第1章:世界冷たすギィ⁉ 温室効果ガス、激減したからね、しょうがないね。
だからといってフロンはダメです。当たり前だよなぁ?
西暦2037年1月10日。
「オ客様、ゴ注文ハ何ニ、致シマショウ?」
「ん~そうだな、1番と6番と15番にしよう」
「味ノ傾向ハドウシマショウ」
「寒いから、でも辛いの苦手なんで……甘辛で」
「承知シマシタ。オ客様、『オトオシ』ハ入リ用デ?」
少し考える。お通し、意外と値が張るからな。
今日は機嫌がいいことだし──
「すまんが『NO!』で」
「ワカリマシタ。オ料理ガ誕生スルマデ、少々オ待チクダサイ」
極東の島国の国民的アニメ、それに登場する狸型お世話ロボット……のカラーリングが施された給仕用自立端末機が軽快な音と共に去っていった。
「ってか何だよ『オ料理ガ誕生スルマデ』って。色々と間違えすぎだろうが。どうせスリランカ産ロボットなんだろうなぁ」
そうぼやきながら目的もなく辺りを見る。
薄暗い室内。節電のため「明るさ最大」を経験したことのない照明たち。
嗅ぐに堪えないブタクサ煙草(自家製)のくしゃみと涙がでそうな香り。
ツギハギだらけのジョッキを掲げぶつけ合う男共・女共。
しょうもない昔話で盛り上がる。
「知ってるか? 空って赤いんだぜ~」「何言ってるんだ、空は白だろぉ?」「馬鹿野郎、それは雲ってやつだろうが!」「ああ? 俺の方が間違っているとでも言いてェのかコラ!」「そう言ったろうが、ああ?」「殺ンのかコラぁ?」「殺ッてやろうじゃねぇかコラ!」
うわ、喧嘩が始まった。
「おい喧嘩だぞ!」「兄ちゃん頑張れよ~そうそこ、そこに一発だ!」「右に1杯な」「なら左に3粒もらおうか」「「乗った」」
でもって周囲は大盛り上がり。賭けまでする始末。まぁ下層住区にはロクな娯楽ないしな。こうなるのも致し方ない気がする。
……よくよく考えたら上層住区もあんま変わんないか。
と、先程の給仕が戻ってくる。
「オ待タセシマシタ。鶏肉風培養肉ノびたみんそぉす掛ケ、くろれらトもやしノ極東風和エ、ほわいとちょこれぃと風味ノ鉄分たぶれっとデス。ゴ注文に間違イハアリマセンデショウカ?」
「いや、ない。ご苦労さん」
給仕の腹が開き、出来上がった料理(レンジでチン! したともいう)をテーブルの上まで持ってきて軽快な音と共に去っていく。
ってよく見たらさぁ……甘辛要素、どこにあるんだよこの味付けに。
[
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それでは本日最後のニュースです。
────殲滅派団体「ニーズヘッグ」の広報担当であるジョ・ユヴ氏は本日、次のような声明を発表しました。
「前年12月24日に行われた第3
そして我ら「ニーズヘッグ」はここに誓います。
決して諦めない、と。
世界を変革せし元凶を1
一方で共存派団体「ヴィゾーヴニル」の指導者であるマヅモト・シ・ヨウコーウ氏は以下のようなコメントを──
]
まるで週刊誌みたいだが、これが昨今のニュースである。なんというか、俗っぽいとでも言えばいいのだろうか。7年前の自分がこれをみたら「たまげたなぁ」とでも言うに違いない。
どんな味付けをされようと決して変わるこのない食感をもつ培養肉をもにゅもにゅと咀嚼しながら、ふと考える。
次いで極東風和え──なんだこりゃ、味と見た目が乖離し過ぎている。というかこの味……コチュジャン?
辛味はいやだもうたくさんだ、と口直しに鉄分タブレットを皿から口に、直接流し込んだ。今度は硬い食感。下手すると歯ァ欠けそうなレベル。だがもう慣れた。慣れとは便利なもの。
故に問題なく、完食。
座席についてある呼び出しボタンをぽちりと。ものの数秒で給仕が滑ってくる。
「オ・アーイソ、デショウカ、オ客様」
「ああ。それと『
「商品ノ改善点、ゴ指摘アリガトウゴザイマス!」
席を立ち、会計へ。支払いはシンガポール・ドル(S$.)で済ませる。貰ったレシートには【ワターグループ 極東風レストラン『ぐりぃんぴぃす』】とあった。
ちなみに「甘辛」の件だが、鶏肉風培養肉が甘。クロレラともやしが辛……激、が前につく。鉄分タブレットが甘。並べると甘辛甘となる。
どうもこの店……というより管理AIにとって甘辛、とはこんな概念らしい。
二度と来ねぇからな。
店内の荷物預かり所で上着たちを受け取り、着る。更に着る。そしてダメ押しのもう一枚。
暖簾をくぐり、引き戸を開けて、外に。途端に感じる冷たい大瀑布。一瞬で水浸し、重量も倍加。
「ああ、クソ! そういえばこれから人工降雨の時間だった!」
「折角降らすのなら温水で頼むよ全く……!」
叶うことは決してないだろう愚痴を言いつつ、足早に目的地に向かう。
大通りの人気は疎ら。皆この人工降雨を避けているのだ。上を見上げると、鉄さびが浮いた無数の給水管が俺を見返す。
ここは地下。正確にはマレーシアのクアラルンプール連邦直轄領地下200メートル地点に存在する中規模核シェルターなのだ。
人口10万人を収容可……ということになっている。実際はと言うと、現在の人口は20万を越すという。が、正確なところは誰にもわからない。
いつの時代も難民の流入は管理者にとって頭痛のタネだ。
そして肝心の放射線防護については、びっくりするほどアテにならない。何せただ単に深く掘っただけの場所なのだから。
エアシェルター? それは何という料理ですか? ……というレベルである。
太股から振動。原因を取り出す。
無機物の板である。衣食住以外の欲望ならだいたいコレで満たせる、しかも情報収集と学びとコミュニケーションもできるとくれば、もう神の器といってよい。
📞マークをタップし、応じる。
画面の中央には【(*・∀・人)♥ 】……な感じのイラストが。
その上には「天使」とある。本名だ。
「
「聞いてくださいよぉヨハネせんぱ」
「そ・の・名・で・呼・ぶ・なぁ‼」
反射的に、つい、声のギアを二段階ほど上げてしまう。が、相手はケロリとしていて、続ける。糠に釘を刺した気分だ。
「まぁまぁ落ち着いて。後でビタミン水でもどうです?」
「……おごれよ」
「ヤですよ」
「おい」
「っとそんなことより、わたし呼ばれちゃったんですよー」
「どこにだ」
「冒険者ギルド・東南亜支部に、
「そうか、行ってくればいい……え? 何て? 俺も?」
「はい。後でスクショ送りますけど、ギルド支部長からの正式辞令です」
「俺の今の任務──」
「
「わかった。待ち合わせ場所は?」
「KLセントラル駅の13番で」
「承知した」
通話終了。内容にため息が、1つ。
俺のフルネームは
そう、キラキラネームというやつだ。最近では「輝き名」というらしいが……どう読んでもこれ自体がキラキラだろいい加減にしやがれってんだ。と思ったね。
まぁいいや。そのことはもう諦めた。今は支部に行くことに集中しよう。
俺は体の方向を変え、シェルター中心部へと向かった。
〇
こんにちは、こんばんは。
作者です。
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