第11話 訓練と少年

 翌朝、目が覚めるとすぐに支度をして食堂へと向かった。今日からはいよいよ本格的に訓練が始まるのだ。朝食を食べ終えると、僕はすぐに玄関へと向かう。するとそこには既に母の姿が見えた。

「おはようございます、お待たせしましたか?」

「いえ、大丈夫よ。それじゃあ行きましょう」

 僕達はそうして宿を出ると、まずは冒険者ギルドへと向かいそこで簡単な手続きを済ませる。そしてその後に訓練所の場所を聞くと、早速そちらに向かって歩き始めた。

 しばらく歩くと目的地が見えてきたのだが、その光景を見て思わず目を疑った。というのも、そこにあったのがまるで学校のグラウンドのような広さを持つ開けた場所だったからだ。

 そんな場所には既に多くの人達が集まっており、それぞれ剣や槍などの武器を手に取って素振りをしたりしている。

 また、その他にも弓を持っている人の姿も多く見受けられた。恐らく矢じりに何か魔法陣のようなものが描かれているから魔道具なのだろう。

「すごいですね……これ全部冒険者の方達なんでしょうか?」

「そうね。でもこれだけいるんだし、探せば知り合いの一人くらい見つかるんじゃない?」

 母はそう言って笑みを浮かべる。しかし、その時――

「あら? もしかしてアベルくん!?」

 突然背後から声をかけられたので振り返ってみると、そこにいたのは以前この村に来た時に知り合った女騎士さんだった。彼女はこちらに来るなり僕のことを抱きしめてくる。

「久しぶりねぇ! 元気にしてたかしらぁ!」

「はい、おかげさまで。あの時はありがとうございました」

「いいのよぉ。それにしてもまさかこんなところで会うなんて奇遇ねぇ」

「はい、本当に……」

 それから少しの間、彼女と話をしていると、母が彼女のことを紹介してくれた。

「アベル、こちらはロゼ・リエリットさんと言って、騎士団に所属している女性の方よ。私と同じで昔一緒にパーティを組んでいたことがあるの」

「初めましてぇ。私はロゼっていうのぉ。よろしくねぇ」

「初めまして、アベルです。どうぞよろしくお願いします」

「ふふっ、礼儀正しい子ねぇ。それで、今日はどうしてここに来たのかしらぁ?」

「はい、実は今日からここで訓練を受けることになったんです」

「まあそうなの? なら私の所属する隊の訓練に参加してみるかしらぁ?」

「えっと……それはありがたい話なのですが、もう既に他の方々と一緒に訓練を受けているみたいなので……」

「ああ、そういえば昨日あなたと同じくらいの子達が来ていたわねぇ。その子達と一緒にやるつもりなのかしらぁ?」

「はい、そのつもりです」

「わかったわぁ。それじゃあ頑張ってねぇ」

 リエリットさんはそう言うと、手を振って去って行った。その後ろ姿を見送ると、僕達は早速訓練を始めることにした。ちなみに母は訓練には参加せず見学するとのことだったので、僕は一人で訓練を行うことになった。

 まず最初に渡されたのは木製の剣だ。そして次に渡されたのは木でできた盾である。

「よし、それじゃあさっき渡した装備を身につけたらこっちに来てくれ」

 そう言われたので指示された通りに準備を整えると、教官らしき男性の元へと向かう。彼は僕の姿を見ると口を開いた。

「君の名前は?」

「アベルと言います」

「アベルか。俺はガドルという。さて、まずはその剣を持って構えてくれ」

「わかりました」

 言われるままに剣を構えると、それを見ていたガドルさんが話しかけてきた。

「うむ、なかなか様になっているな。では次は俺に打ち込んできなさい」

「はい!」

 返事をしてから駆け出すと、勢いよく剣を振り下ろす。すると相手はそれを軽々と受け止めた。その後も何度も攻撃を繰り返したのだが、一向に相手に届く気配がない。

(くそっ! このままじゃダメだ)

 焦りを感じ始めたその時だった。突然僕の身体から力が抜けたような感覚に襲われる。そして次の瞬間、視界が大きく傾いた。

 どうやら足を踏み外してしまったようだ。気がつくと地面に倒れており、目の前に木の盾が迫ってきていた。そして次の瞬間、激しい衝撃と共に全身に強い痛みを感じた。

「ぐあっ!!」

 あまりの激痛に思わず悲鳴を上げてしまう。しばらくしてようやく落ち着くことができた。一体何が起こったのかと思い視線を向けると、そこには僕の攻撃を受け止めた姿勢のまま固まっているガドルさんの姿が見えた。どうやら彼の盾によって押し倒されたらしい。

「大丈夫か!?」

 すぐに駆けつけてくれた教官の方が回復魔法をかけてくれたおかげで傷はすぐに治ったが、先ほど感じた力を失う感覚はまだ残っていた。

「すいません、油断してしまって……」

「気にすることはない。それよりも今の感覚を忘れないようにしてくれ。おそらく君は今魔力切れを起こしたんだ」

「魔力切れですか?」

「そうだ。君のレベルを考えるとその歳でここまで動けること自体が異常だが、それでもまだ経験不足だということだろう。だからこれからはより一層訓練に励んでほしい」

「はい、ありがとうございます」

「よし、それでは次に行くぞ」

 それから僕は何度か同じように打ち込んだ後に吹き飛ばされるという一連の流れを繰り返し、やがて完全に疲れ果ててしまった。しかし、そんな状態でもなお立ち上がろうとする僕を見て教官は感心しているようだった。

「ほう、中々根性があるな。だが、もう無理をする必要はない。後は休憩しながら話をしようじゃないか」

「はい……ありがとうございました」

 こうして訓練は終わったのだが、やはりレベル1というのは厳しいものがある。そう思いながら宿に帰ると、そこでは母が待ってくれていた。

「おかえりなさいアベル。どう? 少しは強くなったかしら?」

「いえ、まだまだみたいです。もう少し頑張らないと……」

「そう、でも焦らずゆっくりやりましょうね。焦ったところでいいことなんて何もないから」

「うん、わかってるよ。ありがとう」

 母の言葉に感謝しつつ、僕は眠りにつくのだった。

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