第8話 学園と少年

 それからしばらくしてのことだった。

「きゃー」

 突然、女性の悲鳴が聞こえてきた。

「なんだ?」

 少年が声の方を見ると、一人の女子生徒が倒れていた。彼女の周囲には男子生徒が集まっており、口々に何かを叫んでいる。

「おい、しっかりしろ!」

「死んじゃだめだ。目を開けてくれ」

「誰か救急車を呼んでくれ」

 生徒たちが必死で呼びかけるが、女性はぴくりとも動かない。やがて、騒ぎを聞きつけた教師たちが駆けつけてきた。

「どうした!?」

「こいつが急に倒れたんです」

「こいつ?この子はうちの生徒だぞ。失礼なこと言わないでくれるかい」

「でも、本当にそうなんですよ。みんな見てたはずです」

「馬鹿言うんじゃないよ。ちゃんと名前を確認してごらん。きっと別人だよ」

「そんなことありません。私はこの目ではっきりと見ましたから」

「ふん、まったく。最近の若いもんはこれだから困るんだよね。いいかい。ここは学校なんだよ。学校っていうのはね――」

 女性を取り囲んでいた男子生徒たちを押しのけて、教師たちは倒れた少女を抱き起こした。しかし、彼女はやはりピクリとも動かなかった。

「ほらやっぱり違うじゃないですか。私の言ったとおりですよ」

「黙りなさい!これはただ気絶しているだけよ。こんなことでいちいち騒がないでちょうだい」「でも……」

「うるさいわねえ。あんまりしつこいようだったら、校長先生に報告するよ」

「そ、それは勘弁してください。わかりました。もう何も言いません」

「そう。それでいいわ。それじゃあ、私たちは仕事に戻るから。あなたたちも授業に戻りなさい」

 教師たちに促され、生徒たちもしぶしぶその場を離れた。だが、彼らの表情には一様に不満の色がありありと浮かんでいた。そんな彼らを見送りながら、一人の少年がつぶやいた。

「……くだらないな」

 その声は少年たちの喧騒にかき消されて誰の耳にも届かなかった。しかし、少年は構わず言葉を続けた。

「この程度のことで満足しているような連中に、僕たちを止めることなんてできないさ。行こうぜ、みんな」

 少年の言葉に他の四人が無言でうなずき、五人は足早に歩き出した。少年たちの姿が見えなくなると同時に、校舎裏の林の中から人影が現れた。

「あれが、例の生徒ですか?」

 突然現れた人物を見て、少年の一人が言った。

「ああ、そうだ」

「ふーん……まあいいですけどね」

 興味なさげに答えた少年を、もう一人の少年が睨みつける。

「おい! なんだその態度は!? 俺たちの任務を忘れたのか!」

「忘れてないですよ。でも、あんな奴ら俺一人で十分だ。それより早く行きましょう。あの男を殺しに」

 少年はそれだけ言うと、その場から立ち去った。その後ろ姿を見つめる三人の目には、冷たい光が宿っていた。

 昼休みになり、僕はいつものように教室を出た。そして、そのまま屋上へと向かった。今日は天気もいいし、外で昼食をとるのも悪くないだろう。

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