第50話 甘い香りに包まれた夜に

 吉野さんの甘い香りに包まれて、俺はクラクラしはじめていた。

 吉野さんの唇は細くて柔らかくて、甘い。

 その唇に唇で触れているだけで、身体が溶けてしまいそうになる。

 キスをしていると、吉野さんが俺の頭を抱えるように抱き寄せてくる。

 その引力に俺はあらがえない、堕ちていく。

 熱い俺の身体と、柔らかい吉野さんの身体が溶けてひとつになっていく。

 はじめて舌で触れた吉野さんの中を、かき回したくて衝動が止められない。

 ……けど、これ、絶対にやばいっ……!!!

 俺は磁石のようにくっついてしまいそうな身体を無理矢理引き剥がして吉野さんから離れた。

 ……やばい、本当にヤバイ。こうして理性がふっとんでヤベー行動に出るんだな、わかる、わかるぞ。

 だめな男の思想がはじめてわかった!!


「……死ぬ」


 首を振って思わず呟くと、吉野さんが小さく腕を広げたまま首をコテンとさせた。


「もうおしまい?」

「?!?! 吉野さん……ダメだっ……もう俺は俺が何をするのかわからないっ……!! 死ぬっ……!!」


 もうおしまい? じゃない。

 これ以上キスを続けたら理性がすべて吹っ飛んで絶対やべーことになる。

 吉野さんは椅子から立ち上がって、穿いていたスエットのウエスト部分を握った。

 そして俺のほうをいたずらっ子のような表情で見る。


「?!?! 吉野さん?!?!」


 俺が言うと、吉野さんはスエットのウエスト部分を掴んで、長ズボンをするすると下ろし始めた。

 ええええええ?!?!?!

 俺はあまりのことに目を閉じたいけど、見たい欲には抗えずじっと見てしまう。

 吉野さんが長ズボンのスエットを脱ぐと、下からモコモコしたショートパンツのパジャマが出てきた。


「じゃーん。えへへ。やっぱり見せたくてこれだけ持って来たの。それでね、温泉出た時に中に穿いたんだよ。どうかな?」


 モコモコの薄いピンク色のショーパンから吉野さんの長くて細い足がすらりと伸びている。


「おねだりして買ってもらったの。もしね、チャンスがあったら見せたいっ! て思って中に穿いてたんだよー。もうね中でモコモコしてて変な感じだったけど、見せられて良かった。えへへへ」


 そう言ってモコモコショートパンツの裾を少しだけ広げた。

 あああああパンツが出てくると思って妄想してごめんなさい……でもそうだったらぶっ倒れてた……ていうか、俺に見せたくて下にずっと穿いてたなんて……めちゃくちゃ可愛い、もうこんなのどうしよう。

 せっかくだからゆっくりとモコモコショーパンの吉野さんを見る。

 ピンクでモコモコしていて、薄い水色のラインが入っている。

 腰紐の所に星形のマークが付いていて、キラキラと光っている。

 なにより吉野さんの足は細いだけじゃなくて、太ももが少し太めで、そこが最高に良い。

 白くて丸めの吉野さんの太ももが、短いショートパンツから出ていて……。


「可愛い?」

「……最高です、ありがとうございます……」


 俺は何度も頷いて言った。

 吉野さんはもう一度椅子に座り、


「ん」


 と両腕を広げた。

 椅子に座ったことで更に短くなったショーパンと広がった太もも、丸くて小さな膝。

 俺は顔を両手で隠して悶える。


「くっ……くうう……」

「抱っこ」


 モコモコショートパンツで抱っこをねだる吉野さんを前に、その要求を断れる男がいるだろうか、いや居ない。

 俺は吸い込まれるように吉野さんを抱き寄せた。

「えへへ」

 吉野さんは椅子の上に足を乗せて膝を折り、両膝で俺の身体を挟んだ。

 俺の身体の左右にある吉野さんのムチムチとした太ももと、丸くて可愛い膝と細い膝下、そしてモコモコショートパンツ、そして目の前には艶々した唇でいたずらっ子のような目で俺をみる吉野さん。心臓がバクバクして触れている所から吉野さんに伝わってしまいそうで、息が苦しい。

 そして吉野さんは薄く目を閉じた。

 俺は吸い寄せられるように吉野さんの唇にキスをした。

 軽く触れるように甘く優しく確かめるように、そのたびに吉野さんの足が俺の身体をキュッと強く挟んでくる。

 俺が吉野さんの中を舐めると、ピクンと強く足で俺を挟んでくる。

 その反応が楽しくて何度も吉野さんにキスをする。

 吉野さんは俺の腕を掴んで、ゆっくりと自分の太ももの方に誘導した。

 吉野さんは、

「……ふ」

 と吐息を吐いて俺から少しだけ顔を離して、

「触ってもいいよ?」

 とコテンと首を動かした。

 戸惑いながらも吉野さんの太ももに掌全体で触れると、雪みたいに柔らかくて温かい。

 指を動かすと、

「……ん」

 と吉野さんが目を細めて俺を見た。そして細い唇が開いて艶やかに光る舌が見えた。

 っ……、もう本当に、これ以上は理性が完全に崩壊する!!

