いがあまりにもムカついた俺が、勝ったときの報酬として『金輪際俺に関わるな』と言ったのに対し、取り巻き野郎は俺に『退学』を要求してきたこと。




俺の要求に対して、向こうの要求高くないですか?決闘ではないから、あくまで口約束に過ぎず、効力は無いに等しいが、そこでも俺の不満は強くなる。




そしてもう一つの問題。




午前中のオリエンテーションは、訓練場を最終目的地に設定されていたらしく、次々に別のクラスの連中が集まってきていること。




 そのため、各クラスの引率の教員が集まり、対応を協議している。協議などしないで、とっとと中止にしてくれれば良いと思うのは俺だけだろうか?




「リクス君、ちょっとこちらへ」




 協議を行っていた教員団に呼ばれたので、俺はその輪の中に加わった。剣術勝負を挑んできた取り巻き野郎も呼ばれたらしい。中止にする算段がついたのだろうか。




「学園側は、キミたちの決闘を正式に受理することとなった」


「は?」




 ただの剣術勝負のはずでは?こちらを見てニヤニヤしている取り巻き野郎はぶん殴ってやりたいが、決闘なんてしたくないですが?




「決闘についての取り決めだが、リクスくんが勝利した場合、『クライス・ヴィオ・ショリーシャ並びに、ボルド・ヴィオ・サザーラは、今後一切リクス・ヴィオ・フォーリーズとの関わりを持たないこと』とする。クライスくんが勝利した場合、『リクス・ヴィオ・フォーリーズはベイリーン王立学院を退学すること』とする」




 教員団の中で一番偉そうな先生(たしか学年主任とかいってた人)が、淡々と説明を続けていく。




「お待ちください。なぜ決闘などと大事になっているのでしょう?私はオリエンテーションの余興だと伺っておりますが?」


「おや、それはおかしいですな。勝負に勝った際の条件を付けたのは、リクスくんだと聞きましたが?」




 一番偉そうな先生の隣に居た、ひょろりとした眼鏡男性教諭が嫌味たっぷりにそう言った。人を小バカにしたような表情は、取り巻き野郎と同じだ。




「それは、その通りです」


「であれば、決闘はキミから申し込んだということになりますな」




 もしかして、また俺が知らない貴族の常識?勝った時の条件を付けた勝負が決闘になるんなら、この国は決闘で溢れているのではなかろうか。なぜかこの国の将来が不安になってしまったよ。




「リクス・ヴィオ・フォーリーズ。自分から言いだしたくせに、怖気づいたか?」




 ひょろ眼鏡先生と血縁関係でもあるんじゃなかろうか、というくらいそっくりな表情で煽ってくる取り巻き野郎。




 本当に今すぐぶん殴ってやりたい。




「貴様が泣いて許しを請えば、決闘は無かったことにしてやっても良いが、どうする?」


「いえ、結構ですよ。決闘をお受けします」




 だいたい、こいつはなんでもう勝った気でいるのだろう?今日学院が始まったばかりで、まだお互いの実力だって全くわからないはずなのだが?




「では、決闘方法だが、木剣を用いた剣術勝負。魔法の使用は認めるが、剣術勝負であることを忘れないように。判定は、相手が負けを認めるか、相手を戦闘不能にした方の勝利とする。また、相手を殺害した場合は失格とする。それでは、双方準備にかかりなさい」




 学年主任の先生がまとめると、教員団は解散し、それぞれ担当クラスの生徒がいる観覧席まで戻って行った。








 木剣を手にして軽く振ってみたが、どうにも軽い。普段から真剣しか振ったこと無いから、どうにもしっくりこない。




 それに、木剣だと相手にダメージを与えられるか不安だ。




 身体強化の魔法を使用すると、全身を魔力が包み込み防御力も向上する。普通は剣にも強化魔法を使用して、相手の防御を突破するのが定石だが、俺はどちらの魔法も使用しないからな。




