第15話 ソフィアと少年

「あら、おかえりなさい」

「ただいま戻りました」

「ご飯はもう食べたの?」

「いえ、まだです」

「そう、よかったら一緒にどうかしら?」

「はい、是非お願いします」

それから二人で食事を取った後、部屋に戻った。

「ふぅ……」

ベッドの上に寝転がると、ようやく一息つくことが出来た。

「結構きつかったかも……」

肉体的にも精神的にもかなり疲労していたので、とても眠たかった。

「……少しだけ仮眠を取っておこうか」

そう思い、目を閉じようとした時だった。

「ん?」

不意に誰かが扉をノックする音が聞こえてきた。

「はい?」

「私よ、開けてくれる?」

「あっ、ちょっと待ってください!」

急いで身だしなみを整えた後、僕は部屋のドアを開いた。

するとそこにはソフィアさんの姿があり、手には何か包みのようなものを持っていた。

「こんばんは、アベル君」

「どうも、こんばんは」

「入ってもいいかしら?」

「もちろんいいですよ」

「それじゃあ失礼させて頂くわね」

そう言うと、ソフィアさんはそのまま中に入ってきた。

「あの、何か用事でもあったんですか?」

「いいえ、特にこれといった理由はないわ」

「そうなんですか? てっきり僕に話でもあるのかと思ってました」

「ふふ、私はいつもあなたと一緒にいるから、話すことがないんじゃないかと思ったのね?」

「はい……」

「でも、それは間違いよ。私はいつでもあなたのことを考えているわ」

「そ、そうですか……」

「あら、照れちゃって可愛いわね」

「べ、別にそういうわけでは……」

「ふふ、わかっているわ」

相変わらずこの人は凄いな……。

普通なら恥ずかしくて言えないようなことを平然と言ってくるんだから。

(まぁ、それがソフィアさんのいいところなんだけど)

そんなことを思いながらしばらく雑談した後、本題に入ることにした。

「それで、今日は何の話をしに来たんですか?」

「うーん、強いて言えば……アベル君の話を聞かせて欲しいかな?」

「僕の話……ですか?」

「えぇ、アベル君はどんな人なのか知りたいもの」

「わかりました! 何でも聞いて下さい!」

「ありがとう。それじゃあ早速だけど質問させてもらうわね」

「はい」

それからソフィアさんは色々と僕に問いかけてきた。

好きな食べ物や趣味など、本当に様々なことを聞かれたけど、その全てに対して丁寧に答えていった。

そして最後にこんなことを聞いてきた。

「ねぇ、アベル君。今一番欲しいものは何?」

「欲しい物……ですか?」

「えぇ、もしあるのなら教えてほしいのだけれど……」

「…………」

正直に答えるべきか迷ったけど、すぐに素直に打ち明けることにした。

「今はお金がもっと欲しくて仕方がないですね……」

「どうしてお金が欲しいの?」

「それはもちろん新しい魔法書を買うためです。今の所持金だと全然足りなくて……」

「なるほど、そういうことだったのね。でも安心してちょうだい。私達がアベル君の力になってあげるわ」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

「ふふっ、いいのよ。だって私はあなたの婚約者なんだから♪」

ソフィアさんはそう言うと、僕の頬を優しく撫でてくれた。

彼女の手はとても温かくて柔らかく、いつまでも触れていたいと思うほどだった。

そして彼女はそのまま顔を近づけてきて……。

「さぁアベル君、目を閉じてくれるかしら?」

「あ、はい……」

僕は言われるままに目を閉じる。するとしばらくして唇に柔らかいものが押し当てられたような気がした。

初めての感覚だったけど、不思議とその感触は決して嫌なものではなかった。むしろとても心地良いものだった。

(あれ?なんだろうこれ?)

よく分からない感情が湧き上がってくる中、やがてゆっくりと顔が離れていく気配を感じた。

なので恐る恐る瞼を開くと、そこには満足そうな笑みを浮かべているソフィアさんの姿が見えた。

「ふぅ、これでようやくキスができたわね♪」

「あの……これは一体どういう意味があったんですか?」

「あら?そんなことも知らないなんておかしいわね。婚約している男女の間ではこうやって口づけを交わすものなのよ?」

「そ、そうなんですか?」

「えぇ、だからこれからもずっとよろしくお願いするわね♪」

「は、はい!こちらこそよろしくお願いします!」

こうして僕達は無事に結婚することができた。

結婚式には多くの人が参列してくれた。

その中には国王様や宰相さんの姿もあり、みんなが笑顔で祝福の言葉を投げかけてくれた。

特にソフィアさんのお姉さんであるアリアさんからは、「おめでとう」という言葉と共に熱い抱擁を受けてしまった。

なんでもアリアさんはソフィアさんのことを妹のように可愛がっていたらしく、そんな彼女が自分よりも先に恋人を作ってしまったことにショックを受けていたらしい。

だけど今回のことでようやく吹っ切れることができたようで、今後はソフィアさんと姉弟のように仲良くしてくれるそうだ。

またソフィアさんのお父さんからも感謝の言葉を頂いた。

何でも僕達の結婚資金として莫大な資金を提供してくれていたみたいだ。なんでもソフィアさんが小さい頃から、いつか自分の娘を嫁に出す時のためにと貯め続けていたお金なのだとか。

その額は凄まじく、下手したら王国が買えるんじゃないかってくらいの大金だった。

ちなみにこのお金については、後々きちんと返すつもりだ。

ただその前にまずは魔法書を揃えなくちゃいけないんだけどね。

それから式が終わった後は盛大なお祝いパーティーが開かれた。

たくさんの料理が用意されていて、美味しいワインなども振る舞われた。

僕とソフィアさんはその席で何度も乾杯をした。

お互いの幸せを願って……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る