第456話 無敵の変身超人
【神戸北署 駐車場】
「あ……あなたは……?」
呆然としたまま、雪は相手を見上げた。月明かりの下、警察署の裏のゲートで佇むメタルヒーローに対して。
相手は、名乗りを返した。
「俺の名は東慎一。妖怪ハンターの東慎一だ。山中竜太郎の頼みで来た」
「先生の……っ!?」
「ふむ。その反応ということはお前は奴の仲間か」
「は―――はい。そうです、山中竜太郎は俺の先生です!!俺は三井寺雪。好きに呼んでください」
「いいだろう。覚えておこう。それで、そっちがタコツボだな?」
「は、はい!」
「敵を片付けてくる。お前たちはそれを何としてでも守れ」
それで会話は終わりだった。東慎一は背を向け、敵勢へと向き直ったのである。手にカードを構えて。
戦闘開始だった。
◇
自衛隊に半ば包囲されながら、東慎一は嗤った。メタルヒーローのマスクの下で。
変身に使う玩具を呼んだら飛んできたのがまさかこれだったとは。山中竜太郎に敗れた時に使っていたのと同じヒーローのものだ。もっとも、メーカーは異なる。警察署の証拠品保管庫から飛んできたのだ、これは。海賊版、いわゆる違法コピー品なのだろう。自分と同じだ、と東慎一は自嘲する。
関係ない。本物だろうが偽物だろうが、正しいことのために振るわれる力であるならば。玩具自身もそう望んでいるからこそ、力を貸してくれる。
前方の戦車が第二射の態勢に入った。メタルヒーローの視界は高度なセンサー情報を統合する。戦車の内部の様子すら透視できる。避けるのは簡単だがそれでは後ろにまで被害が及ぶだろう。受け止めるしかない。
だから駆け出す。手にしたカードをベルトに挿入する。第二射が発射されるのと、ベルトが光を発するのは同時。
強烈なパワーフィールドがカード状になって前方へ展開される。それがバリアーとなり、砲弾を食い止める。爆風をものともしないバリアーがこちらへ迫ってくる。それを通り抜けた時、メタルヒーローの体躯は膨れ上がっていた。
二倍では効かないほどのボリューム。まるでゴリラのような、しかし不思議と均整の取れた超重装甲・大パワーを発揮する
74式戦車の38トンもの質量がわずかに浮かび上がった。砲身に手をかける。あっさりと捻じ曲げる。車体へと乗り上げようとしたところでキャタピラが回転し始めた。大したパワーではない。少なくとも
中では戦車兵(自衛隊だと兵ではなかった気がする)が呆然と、こちらを見上げていた。気絶している者もいるが。
「失せろ」
一言告げ、東慎一は戦車から飛び降りる。人を殺す趣味はない。それでも殺さねばならないのであればやるまでだが。山中竜太郎は言っていたそうだ。タコツボを守らねば何十万、何百万という人命が脅かされる。あの男が言うならばそうなのだろう。言伝を持ったゴンザが留置場にいる東慎一の下まで来たのは少し前のことだ。何かあれば明石のタコツボを守って欲しい、と。トリニティの協力を得て、東慎一はここへやって来た。間に合って幸いだ。通信は断絶し、地震が自然災害なのかどうか分からず、トリニティも混乱していたようだったから。
手に持ったままだった砲塔を縦にぶん投げる。それは放物線を描き、警察が築いたのだろう自動車のバリケードの向こうまで飛んでいき、そして装甲車のど真ん中に大きなへこみを与えて転がっていった。砲塔をぶつけられるとあんな風に壊れるらしい。初めて知った。元来た方へ向き直り、腰の銃を手にすると同時に反対の手でカードをベルトへ挿入。連射モードに切り替えると左手側、緩やかな坂の下の方に向けて撃ちまくる。
自衛官たちがなすすべもなく逃れて行った。反撃の銃撃が来る。グレネードが直撃。問題ない。重装甲の前では効きはしない。火花が散り、装甲が汚れるだけだ。そうはいうもののまたカードを取り出す。ベルトに挿入。反対へと向き直りながら
東慎一は何十メートルも跳躍すると、敵勢へ襲い掛かった。
◇
―――おのれ。なんだ。何者なのだ、あのメタルヒーローは!?
まるでテレビの特撮から抜け出てきたかのような姿の
ダンタリオンは知らなかった。円卓が神戸コミュニティのマークを始めたのは去年の年末から。要注意とされる妖怪のピックアップも行われていたが、去年竜太郎に倒され、普通の人間の犯罪者としておとなしく警察で収監されていた東慎一について、知る機会は存在しなかったのだ。
縦横無尽に飛び回るメタルヒーローに為す術もなくやられていく配下の自衛官たち。人間はあのような動きをするものを攻撃する訓練を受けていない。当たっても小銃では効かない。動きが全く読めない!!たちまちのうちに、兵力の半分以上がたった一人に倒されたのである。戦車や装甲車は全滅だ。高機動車が数両と、二十名ばかりの自衛官が残された戦力のすべてである。
かくなる上は自らが相手をするより他はない。勝てるかどうかは分からぬ。それでもタコツボだけは破壊せねば!!
ダンタリオンは、高機動車を飛び出した。
◇
―――なかなか骨が折れる。
もはや何人目か分からない自衛官を腰から抜いたレーザーブレードで切り裂きながら、東慎一は独り言ちた。
切り裂くと言っても殺してはいない。四肢を切断しただけだ。傷口は焼き切れるから失血死する恐れはなかろう。もちろん運が悪ければそれでも死ぬ。だがそれ以上はどうしようもない。こんな大勢を相手にするのだ。無力化するためにはやむを得なかった。後に死屍累々と負傷者を転がしながら東慎一は前進したのである。
緩やかな坂の上の方に立ちはだかる者の姿が見えた。指揮官クラスか。あいつが操っている元凶?それともこいつも操り人形に過ぎないか。倒せば分かる。
対する指揮官は鉄帽を脱ぎ捨て両腕を広げた。
「おのれ。お前は何者だ!」
「お前に教えてやる名はない、と言いたいところだがな。教えてやる。俺は東慎一。お前を地獄に送る男だ」
「そうか―――東慎一。貴様ほどの男が我々の情報網から洩れていたとは驚きだ。だが私もタダで帰るわけにはいかないのでね。果たさねばならぬ使命がある。
私の名はダンタリオン。勝負だ!!」
「よかろう。泣き面をさらすことになってもいいのであればな」
ダンタリオンの姿が急速に変異していった。昔のヨーロッパの貴族を思わせる服装に変わり、右手に現れたのは大きな書物。そして最も大きな変異はその頭に現れた。顔の中から顔が現れたのである。それも一つだけではない。二つ。四つ。八つ。十六。たちまちのうちにそれらは頭部全体で盛り上がり、老若男女問わず無数の顔を持つ怪人が生まれたのである。
ソロモン72の魔神、ダンタリオンの本性であった。
「行くぞ!!」
二つの強大な妖力が激突した。
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