第34話 まさかの再会

 昼休み。

 昼飯を食い終わった俺たちは部室にいた。

 あまりに部室が汚くて、作業を始める前にもう少しキレイにしたくて俺は掃除をしているが、中園はパソコンでネット。

 平手は漫画を読み、穂華さんと吉野さんは窓際でお菓子を食べている。

 ほこりが気になるのは俺だけか? このグチャグチャになってるケーブルを見るとキレイにしたくなる。

 やっぱり一度全部抜く……と掃除していたら、パソコン画面を見ていた中園が声をあげた。


「おい、陽都。JKコンの部活部門、新山にいやまこころいるじゃん」

「は……? マジかよ……」


 俺は引っこ抜いていたケーブルを持ったまま中園の横の椅子に座った。


「アイドル? 私が知ってる子かな?」


 窓際でお菓子を食べていた穂華さんがトコトコと寄ってきた。

 中園は「ええの?」という雰囲気で俺のほうをチラリと見た。

 なんというか、こういう時に俺のことを気にしてくれるから中園はいいよな。

 まあ、このメンバーなら知られてもいいかな。

 俺は大きなため息をついて、


「俺中学の時に、新山を盗撮したって言われて、陸上部やめてるんだよ。当然えん罪だけどクソ面倒だった」

「え~~?! マジで? えん罪とかヤバすぎ~~~?! どの子?!」


 穂華さんは中園の横の席に座った。

 中園は画面を手で隠して、穂華さんの方を見た。


「ちょっとまって穂華ちゃん。目を閉じてて」

「ふむふむ、準備できましたよ」

「ほい、どうぞ」

「ほえ~、立派なお胸~うわ、腰細、ケツデカ、足細! アニメキャラじゃん!」

「ほい、顔どうぞ」

「え、昭和。どうして聖子ちゃんカットなの?」

「顔がな~なんか古くさくて本人もそれ知ってて、開き直りからの聖子ちゃんカットなんだよな~~」


 そう言って中園は手を叩いて爆笑した。

 新山こころは、とにかくスタイルが良いので有名な子だった。Fカップの巨乳に細い腰、大きなお尻に細い足……とにかくスタイルがすごい。

 本人は走るのが好きで陸上部に所属していたけど、そのスタイルゆえ彼女を一目見たくて練習をのぞきに来る変態が多発した。

 漫画を横に置いてスマホで画面を見ていた平手が口を開く。


「エントリー高校……久米工業。あそこわりとガチだから珍しいね」


 中園は頷いて、

「新山の家は車の修理工場してて、親に言われて工学部行ったはず」

 横から画面をのぞき込んだ穂華さんは、

「エントリー部活……新山部」

「相撲部屋か!!!」

 中園は手を叩いて笑った。

 そんなこと言ったら俺たちだって、元映画部をエントリーのためだけに復活されて利用しようとしてるんだから、事実上『穂華部』ではある気がする。

 俺はエントリー画面の横にあった紹介動画を再生する。

 そこには工学部も何も関係ない、ただ海で撮影した動画が流れ始めた。

 強調されるのはとにかく身体……お約束の白い水着……そしてこれは間違いなく宇佐美が撮影したものだと分かる。

 カメラワークとか編集とかにクセがあるんだ。ずっと一緒に撮影してたから俺には分かる。

 たしか宇佐美も久米工業に行った気がする。きっと……新山部を作ったのは宇佐美だ。

 俺は過去を思い出してため息をついた。



 中二の夏休み。

 新山こころの練習風景がネットにアップされた。

 それはもう、しつこく新山の胸に集中した動画で、かなり遠くの場所から撮影してるのが分かった。

 二度、三度とネットにアップされていたが、まだ犯人が捕まって無かった頃。

 部活が始まるので部室に入ろうとしたら、中から声がした。

「最近部活にいないヤツが怪しくね? だから俺は正直陽都だと思う」

 そう言っていたのは同じ陸上部で写真撮影仲間だった宇佐美英人うさみひでとだった。

 俺はあの当時足首を痛めていて、部活には参加してなかった。

 でも治ってやっと参加しようかな……そう思っていた矢先の出来事だった。

 幼稚園から一緒で仲よくて、俺と同じように撮影するのが好きで、たまに親の一眼レフ勝手に借りて出かけていた親友……そう思っていた宇佐美に影でそう言われていたのを知って、その場から逃げ出した。

 結局犯人は自ら名乗り出るような状態で、新山の前で……まあなんというか露出をして、そのまま捕まった。

 近所に住む普通の会社員が犯人でネットのニュースにもなっていたはずだ。

 だから俺の濡れ衣はすぐに晴れたけど、宇佐美に裏切られたのが辛すぎた。

 そして宇佐美の家と俺の家は仲が良くて、家族みんなで出かけたことも何度かある。

 宇佐美は俺を疑ったことなんて全く言わず、普通に接しようとしてきた。

 もうそれが辛くて仕方が無かった。

 それを全部母さんにいうのがイヤで全部含めて何も言いたくなくて、学校にいくのがイヤになった。

 中学の時から友達になった中園はずっと「いやいや陽都は胸に興味ない。好きなのは足」と言っていた。

 いや、ちょっとまて。俺を信頼してるんじゃなくて、俺の性癖を信頼してるのか? と正直今になって笑ってしまうけど、まあどちらかというと足のが好きだ。

 でもそんなの関係なく……中園が俺を信じてるのは分かった。


 

 俺は中園の横に座り、

「……これ撮影してるの宇佐美だろ」

 中園は、

「陽都、宇佐美のインスタ見てないだろ。アイツ学校で新山のファンクラブみたいなことしてるんだよ」

 そう言って中園が見せてくれた宇佐美のインスタには、新山の写真で溢れかえっていた。

 不自然なほど胸元を開けた制服を着た新山が『JKコンに参加します! 一日一回投票できるからよろしくね!』と飛び跳ねていたり、男子生徒30人ほどに囲まれた新山が『投票よろしくね!』と真ん中に立っていたり。

 宇佐美のインスタなのに、映っているのは新山のみ。

 コメントも新山のファンが多いように見えた。

 それを見て平手は、

「工業高校の姫ってやつだ。これも計算してやるタイプの子?」

 中園は軽く頷きながら、

「男に囲まれるのが好きなのは昔からだな。ていうか男と以外一緒にいたのを見たことが無いタイプだ」

 それを聞きながら、俺は椅子にもたれて思った。


 ……なんかすっげーイヤになってきたなーー。JKコンを手伝うのが。 


 なんでわざわざ嫌いな奴らがいる所に出向かなきゃいけないのか分からない。

 もう忘れてたのに、新山の顔を見ただけで宇佐美が言ってたことを思い出してイライラしてきた。

 穂華さんと中園がワイワイと騒ぎながらサイトを見ている横で俺はため息をついた。

 ぼんやり遠くを見ていた視界に、小さな箱が見えた。


「お菓子たべない? 最近ハマってるんだ。食べると、えっと、気持ちが落ち着いて」


 そう言って吉野さんが机の上に置いたのは、体育祭の時に俺が吉野さんにあげたキャラメルだった。

 吉野さんの気遣いが嬉しくて俺はキャラメルをひとつ手に持った。

 ひとつ開いて口に入れると、甘くて落ち着いた。


「……美味しい。ありがとう」

「キャラメル最近好きで、持ち歩いてるの」

「紗良っち、体育祭のときからハマってるね~」


 穂華さんもそういって笑いながら手を伸ばしてそれをひとつ口に入れた。

 そうだ、まずは落ち着いて考えよう。俺は長く息を吐いた。

 

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