第2章:お前もから揚げにしてやろうか――――お前もから揚げにしてやろうか!
第1支目、『ヴァナヘイム』攻略戦
船上のオーロラ↓●。
「うぇっ、う”っ──────ォ──ォォおえぇぇぇっっっッッ────っ”プ」
どうも、久しぶりだな。俺だ
「なぁもう20日目だぞ。まだ船酔い慣れないのか、
「ん”なこ──うっぷ、言われても”ウェっ──プ、ゲロロろロ……これは
「わかったわかった、ほれ背中さすってやるから存分にやれ」
「あ”り”がとぉござゲェ──」
見事な音が響き渡る。これはあれだ。詰まる寸前のトイレを流す時みたいな、そう固形物が潰れながら……ってもういい。こっちまで貰いそうになるではないか。
正直言って昨晩あんなにバカ食いするからだ。これに懲りたらもう少し控えるんだな、
いや、よく考えたらその心配はもうないな。だって今日上陸だし。
西暦2037年2月の1日。場所は西アメリカ連合はサンフランシスコより西方50キロの海上。
戦艦に乗ってはるばるシンガポールからきた理由? そんなものは明白だ──ダンジョン攻略というやつである。
冒頭のお目汚しより20分ほど経過して。
「はぁ、はぁ、はぁ……はぁ」
「落ち着いたか?」
「はい、何とか。うう、出発から数えてもう22日。今日上陸だというのに結局慣れることはなかったおのれ船酔いめぇぇ! にしてもせんぱいは平気なんですねー羨ましいなー」
「俺は小さいころ散々経験したからな。冬の東海の荒れはこんなものじゃないぞ?」
「? どこですそれ」
東海は東海だろ──あ、しまった。昔からのクセでつい間違ってしまったのだ。訂正しようと口を開きかけて、陽気な護衛の声が後ろよりかかる。
「おふたりトモこんな所にいらっしゃったんですね♪ シスコの雪景色を眺めるのもイイですけど、そろそろ艦内に戻ることをお勧めしまスよ?」
「デュナミスか。別に景色を楽しんでいた訳じゃないんだが──なんで艦内に? 何かあるのか?」
「およ、おふたりトモ
「ひょっとしなくても巻き込まれるって、『逆襲』に?」
「
胸を張って宣言するデュナミス。最後の言葉に「おおー」と目を光らせる天使。俺はいやそれフラグかと言いかけて。
轟く爆発音。
およ、始まりましたね。と目の上に手をやりながらデュナミス。
つられて俺も上を見上げると。
スタイリッシュな形の戦闘機が火を噴きながら──既に半分程
「あらら、アレは西アメリカ連合のF-35でスね。とすると相手は……やっぱり」
爆音。俺達に見せつけるかの如く。上空を2機のF-35が低速で通り過ぎる。鼓膜が激しく震える中、見た。今の戦闘機の主翼にプリントされていたのは。
雄々しく羽ばたく鷲、それに捕まり咥えられている蛇、その本人は湖の上から生えたサボテンに立っており、先住民文化とスペイン文化が混ざり合った格好の国章。
即ち、
大体2年前のことである。世界的混乱の中ギャング集団が中南米諸国の政府を次々と乗っ取った。その中でもメキシコは特にデカい態度を取り、名を改めた。
彼らが国盗りの後にしたのは、大好きな戦争。
本音は統一の敵を作り民を団結させること&あらゆるものの略奪。
さて建前はというと、奪われた領土の奪還。
かくしてメキシコ帝国は内戦の停戦がなされたばかりの青息吐息の西アメリカ連合に宣戦布告。「カリフォルニアとかテキサスを返せ」と。
上にある解説などなくても、誰がどう見ても真の目的は無尽蔵の油田ことイーストテキサス油田(今は減産に転じているが)を始めとする化石燃料、の奪取が目的のこの戦争。
お上品な知識人は第二次
曰く、「メキシコ帝国の逆襲」。
極東島国の特撮映画とそれを愛する者達に祝福あれ。
あとついでに掲示板を利用する暇人達も、祝福あれ。
俺達の目の前で、今や大変珍しいものとなった空戦が繰り広げられてる。両者共に同じ兵器を使っているので、素人にはどちらが優勢か皆目わからない。
先の不運な1機だけが唯一の被害か。
数分もしない内に空戦は終わり、飛行機雲を描きながら帰還していく。
勝敗の詳細は、デュナミスが見せる
もちろん俺達は真相を知っている。兵器の生産ラインがごっちゃになっている今、たった1機でも墜とされた方が負けであると。それは大変貴重な1機なのだ。
戦場の歓迎は更に続く。
デュナミスが「サービスでお貸ししマすよ」と渡したのはドイツのカールツァイス社やライカ社などの技術提供を受け開発されたルーマニア軍のValdada Optics製双眼鏡(オークションで落としたのだとか)。最大倍率は7倍。左側に
目盛を微調整しながらデュナミスが指し示す方角、10時を見ると。なんだありゃ、無数の小型ボート群が
倍率を引いて俯瞰すると、ふむ。奴ら粗末ながら武装しているらしい。背中にロケットランチャーを確認。あれはRPG-7かな、相当錆びているように見えるが。
