第129話 宇宙戦闘

【宇宙空間 空飛ぶ円盤】


そこは宇宙船の操縦室であった。

空飛ぶ円盤。この種族が生まれたのは前世紀のことだ。宇宙への人々のあこがれ。やがてはそれが現実に手に入ったことと冷戦による危険なイメージ。それらが合わさることによって、宇宙からの来訪者としての空飛ぶ円盤は誕生した。乗員である宇宙人たちと共に。

もちろん空飛ぶ円盤は高度なテクノロジーの産物ではない。人間の妄想が実体化した生き物に過ぎない。宇宙人妖怪たちはそれを飼いならし、使役することで宇宙に適応している。空飛ぶ円盤とは宇宙人たちの家畜なのだ。

だから、操縦室に並んでいる機器類もおおよそ、まともな人間工学に則ったものではない。でたらめな電灯や配管。モニター。鍵盤。そういったものを読み取りあるいは操作することで操縦する。宇宙人妖怪たちもメカニズムを理解しているわけではなく、本能的にあるいは経験則でその操り方を知っているに過ぎない。

その操作に当たっているのは数名の宇宙人。グレイと呼ばれる、一応はヒューマノイド型をした種族であった。頭が大きく、首から下はひょろひょろで、体毛はなく、灰色の体を銀色の宇宙服で包み、目は黒くて大きなギョロ目。高度に発達した文明によって脳が肥大化し、体は退化した。と人々が信じた心から彼らは生まれたのだった。

その中で、今だに人間の姿を取ったままの者もいる。二名の黒服である。彼らメンインブラックも人類の都市伝説の産物だ。空飛ぶ円盤などを目撃した人のところに訪れ、「見たものをしゃべるな」と脅す謎のエージェントたちの姿を取っているのだった。この二人の正体もグレイであるが、他にもメンインブラックの姿を取る宇宙人妖怪は数多い。

そのうちの一方。小男で、ジョンという名を持つメンインブラックは上機嫌だった。任務は果たした。後は基地に帰還すればが待っている。ドクターが改造したあの娘を見たウルフはどんな顔をするだろう。娘自身に拷問させてもいいかもしれない。この邪悪な妖怪の頭の中は、昏い喜びでいっぱいだった。

と、そこへ。彼の思索を邪魔する報告が上がった。

「エージェント・ジョン。問題発生です。本船を追尾してくる物体あり」

「なんだと」

オペレータのモニターを覗き込む。そこに映っていたのは、小さな三角形の銀色。あれは、まさか。

「奴の戦闘機か。馬鹿な。破壊されていなかったのか。いや、誰が操縦している」

「どうされますか」

「引き離せるか」

「無理です。奴の方が速度は上なんですよ」

「ちっ。ならば撃ち落とせ」

「了解」

円盤の下部にある半球が割れ、中からビーム砲が姿を現す。先ほど真理を撃ったのもこれである。

慎重に照準がなされ、そしてオペレータは引き金を引いた。

「Fire!!」

ビームが、発射された。


  ◇


【宇宙空間】


正少年は、初めての宇宙に目を奪われていた。

たちまちのうちに地上は小さくなった。大気圏を飛び出し、眼下に広がるのは青い惑星の姿。限られた宇宙飛行士のみが目で見ることを許される世界に今、少年は足を踏み入れたのだった。

とはいえ心躍らせてばかりはいられない。何しろ彼らは、戦うためにここへ来たのだから。

前方では空飛ぶ円盤が小さく映る。いや、キャノピー上で拡大された。あれだ。

「撃墜しちゃダメだからね。飛べなくするのも駄目!この機体、二人しか乗れないから」

「分かってる!」

敵の意思をくじき、降伏させなければならない。そのためにも適度に痛めつけ、そして真理おねえさんが乗り込む隙を作るのだ。

警報が鳴った。敵にロックされたのだ。操縦桿を握る手をやわらかくする。極限まで集中力を高める。警報が最高潮になった瞬間、操縦桿を大きく振った。機体が旋回し、元の軌道をギザギサ光線が通り過ぎていく。避けられた!

2発。3発目を回避。そこで、円盤の下にある他の半球が割れ、更に多くのビーム砲が顔を出す。まずい。

一斉射。

「うわああああ!」

全てはかわしきれなかった。計器にあるシールドエネルギーの表示が減少する。これが失われた時が最後だ。

機体を立て直す。方向を確認する。

敵は次の斉射の準備をしていた。

どうすればいいかを思い出す。逃げ場がなくなった時に使うべき手段。教えられていた電磁バリアー生成操作をとる。

機体がローリング。翼の付け根に組み込まれた機構が強烈な電磁バリアーを発生させ、回転によって前面全てを覆い尽くす。

それは、撃ち込まれたいくつもの光線を跳ね返しただけではない。もと来た方に反射し、空飛ぶ円盤に命中させるという結果を招いたのである。

「や―――やった!?」

「いいえまだよ!」

煙を吹きながらも円盤は、最後に残った半球を展開した。そこから飛び出してきたのは―――ミサイル!まずい、あれは電磁バリアーでは防げない!

ミサイルが、発射される。

正は、ブラスターの安全装置を外した。

―――頼む。当たってくれ!

願いが通じたか、機首から放たれた光弾の一つはミサイルを破壊。爆炎を上げた。

それだけだけではない。

破壊されたミサイルは消滅せず、リング状に拡大。それはまっすぐこちらに向かってくる。避けられない!

そう思った瞬間にリングは消失し、機体の損傷は回復していた。

「―――え?」

正は知らなかったことだが、ブラスターはミサイルを破壊すると同時にその素材をに変化させていたのだ。これも原作ゲーム通り、破壊した物体からアイテムを手に入れることの再現であった。

「後少し。速度を合わせて!」

「わかった!」

もう距離はない。機体を反転させる。エンジン全開。急速に減速し、空飛ぶ円盤との相対速度は減少する。こうなればあちらも攻撃出来ない。減速中の宇宙戦闘機が破壊されれば激突は免れないからだ。

やがて、彼我の速度差が無になった時。両者の距離はほんの5メートルに縮まっていた。

初めての操縦とは思えない神業であった。

宇宙戦闘機から空飛ぶ円盤に向けて、いくつものアンカーが射出される。それは円盤にめり込み、ゆっくりと互いを引き寄せる。

やがて2つの機体が優しくドッキング。周囲をバリアーが包み込み、中に空気が満たされた時。

宇宙戦闘機のキャノピーが、展開した。

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