第112話 色々やってみるの、わりと大事じゃね?
「なにこれ、すごい量入ってるじゃん。キャベツの千切り無限食い出来るじゃん」
「それすげー便利だぜ。俺袋にドレッシングかけて、そのまま食べるもん」
「だから皿に出せって」
「洗うの面倒なんだよ」
そう言って中園は入り口に売っていたサラダを手に取り、買い物カゴに入れた。
今日は土曜日で学校は休みだ。
紗良さんは用事があって出かけていて、今日は中園の家にいく事にした。
行きたい大学が決まり、目標がはっきりしてきた。
その結果、やっぱり一人暮らしをしたいと思っている。
母さんは「通えない距離じゃ無い」って言うけど、正直無理だと思う。
安城さんに聞いたら「あのゼミ、やること多いから近くに住んだ方が良いよ」と言っていた。
俺も編集してると時間経つのあっという間だし、マジでそう思う。
母さんの言い分は「陽都の生活能力じゃ無理でしょう」。
まあなんというかその通りで。こうなったら少しずつ家事信用貯金(?)を貯めて、家を出るしかない。
中園は親が離婚してることもあり、家事炊事のレベルがかなり高い。
なので、最近土曜日は前の家で一泊しているという中園の家にお邪魔することにした。
中園はカゴを手に持ち、
「陽都、今日泊まる?」
「帰る。何度も言うけど、あの家はマジで怖い。お前よくひとりであの家にいるよな」
「ていうか、俺がしてるゲームの大会って夜中にあるじゃん。この前大会出てたら『声がうるさい』ってクレーム入った」
「あー……なるほど。確かにマンションで深夜三時に声出すとかアウトかも」
中園がしてるゲームはアメリカが本場で、大会も日本時間だと深夜が多い。
確かにマンションだとキツそうだ。
「だから深夜の大会は元の家で配信したほうがいいかもって思って、今日一日家にいるから光ケーブルの工事も入れた。昼過ぎに来る」
「あの家セキュリティーガチにしたんだろ? なら大丈夫かもな」
「そう。金も払ってるし勿体ないかなって」
ストーカー騒ぎがあってから、セキュリティーの会社とも契約したらしいし、配信場所として使うのは悪くない気がする。
中園は大学も一芸(?)で行くらしく、最近ガチで配信活動をしている。
有名配信者とのゲームコラボとかはじめていて、最近ついにオリジナルキャラクターまで作られていた。
俺はカゴの中にこんにゃく畑みかん味を入れながら、
「そういや中園のアクスタ、見たよ。肩に黒猫乗せてるの、なにあれ」
「大昔にファンの人がファンアート描いてくれたんだけど、その時に肩に黒猫乗ってたんだよ。そのアイコンを長く使ってたから、なんかそのイメージあるっぽい。おい、こんにゃく畑入れるな。ひとり暮らしの練習するなら、金額上限決めろよ」
「こんにゃく畑無限食いしたくね?」
「陽都絶対好きなものだけ買って破産するタイプだろ」
「一食全部こんにゃく畑でもいい」
「絶対腹下す」
そう言って中園はゲラゲラ笑った。
一人暮らししたら、コンビニ飯とか牛丼とかラーメンとか、スナック菓子無限食いとか、すげーしたい。
そういう限界飯みたいなの憧れる。
中園は肉のゾーンを歩きながら、
「食べたいのは、唐揚げ? 唐揚げってムズいジャンルなんだけど」
「唐揚げの無限食いしたいんだよな」
「陽都さっきから無限食いしか言ってない」
「腹が減ってるんだよ」
「腹減った状態で買い物来るのマジすすめない。無駄なもの大量買いする」
中園はカゴの中に手慣れた手つきで品物を入れていく。
俺は普段スーパーに来ないから、全ての商品が新鮮に見える。
俺たちはスーパーで、特売になっていた焼き豚や、バカでかいウインナー、最近CMで流れはじめたお菓子も買った。