 もしかしたら、相手に当たった瞬間にぼっきり折れるかもしれない。まあ、剣が折れた時は、本気であいつの顔面にグーパンを叩きこむけどね。




「ちょっとあなた!なんでこんなことになってるのよ!」




 なぜか観覧席から婚約者?様がやって来た。1年生が全員集まってるんだから、こいつがいるのも当然か。




「これはこれは我が婚約者様。本日も実に落ち着きがあり、素晴らしい形をしておりますね」


「にゃ!」




 猫かな?なぜか婚約者?様は一声鳴くと、首まで赤く染めながら胸元を両腕で隠してしまう。




「昨晩のドレスも素敵でしたが、制服も良くお似合いですね。自己主張が激しくないのが素晴らしいです」


「ちょ、ちょっと!こっちはあなたのこと心配して来てあげたのに、なんでアタシの胸の話しかしないのよ!」


「いや、制服はみんな同じ物だから、普通に着てたら自己主張なんかしないだろ?そっちが勝手に勘違いしたんだろ?」


「ぐぬぬ」




 ふふふ、どうやら彼女から一本取れたようだ。ぐぬぬ、なんて言う奴初めて見たけど。




「でもあなた、最初に素晴らしい形って言ったわ。これは、どう聞いたってアタシの胸の話よね」


「そんなことより、どうしてこんなところに?もうすぐ決闘が始まるんだけど」


「ちょ、話をそらして・・・・・・まあ、今は良いわ。それで?どうして退学をかけて決闘なんて話になってるの」




 それはこっちが聞きたいところなのだが、とりあえず今までの経緯を説明してやった。すると、彼女は取り巻き二人組に鋭い視線を向けながら、「やられたわ」とつぶやいた。




「殿下の取り巻き、ボルド・ヴィオ・サザーラの実家は、この学院の理事をやっているの。サザーラ家と同じ派閥の教員も多いし、抱きこんで決闘の申し込みがあったことにしたんでしょ。でも、あなたのクラス担任や、学年主任の先生はむしろ敵対派閥のはずなんだけど、数の暴力に負けちゃったのかしら」


「派閥、ねえ。だったら、学年主任やクラス担任も嬉々として決闘をやらせようとしたんじゃないの?」




 だって、うちのクラス担任と学年主任って、入学試験の時に別室で俺に試験をした試験管だもん。




「そんなわけないでしょ。あなたが今から決闘するクライスは、王都第二騎士団団長の子息よ。幼い頃から騎士団に混ざって訓練を受けていた。剣の実力は、中級騎士にも匹敵すると聞くわ」




 王都の中級騎士って、うちの領軍でいうところのどれくらいなんだろう。今一つ強さがつかめないんだけど。




「それに、さっき聞いたんだけど、あなた魔法が使えないって言うじゃない。身体強化も無しじゃ、大ケガするわよ」


「木剣なんだし、死ぬことは無いだろ?まあ、負ければ退学になるみたいだから、あんたと話をするのも、これが最後かもしれないな」


「バカ!こっちは本気で心配してるのに・・・・・・」


「じゃあさ、勝ったら一つ、ご褒美くれよ」


「な、なにが欲しいの。こ、婚約者って言っても、両家の承認が下りるまでは仮なんだから、え、えっちなことはダメよ」




 こいつ、俺のことなんだと思ってるんだ。それに、周りに人がいるんだから、顔を真っ赤にしながらエッチなこと、なんて大声で言わないでくれよ。女子生徒の視線が痛いだろ。




「俺が勝ったら、あんたの名前、教えてくれよ」


「リクス・・・・・・なんでまだアタシの名前知らないのよ!誰かに聞くとか!調べる努力しなさいよ!」


「いや、あんたのせいで、クラスで浮いてるんだよ」








「それでは、これよりリクス・ヴィオ・フォーリーズとクライス・ヴィオ・ショリーシャの決闘を始める。両者、準備は良いか」




 訓練場の中央で、クライスくんとやらと向かい合う。観覧席に座る生徒たちも、静まり返って決闘の合図を待っている。




 木剣を両手で持ち、構えをとりながら相手を睨み付ける。




「それでは、はじめ!」












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