眩惑の乙女 その弐

第16話 ビジネスパートナーなのね? 私達は。

「学園長、弁護士の多華たか さき様がお見えになりました」

「ご苦労だったね、本庄ほんじょう


 響愛きょうあい学園に到着して早々そうそう


 学園長室に連行……直行した。


 ボブメイドの揚羽あげはさんをねぎらっているのが――


「学園長の甲斐かい 裕子ゆうこだよ」

「初めまして。弁護士の多華たか さきです」


 黒髪でミディアムヘア。肩に届くぐらいの長さ。


 やや挑戦的な目付きをしているけれど、嫌な感じを受けない。


「握手よりハグをしても良いかい?」

「ええ。どうぞ」


 揚羽あげはさんによると。学園長のルーツは日本と南米らしいので。


 彼女がしょうに合う挨拶をしたいのだろう。


「……なるほど。弁護士にしておくには、もったいない。サンバやカーニバルでも――」

裕子ゆうこ様! 気に入った女性をダンサー姿に変換するのは、悪いくせです!」


 すかさず、メイドさんが厳重注意をする。


 ハグをしながら体型チェックでもされたのかしら?


「この美貌びぼう逸材いつざい口説くどかなくてどうするんだい?……本庄ほんじょう、お前って奴は」

「私がおかしいみたいな物言いですか!?……こんな感じの学園長です」


 揚羽あげはさんのげやりな形で人物紹介を終えた。


 ただ、このやり取りから察すると。


 お互いに信頼関係を構築こうちく出来ているのだろう。


 学園長と生徒の風通しの良さは意外ね。


 もっとおかたい学園長をイメージしていたから。


 これなら、私も率直に意見を言えそうだ。






「聞いてると思うけど、今日にも月姫つきひめ一行いっこう査察ささつに来るらしい」

「そもそも、私が適任かどうか。学園のお抱え弁護士だって居るでしょ?」


 このおよんで、疑問をぶつけた。


「もちろんさ。弁護士の数には困っていない。本庄ほんじょう、話して無いのかい?」

「……学園長直々に説明をした方が、よろしいかと」


 学園長が苦笑にがわらいをしつつ、説明を始めた。


「この一連の騒動を知っていて、月夜野つきよのさつきにも対処出来る人材」

「それだけの理由で?」


 確かに時間的に余裕が無いので。


 学園としての事情を理解している事も選考基準だろうし。


 言い出したら止まらない姫署長の対処も重要だ。


「アタシはシンプルだからね。それと、本庄ほんじょうの強い推薦すいせんがあったのも大きい」

「……強い推薦すいせんね」


 やはりと言うべきか。


 揚羽あげはさんの強い要望が反映された結果なのね。


 その当人に視線を向けると。


 あたふた、もじもじする始末だ。


 何てあざといメイドかしら!


「ボブ子さん、良いのよ。お互い様って事だから。気にしない!」

多華たか先生……な、何で、またスマホで撮影してるの!?」


 危うくメイド詐欺さぎの被害を受ける所だった!


 他の人にも注意喚起として。サンプル動画を撮影してるだけよ?


 後で、祀理まつりさんにもレクチャーしないと!


「取っつきにくい本庄ほんじょうが心を許すぐらいだからねえ。その点でもポイントが高い」

「私は学園としても適材適所と主張しただけです!」


 ニヤニヤしている学園長に抗議こうぎする揚羽あげはさん。


「あら、残念。ビジネスパートナーなのね? 私達は。ふーん。そう」

多華たか先生まで、悪乗わるのりしないで!?」


 私にしては。いたずらっぽい口調くちょうになっただろうか?


 場の空気も和んだ様ね。


 そろそろ、今後について話そう――


 突然。


 コン、コン、コンと。


 規則正しく学園長室のドアがノックされた。


 まるで、弁護士業務の開始を告げる合図みたいに。






 


 

 

 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 




  


 




 


 

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