第3話 アンチコメント
vtuberとして華やかにデビューした僕は、二年経った今でも順風満帆な配信活動を続けることができていた。
チャンネル登録者は遂に百万人を超え、男性vtuberの中では一番の知名度を誇ると自負し、客観的に見ても界隈のトップクラスをひた走る活動者で間違いなかった。
今日も日課の配信活動を終える。配信中、一つの投げ銭コメントが目についた。それを思い出し、僕は投げ銭コメントの一覧を立上げる。
数千円の投げ銭が十数件、万円代の投げ銭が三件うち一つが日の上限の五万円。約一時間の配信でなかなかの収益だ。
桜井『¥50000——私は30日後に死にます。だから、大好きなあなたに私の全財産を捧げます。残り29日』
物騒なコメントだ。こんなふざけたコメントをわざわざお金を支払って、強調表示させる目的はなんだ。
僕への嫌がらせか? それなら五万円を支払っている時点で意味はない。それともアラブの石油王だろうか。
「アンチの考えていることはわからん」
コーヒーを一杯流し込み、僕は溜息を吐く。
たまにこういったアンチに絡まれることはある。僕の視聴者の大半は女性だ。自分のファンだから世辞でも投げておくが、見識深く真面目で優しい常識人が多い。しかし、百万人もいれば、何を勘違いしたのか母親ズラ、彼女ズラするものいる。こういうこじらせた一部のファンが反転してアンチになることがあるのだ。
味方だったものが敵になる喪失感に最初は嘆いたが、それにも慣れた。
デビュー当初はどんな投げ銭コメントも必ず読んでいたが、今は目を通すだけで読むこともないので何の問題もない。
アンチはただ無駄にお金を支払っただけだ。
「ざまあみろ! ええっと……桜井さん?」
僕はPCをシャットダウンし、そのまま吸い込まれるようにベッドに入り眠りついた。
次に目覚めた時、僕はアンチ投げ銭コメントの『桜井』のことなんて一ミリも覚えてはいなかった。
清々しい朝の空気が全身を包み込む。
いつも通りの日常が今日も始まる。
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