中園は「今食いたいものを買うな!」と怒ったけど、スーパー楽しいわ。
週末になると母さんは父さんに運転してもらって、郊外の大きなスーパーに買い出しに行っている。
いつも誘われるけど断ってた。でも楽しいから今度一緒にいこうっと。
「唐揚げの下味に、コレ使うとマジで旨くなる」
「あごだし浅漬け……漬物じゃん」
「俺もネットで知って試したんだけど、マジで旨い。これで作り始めてから俺の唐揚げランクが学食くらいまで上がった」
「学食はガチじゃん。いいじゃん、やろうぜ」
俺と中園は買い物を終えて飯作りをはじめた。
唐揚げマジで好物だから、無限食いしたい。外で買うと4個で300円とか高すぎる。
最低8個、許されるなら15個くらい食べたい。母さんに言えば作ってくれるけど、母さんも父さんも最近は「油がきつくて」とか言って、あんまり作ってくれないんだよなあ。
中園は切った鶏肉と、浅漬けの素をビニール袋に入れて冷蔵庫へ。そして俺のほうを見た。
「さて、飯が炊けるまで雑草切るか」
「えーーーーー、前にやったじゃん。またやるの?!」
「見ろよ、これ、ヤブガラシって言うんだけど、目を離すと、ほら」
「げ。電柱まで行ってる」
「パワーがスゲーんだよ。これ電柱までいくと通報されて面倒だから。じゃあ陽都は部屋に掃除機かけろよ」
「了解」
中園が頭にタオルを巻いて雑草を刈り始めたので、俺は部屋に掃除機をかけはじめた。
この家はマジで広くて、使ってない部屋は閉じてるらしいけど、中園はその中のひとつを配信部屋にすると言っていた。
掃除してると光ケーブルの工事業者が来て、大がかりな工事が始まった。
ここはわりと高い場所にある一軒家で、ケーブルはすぐそこまで来てたけど、ここまで持ってくるのは大変らしい。
一時間くらいかけて業者の人はケーブル工事をして、中園は庭仕事をしながら、俺は掃除をしながら対応した。
そして繋がった回線の速度テストをしたら、鬼クソ早くて中園と叫んだ。
中園は頭に巻いたタオルを取りながら、
「マジでこっちで配信しよ。こっち用のパソコン買うわ」
「金持ちじゃん」
「この前大会の賞金出たんだよ。やりがいあるわ。俺夜中にもっとゲームしたいんだよな」
「それで学校で寝る……と。お前この前の中間、マジでヤバかっただろ」
「本気でヤバい。先生に最低3取らないと大学推薦無理だって言われてる」
「お前今2祭りじゃん。絶対無理、現時点では絶対無理」
「やべえんだよなあ~~~」
俺たちは「勉強しねーとやべー」と笑いながら、さっそく繋がったWi-Fiで音楽を流しながら夕ご飯を作り始めた。
秋が始まった庭は、カナカナと静かな虫の鳴き声が聞こえて気持ち良い。
開けっぱなしの窓からは夏の終わり、秋の始まりみたいな匂いがする。
中園は下味を付けた肉に、片栗粉を丁寧にまぶして、油の中に入れる。
そしてタイマーで丁寧に時間をはかって肉を揚げた。
俺も中園に教えてもらって、粉を付けて油に入れてみた。
指先に油が付いて叫んだ。クソ熱い! なんだこの競技!!
こういうの、母さんに聞いたら喜んで教えてくれるだろうけど「食べたいなら私が作るわ」って言われちゃうんだよな。
俺と中園は、わーわー言いながら唐揚げを揚げた。
三十分後、お皿に山盛りの唐揚げが出来上がった。
「はい出来上がり」
「……やべぇ、皿に大盛りの唐揚げ、これぞドリーム。写真撮って良い?」
「いいな。俺もSNS更新しろって言われてるから、写真撮ってあげよ」
俺たちは揚げに揚げた唐揚げ二キロの写真を撮った。
せっかく作るのに足りないとかイヤだし、他に何も要らない。
唐揚げと白飯だけでいい!! 野菜なんて邪魔だ!!
