第12話 先輩達と少年

 それから数日の間、僕は毎日のように訓練所に通い続けた。そしてある日のこと、いつも通り訓練を終え帰ろうとした時のことだった。

「おい、お前が噂のルーキーか?」

 突然背後から声をかけられたので振り返ると、そこにいたのは数人の冒険者達であった。彼らはこちらのことを興味深げに見つめてくる。

「はい、そうですけど……」

「ふーん、思ったよりも普通だな」

「見た目はってことだよ。聞いた話じゃかなり強いらしいぜ」

「まぁ、そんなことはどうでもいいさ。それより、ちょっと頼みがあるんだがいいかい?」

 リーダー格と思われる男がニヤリと笑みを浮かべながら問いかけてきた。その瞬間、嫌な予感を覚えた僕はすぐさま踵を返そうとしたのだが、それよりも早く男に腕を掴まれてしまう。

「ちょっ!?何するんですか!」

 慌てて振りほどこうとするも、ガッチリとホールドされていて離れない。

「悪いが少し付き合ってもらうぞ。大丈夫だって、痛くしないからよぉ」

 男は下卑た笑いを浮かべながら僕のことを見下ろしていた。他の二人も同様にニヤついた表情をしている。

(うわ……これはヤバそうだ)

 直感的に身の危険を感じた僕は即座に魔法を発動した。

『氷結牢獄』

 次の瞬間、男たちの足元から鋭いつららが無数に生えてきて彼らを拘束していく。

「ぐあああっ!?」

 つららは瞬く間に全身へと絡みつき、彼らの動きを完全に封じてしまった。

「な、なんだこりゃあ!?」

「くそ!こんな魔法見たこともねぇぞ!!」

 突然の出来事に困惑している隙を突き、僕は一目散に逃げ出そうとしたのだが―――

「逃すかよッ!!!」

「えっ!?」

 しかし逃げる前に一人の冒険者が素早く間合いを詰めて殴りかかってきた。なんとか身を捻ることで直撃は免れたものの、頬に拳が掠ってしまい鈍い痛みが広がる。

「くぅっ……」

「へぇ~今のを避けるなんてやるじゃんか」

 男は楽しそうな笑みを浮かべている。

 まずいな、このままだと逃げられない。

 ならば仕方がない、ここは戦うしかなさそうだ。

 覚悟を決めた僕は意識を集中させていく。

 すると次第に周囲の音が遠ざかり、視界には相手の姿が鮮明に浮かび上がってくる。それはまるで自分がもう一人増えたような感覚だった。

「おいおい、なんだよそれ……。マジでルーキーなのか?」

 目の前にいる男の瞳からは驚きの感情がありありと感じられた。おそらく今頃相手は僕の姿が複数人に見えていることだろう。これが【並列思考】によって生み出されたもう一人の自分である。

「お返しですよ」

 言い終わると同時に僕は踏み込み一気に距離を詰めた。そして腰に差していた剣を抜き放つと勢いよく横薙ぎに振るった。

 だが、男は咄嵯の判断で後ろに跳ぶことで回避してしまう。

「危ねえ!!今のは本気で殺す気だったろ!?」

「いえ、ちゃんと寸止めするつもりでしたよ」

 もちろん嘘だけどね。

 本当は思いっきり首を狙っていたんだけど避けられちゃったみたいだ。

 でもまぁいいや、これで相手の実力を測ることが出来たからね。

 この様子なら多少手荒なことをしてしまっても問題ないだろう。

 僕は内心でほくそ笑むと、そのまま追撃を仕掛けるべく再び地面を強く蹴るのであった。

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