 俺は吉野さんから離れて机にバスンと頭をぶつけた。

 すると台所の籠に置いてあったリンゴがゴチンと落ちてコロコロと転がり俺の頭にコツンと当たった。


「……辻尾くん……? 大丈夫?」

「もうダメだ、人生のクリエーションが破壊された……」


 俺は言葉を絞り出した。

 なんかすげー吉野さんとキスしたいとか、触れたいとか、色々思ってたけど、吉野さんの俺を挟む足がピクピクしてたのとか、吉野さんが吐いていた吐息とか、もう全部俺のエロ妄想を軽くこえていた。

 当分どんなエロ動画みても、このことしか思い出せそうにない。

 終了ーーーー!!

 俺が机に転がっていると吉野さんが横にちょこんと膝を抱えて座り、


「……どういうこと?」


 と微笑んだ。俺は頭を何度も振りながら、


「頭の中が吉野さんでいっぱいで、何も考えられない……」

「私も、自分からしたのに思ったより、ドキドキしちゃったよ。でもモコモコショートパンツ見せられて良かったあ」


 と無邪気に笑顔を見せた。そんな……俺は当分立ち上がれそうにないのに……。

 吉野さんは冷蔵庫にあった牛乳を電子レンジで温めてホットミルクを作ってくれた。残ってたチョコもマシュマロも乗せて甘くしてくれた頃には俺も落ち着いて、それを一緒に飲んだ。

 外からは静かな波音が聞こえて、横に座っている吉野さんはたまに俺の頬にキスしてくれて、幸せで首筋に頭を埋めた。

 こんな状態で何かできるはずもなく、俺はPCを片付けてリビングに戻り眠ることにした。

 すると丁度屋根裏から三人が下りてきた。


「紗良っちー! 屋根裏すごかったよーー! 完全に秘密基地!!」

 中園はあくびをしながら、

「編集おわったん?」

「……あらかた。明日にはアップできそう」

 平手は苦笑して、

「天体望遠鏡、中園くん全然扱えないんだ。すごく良いものだと思うけど」

「わり、全然わかんなかった。俺理科苦手だから」

「理科ってレベルかな?」


 穂華さんと吉野さんは女子の部屋に入り、俺たち三人も部屋に戻った。

 ああ、すごく楽しかった。台所でショートパンツになった吉野さん……ものすごく可愛かったし、なによりもう……キスが。

 余韻に浸りたくて布団に飛び込むと、俺の布団に中園が入ってきた。


「陽都と遊びたりない」

「は? 12時!! 24時!! 子どもはねんねの時間!!」

「陽都と寝る」

「やめろおおおきめええええ!!」


 吉野さんとのことを思い出してニヤニヤしたかったのに、中園が俺の布団でテトリスをはじめてしまった。

 平手も参加してワイワイと騒ぐ。ああああ……余韻に浸りたかったのに……ああああ。






「おっはようございまぁす! このパン、中園くんのお父さんが朝買ってきてくれたんですけど、超おいしいです!!」

「おはよう穂華さん……」

「眠そうですね?! あの後すぐに寝たんじゃないんですか? ん。ヨーグルトも美味しい~~」

 

 穂華さんはハイテンションで朝食を食べているが、男三人は完全に寝不足。

 テトリスが終わって寝ようとしたら、中園が怪談をはじめて最悪だった。

 その怪談はふつうの怪談じゃない。今まで会ったなかで怖かった女怪談。

 「配信終わってドア開けたら外にいた」とか「イベントでもらった荷物開いたら女の顔写真入りケーキだった」とか「DM来たから開いたらエロ動画で、私の胸を見たから付き合えって強要された」とか、どいつもこいつもマジで怪談な上に面白すぎる。

 どうしてそんな女にばかりモテるのか意味不明だ。

 三時くらいに話し飽きた中園は俺の布団で勝手に眠り、俺と平手が取り残された。

 でも平手もすぐに眠り、俺は仕方なく呆然と朝日を見ていたら、いつの間にか寝ていた。

 どう思い出しても、


「……地獄」

「陽都はよー! いやあ、面白かっただろ、俺の怪談」

「やめろ、朝から思い出させるな。それにあんなの怪談じゃねーよ、ただの面白話だ」


 ワイワイと朝ご飯を食べていると、吉野さんが来た。


「おはよう、辻尾くん」

「おはよう、吉野さん」

「オレンジジュース、飲む?」

「あ、大丈夫取ってくるよ」


 一緒に台所に向かいオレンジジュースを出していたら、吉野さんは穿いていたスエットの腰に少しふれて中からモコモコショートパンツを少しだけ見せた。

 そしてにこりと本当に嬉しそうに目を細めた。

 俺は昨日のことを思い出して手に持っていたコップを落としそうになって慌てて力を入れた。

 吉野さんの破壊力半端じゃない……。


 俺たちは少し撮影をして家に帰ることにした。

 結局中園と中園のお父さんが話してる時間は1分も無かった気がする。

 それに中園のお父さん、昨日は外していた指輪を今日はしていた。

 ……よく分からない。

 でもなんだかやっぱりそれを俺は好きにはなれなくて、また来なきゃいけないなら、一緒に来ようと思った。

 



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