第15話 査察は抜き打ちでやらないと。意味が無いですものね。

「……学園からの依頼内容や条件については、後日よね? その査察隊が来るまでには――」


 あの響愛きょうあい学園からのご指名なのだ。


 それなりに、準備期間をもうけて。


 余裕を持って対処する事だろう。


「……今日です」


 ばつの悪い表情で告げる揚羽あげはさん。


「大丈夫よ。学園も混乱しているから、早めの対応にな――」


 それはそれで、学園側も本気だと言う事だろう。


 特に問題は。


「正確に伝えると。今日の午前中に……さつき様の査察隊が来るらしいのです」

「は?」


 唐突とうとつ過ぎて、無感情な返答をしてしまった。


「学園にも朝方に連絡が来たばかりで。正直、右往左往うおうさおうです」

「はいはい。ろん理解してます。査察は抜き打ちでやらないと。意味が無いですものね。ー! おーほほほ!……こんな感じでしょ? きっと」


 もしかして、通告無しで。


 学園に乗り込むつもりだったのかしら?


 一言連絡を入れただけでも。良かったと思うべきよね。


「……気が進まない、嫌な予感がする。断って良い?」

多華たか先生しか頼れる人が居ません! 私に出来る事は、何でもしますから!」


 上目遣いで懇願こんがんするメイド。


 これでは、私の方が悪者のご主人様みたいだ。


『ぷぷぶぷ! 今度は、たかさき君が厄介事に巻き込まれてる! 愉悦ゆえつ愉悦ゆえつ、ご満悦まんえつ!』


 これ見よがしに、あのニートが。


 頭の中で悪態あくたいをついてる気がした。


 まるで、日頃の行いの報復と言わんばかりに。






「そう言えば、響愛きょうあい学園の場所……今更だけど」


 黒塗くろぬりりの乗用車に乗り込み。


 目的地の学園に向かっているのだから。


 質問としての意味合いが全く無く。


 自嘲じちょうしてしまった。


榛名はるな中学校よりもっと先の山奥ですね。途中にあるドライブインで休憩しますか?」


 一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくを見逃すまいと。


 隣に座るボブメイドさんにも、気をつかわれる始末。


「平気よ。そのまま向かってくれる? ありがとう」

「承知致しました。多華たか様」


 榛名はるな中学校。


 あの事件の現場か。


 周囲は自然の木々におおわれて。


 スマホの電波も入りにくい場所だったわね。


 あれから、二ヶ月か。


 まだ、なのか。


 もう、なのか。


 私にとっては。曖昧あいまいだ。


 感覚が麻痺まひしているのか。


 はたまた、私としても。


 あの事件を。無かった事にしたい表れなのかも?


 こんな風にぐるぐる考えてる時点で。


 呪いも相変わらず――作用しているのだろう。


 それにしても。


 今回は、更に奥地に行くのね。


 このまま連れ去られたら、私を見つけられるのかしら?


 とりとめもなく、不吉で物騒な事を思いながら。


 響愛きょうあい学園へ着実に。


 向かって行くのであった。


 


 


 


 


 


 


 




 


 

 










 


 


 


 






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