俺と中園は唐揚げをブロックのように高くなるように積み上げて、写真を撮った。
中園はそれをSNSに、俺は紗良さんに送った。
そして唐揚げを食べてみたら、
「……!! すげー旨い、なんだこれ。やべえ!! 今まで食べた塩唐揚げの中で一番うめぇ」
「な。マジでジューシー&カリカリ。最高だから」
「うま!!」
浅漬けの素……? と思ったけれど、全然漬物の味なんてしなくて、すげー旨い塩唐揚げになった。
どゆこと? 取りあえず旨いからヨシ!
中園と「うめーうめー」と言いながら二キロ完食して部屋に転がった。幸せすぎる……。
俺はあまりに美味しかったので、その浅漬けの素の写真を撮り、帰り道にスーパーでそれを買った。
一回やってみよっと。
そしてお天気が良さそうな日、家の台所で唐揚げを作ることにした。
母さんは「え?! 突然唐揚げ? そんなの難しいんじゃない?」と大騒ぎしていたけれど、出来上がったのをひとつ食べさせたら「……あらすごく美味しい。上手、すごいわね」と褒めてくれた。
油の管理さえ出来たら唐揚げ簡単じゃね?
俺はそれを弁当箱に詰めて学校に持って行き、お昼時に紗良さんの前に出してみた。
紗良さんは目を輝かせて唐揚げを口に運び、
「んっ、陽都くん、これすごく美味しいわ。カリカリしてて、すごくジューシー」
「だろ? 中園の家で作って教えてもらったんだよ。今日天気が良さそうだから、作って持って来た」
「すごいすごい、すごく美味しいー!」
そう言って屋上で紗良さんは笑顔を見せた。
この屋上は内田先生の奴隷になり、掃除をすることを条件に俺と紗良さんだけが出入りを許されている秘密の場所だ。
だからたまにふたりでこっそりとお弁当を食べている。
付き合っていることを公言してから、ふたりで教室を抜けられるようになったのが嬉しい。
紗良さんは、青空の下で気持ち良さそうに髪の毛を揺らして顔を上げて、
「今日屋上でお弁当にしようって言われたから、私も最近ハマってる卵焼き多めに持ってきたの。どうぞ?」
そう言って紗良さんはお弁当箱から、ふたつ卵焼きを出して渡してくれた。
それは小さいのにちゃんとクルクルに巻かれていて、甘くてすごく美味しかった。
紗良さんは食べながら、
「実はホットサンドが食べたくてね」
「ホットサンド? なんだっけ、あのパンで挟むやつ?」
「そう、ネットで見て、すごく美味しいって言うから作りたくて、ホットサンドが焼けるフライパンを買ったの。こんなの」
そう言って見せてくれたのは上も下もフライパン? みたいな器具だった。
紗良さんは小さく唇を尖らせて、
「買ってさっそくホットサンドを作ったんだけど、ホットサンドってちょっと分厚いパンを二枚使うの。パンをギュッと潰しても結局パン二枚でしょ? 美味しいんだけど食べるのが大変で。でも薄いパンだとホットサンドっぽくならなくて。だから買ったけど使わないかなー……って思ったの。でもね、これ四角でしょ、だから卵焼きが上手に焼けるって気がついちゃった!」
「おお~~、なるほど。確かに卵焼き焼くフライパンって四角いよな」
「そうなの! すごく上手に焼けるんだよ、楽しくて!」
そう言って紗良さんは「こうして、こうして、えいっ、えいってすると、裏返しに簡単にできるの!」と笑顔を見せた。
手にフライパンを持ってる風に手を振り回す紗良さんが可愛すぎる。
冬になるまでお天気が良い日は、たまにこうしてお弁当の会を開こうと話した。
俺も紗良さんが笑顔で食べてくれるなら料理を続け……たい、な!
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