第3話 能力と少年

 それから十分くらい歩いたところで、三人はある建物の前にたどり着いた。そこは少年の家のすぐそばにあるアパートだった。

「ここだよ」

 母はそう言って、二階にある一つの部屋の前で立ち止まった。

「ここに何があるっていうの?」

 少年は不安げに尋ねる。

「大丈夫ですよ。すぐにわかりますから」

 母は相変わらず笑顔を浮かべていた。そして、ポケットから鍵を取り出すと、部屋のドアの鍵穴に差し込んだ。

 カチャリと音が響く。そして、ゆっくりとドアが開かれた。

「入ってください」

 言われるままに、少年は足を踏み入れた。そして、目の前に広がる光景を見て驚いた。

「これは……」

 そこにあったのは、たくさんのコンピュータやモニターだった。机の上には無数のコードが散乱している。

「ここはあなたのための部屋なの」

 少年の背後で、母の優しい声が聞こえてきた。

「ぼくのため?」

「そうよ。これからはここで暮らすことになるわ」

「どうして?」

「だって、お父さんの研究所で働くことになったんですもの」

「お父さんの研究って?」

「それはね……」

 次の瞬間、少年の身体が宙に浮かんだ。正確には、誰かに持ち上げられたのだ。

「うわあああああ!!」

 少年は叫んだ。そして恐る恐る下を見る。そこにいたのは、先ほどまで一緒にいた男の姿だった。

「おや、もう来ていましたか」

 男はニヤッと笑った。

「ああ、ちょっと前に着いていた」

「それでは早速始めましょうか」

 男は少年を床に置くと、再びパソコンに向かった。その手慣れた動きに、少年は思わず感心してしまった。

「すごいですね」

 男は手を止めずに答えた。

「まあ、これぐらいは普通だと思いますけどね」

「それで、何を始めるつもりなんですか?」

 少年が尋ねると、男はキーボードを叩きながら答えた。

「君の能力を調べるための準備だ」

「能力?」

「そうだ。君には特別な力が備わっているはずだ。だからそれを確かめようと思ってね」

「でも、そんなことどうやって調べるんですか?」

「今から行う検査の結果次第だ」

「なるほど」

 そこで、男はようやく手を止めた。

「準備ができました」

「わかった」

 男が椅子を譲るように横に移動すると、代わりに父が座った。そして、少年の方へと向き直る。

「君はこの機械の中に入ってくれるかな」

 父は足元に置いてあった大きな箱を指差した。少年は指示された通り、その中に入る。すると、蓋が閉められた。

「いいかい、これからいろいろなことをするけど、決して暴れたりしないでくれ。約束できるかい?」

 少年は黙って首を縦に振った。すると、父は満足そうな表情で「よし」

 と言った。

「それじゃあ、始めるぞ」

 父の言葉と同時に、箱の中からブーンという低い音が発生した。それと同時に、少年は不思議な感覚を覚えた。まるで自分の中を何かが駆け巡るような感じである。

(なんだ、これは?)

 少年は戸惑ったが、別に痛いとか苦しいというわけではなかったので、そのままじっとしていた。すると、今度は別の音が鳴り始めた。ピーという高い電子音のようなものだ。続いて、画面には次々と数字が現れ始めた。最初は0から始まり、どんどん増えていく。それがしばらく続いた後、突然ピタリと止まった。

「終わりですか?」

 少年は尋ねた。しかし、返事はない。どうしたのかと思っているうちに、突然蓋が開かれた。少年は外に出る。

「どうだったんですか?結果は出たんですか?」

 だが、またしても返事はなかった。父と男は深刻な顔をして考え込んでいる。

「あの……どうしたんですか?教えてください」

 少年は二人に近づいた。すると、二人は同時に口を開いた。

「信じられない」

「えっ?」

 少年は驚いた。なぜなら、二人が口にした言葉があまりにも予想外だったからだ。

「信じてもらえないかもしれないが、これは大変なことだ」

「ええ、本当に驚きです」

 二人は興奮した様子で話し始めた。少年はわけがわからず呆然としていた。

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