「たぶんでスけど、脅し用でスねー。でも万が一を考えてこちらも威嚇しましょう」
「それが社内方針?」
護衛は親指を立てた。
後方より駆動音。
振り返ると今搭乗している戦艦「テキサス」の一番砲塔、二番砲塔が旋回を始める。45口径の35.6センチだ。5、6秒後。その動きが止まり今度は砲身が上下する。それも止まる。ってオイマジか殺気が放たれる──
「っと、こちら側へ避難を!」
護衛が未稼働の左舷一番40ミリ対空砲の物陰に誘導、シールドの内側に身を寄せる。瞬間、シュゴォ! と放たれる轟音。一瞬の赤と続く灰が視界に焼き付く。
衝撃をやり過ごし、目だけでなく顔を出すと。海面に爆発を見る。瞬時に海水の小山が出現、何かを巻き込んでゆっくりと崩れ落ちた。後には生物非生物燃料の破片が漂う。もちろん生き残りもいるが、衝撃だけで満身創痍だろう。
「ひえーわたし初めてですよ主砲射撃体験するの」
「どうですカッコイイでしょう」
「魂が震えました」
「¡así es! デカい砲はロマンでスよ!」
ご満悦のデュナミス。
一方の賊共は慌てて遁走に入る。その背の備え付けのスピーカーから大音量で怒鳴り声が飛び出す。
<<<おいテメェらこの赤十字と国際作戦機関(IOO)の旗が見えてねェのか! 視力幾つだこのバカ共が!! 次から喧嘩売る相手間違えるんじゃねェぞ、あン時みたいな間違いもう一遍ンやってみろ、今度はグアダラハラに核落としてシティみたいに焼却してやるからなクソギャング共め!!!>>>
「うひゃあ、社長激おこだねー。しばらくCIC内が荒れそう」
「……今のって威嚇、なんだよな?」
「もちろん。最低限の犠牲で事の回避に成功したんですから」
「まぁ確かに」
ともかく、
こんな感じでちょっとしたハプニングを乗り越え、ギリギリ健在のゴールデン・ゲート・ブリッジを通過。アルカトラズ島を左に流れながら進み、第27埠頭へ。
テキサスを降りると、物々しい雰囲気が俺達を迎える。雪積もる街中には煙が昇り、時たま爆発音。大地にはあらゆる残骸とバリケードが散乱している。今日も略奪は平常運転のよう。
そんな中、俺の名前を呼ぶ声が。声の出先には麗しい青髪をショートにした身長170程の女性の姿。グエン支部長が雇ったという案内人、「ヨム・キプル」のアシエル である。
もちろんこちらはデュナミスと同じくコードネームというやつである。どう考えても本名出ないのは、痛い二つ名からも明らかだ。
デュナミスがその姿を見るや猛牛の如き速度で突進。アシエルに激突する寸前、不自然に速度が落ち、軟着陸。ハグに入る。大変心が躍る光景。
「ずっと逢いたかった」だの、「よしよし、じゃあ今晩はうんと可愛がってあげよう」だの、大変素晴らしい会話が聞こえる。
なるべく花の合間に入りたくないなぁ、と
「やぁ
「は、はいこちらこそ。
「わかった、
「ああ間違いない。よろしく頼む──ところでどうやって行くつもりなんだ? この天候じゃあ航空機を飛ばすのも奇跡を期待しないといけないだろう」
「あれ? じゃあさっきの戦闘機はどこから来たというんです?」
「いい疑問だ。あいつらと違ってよい頭を持っているね
「つまり双方ともに海上からということか」
「そういうこと。話を戻すけど、ご覧の通りこの近辺では飛行機は使用不可だ。除雪してくれる暇な人もいないしね」
ロビーの外から見える汚い雪は既に数十センチは積もっている。シスコ全域がこんなのでは確かに航空機の発着艦は無理だろう。
「だからまず僕が借りた装甲車でマリーナ・ベイに招待しよう。そこで乗り換えだ」
「乗り換え?」
「そう──魔改造された陸上船、ホバークラフトにね。で、ラスベガスを経由してエリア51に行く。その後はひとっ飛びでヴァナヘイムさ」
「なるほど。ちなみにだ」
「?」
「エリア51にエイリアンっているか?」
「…………ぷぷっ、アッハハハハハハハハァッッ──‼ ごめんごめん可笑しくて、つい。で、そんな心配しなくてもいいと思うよ。だってさ」
「僕らの目的地にはエイリアンなんかよりもっとオカルトなものが待ち受けているだろ?」
○
おはようございます、こんにちは、こんばんは。
作者です。
久しぶりの更新なので文体が変わっていないか心配ですね。
作中のメキシコ軍の国章のくだりは、名古屋大学言語文化部・国際言語文化研究科が刊行している『言語文化論集 XXⅠ巻 第2号』に掲載されている二村久則氏・川田玲子氏による『メキシコ紋章 ≪鷲・サボテン・蛇≫』から参考文献としました。
また、イーストテキサス油田については独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構のWEBページ情報を参照しました。
この場を借りてお礼を申し上げます。
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