第17話 アレスと少年
そんな時、突然空に黒い渦のようなものが現れたかと思うとそこから何かが飛び出してきて、そのまま地面に激突してしまった。
よく見るとそれは人型の魔物で、全身が黒い鱗で覆われていた。
どう見ても普通の生き物ではない。
「チィッ!もう一匹いたか!まあいい、どちらにせよ始末する予定だったしな」
デミウルゴスが忌々しげに呟いている間に、僕は黒い竜のような化け物を観察していた。
すると不意にあることに気付いた。
「あれ?こいつどこかで見たことがあるような……」
「おいおい、忘れちまったのかよ?俺だよ俺!お前の親友のアレス・クラウンだよ!……まあ今はダークドラゴンだけどな」
「え?嘘!?」
僕は思わず驚いてしまった。
目の前にいるのはかつて共に旅をした親友のアレスだったのだ。
しかもその姿は以前とは違って禍々しいものに変わっており、とても同一人物とは思えないほどだった。
「おいおい、随分な反応だな?まるで俺じゃなくてコイツが本物みたいな言い方じゃないか」
「違うのか?」
「ああ、全然違ぇよ。そもそも俺は死んだんだぜ?なのにこうして蘇ることができたんだ。こんなに嬉しいことはないだろ?」
「……」
「黙っちまってどうしたんだよ?ひょっとして感動して言葉が出なくなっちゃったのか?」
「……お前は本当に俺達の知っているアレスなのか?」
「おいおい、そんな当たり前のことを聞くんじゃねえよ。俺が俺以外の誰に見えるっていうんだよ」
「……」
僕は答えられなかった。
なぜなら今の彼の姿は僕の記憶の中のものとは全く異なっていたから。
それでも彼がかつての仲間であることに変わりはなかった。
そして同時に彼は敵であるということにも変わりがなかった。
「お前……何があったんだ……?」
「何って……魔王サタン様に復活させて頂いてから今までずっと戦い続けてきただけだぜ?そういやお前も魔王サタン様の配下になったって聞いたけどマジなのか?」
「……ああ、本当だ」
「へー、そりゃ凄いじゃん。でもなんでお前が魔王軍なんかに入ったんだ?お前は正義感の強い男だと思ってたんだけどな」
「……」
「もしかして惚れた女を人質に取られたとか?」
「……」
「図星みたいだな」
「お前はどうして魔王軍になんて入ったんだ?」
「決まってるだろ?強い奴と戦うためさ。それこそが俺の生き甲斐なんだ。それにしてもまさかお前が俺と同じ存在になっていたとは思わなかったな。だがまあ……今となってはそんなことはどうでもいい。それより早く殺し合いを始めようぜ?」
「それはできない」
「ん?何言ってんだ?まさか怖じ気づいたのか?」
「いいや、そんなことはない。ただ俺はお前を殺すつもりはない」
「は?何を馬鹿なこと言っているんだ?お前は俺の大切な人を傷付けたんだぞ?そんなことが許されると本気で思ってんのか?」
「許す許されないの問題じゃない。お前は俺の大切な仲間だった。だからこそ殺すわけにはいかない」
「なるほどね……。俺のことをそこまで大切に想ってくれてるって訳か……。だったら俺もお前に少しばかり優しく接してやることにするかな」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味さ。お前にはこれから俺と一緒に来てもらう。そこでお前の仲間達を皆殺しにしてお前を絶望の底に叩き落とす。そうすればお前も素直になるだろ?」
「ふざけるな!誰がお前なん―――」
僕が言い切る前にアレスは僕の懐に潜り込むと、そのまま強烈な一撃を放ってきた。
僕は咄嵯に剣でガードしたが、あまりの力の強さに耐えきれず、家の中に吹き飛ばされてしまった。
「ガハッ!」
「おいおい、大丈夫か?」
「くっ、まだまだこれくらい!」
僕はすぐに立ち上がると、今度はこちらから攻撃を仕掛けようとした。
しかし、アレスは余裕の表情を浮かべながら腕を組み、その場で突っ立っているだけだった。
僕はそれが不思議でならなかった。
「おいおい、どうした?かかってこないのか?」
「なめるな!」
僕は渾身の力を込めて剣を振り下ろしたが、それはあっさりと受け止められてしまい、逆に蹴りを食らってしまった。
「グフッ!」
「ほらよっと!」
僕は何度も攻撃を試みたが、どれも通用しなかった。
それどころか反撃まで受けてしまう始末だった。「クッ!なぜだ!なぜ僕の方が一方的にダメージを受けている!?」
「おいおい、まだわからなかったのかよ?お前が弱いだけだろうが」
「そんなはずはない!僕だって強くなったはずだ!なのに何故!?」
「ハァ〜……仕方ねぇな。特別に教えてやるよ。俺が強くなったんじゃなくて、お前が弱くなっただけなんだよ」
「な、なんだって!?」
「だから言っただろう?お前はもう以前の俺とは違うってな。この世界に存在する邪気を吸収したことで俺はさらなる進化を遂げたんだ。今の俺ならお前ごとき一瞬で殺せるぜ?」
「そ、そんな……」
「もうわかっただろ?お前じゃ絶対に俺には勝てない。だから大人しく付いてこい。悪いようにはしないからよ」
「断る!」
「はぁ、やっぱりそうなるか。まあいい、どうせお前は俺に逆らうことなんてできないんだしな」
「何だと?」
「よく考えてみろよ。もし俺がお前を殺したら、お前の大切な人達はどうなると思う?」
「……」
「ソフィアさんやロゼ、それに他のみんなはお前が死んだら悲しむだろ?つまりお前は俺に殺されるしかないんだよ」
「……」
「さあ、どうする?俺に殺されて大切な人を失うか、それとも俺に服従して大切な人を守れるようになるか、好きな方を選べばいいさ」
「そんなもの……決まっているだろ……!僕は……お前に負けたりなんか……しない!お前を倒して大切なものを……守るんだ!!」
「チィッ、本当に強情だなお前は。だったら望み通りぶっ飛ばしてやるよ」
「やって見ろ!」
僕は覚悟を決めてアレスに向かって走り出した。
そして全力を込めた一撃を放った。
しかしアレスは僕の攻撃を簡単に受け止めると、そのまま地面に叩きつけた。
「グッ!」
「おらっ!」
アレスは倒れている僕を思いっきり蹴飛ばした。
そしてさらに追撃を加えようとしてきた。「クソォーーーーーーーーーーーーー」
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