完璧超人だけどウルトラ下戸の幼馴染がうっかり洋酒入りのチョコレートを食べちゃったら

江倉野風蘭

完璧超人だけどウルトラ下戸の幼馴染がうっかり洋酒入りの(ry

 わたしの幼馴染であるそのでらちかいは、世に言うところの完璧超人だ。

 賢くて見た目も綺麗で運動もできて、おまけに生徒会長を任されるほど人望もある。非の打ち所なんて一つもない。誓に本気の恋心を向けている子もこの女学院には多いし、実際告白された回数だって一度や二度なんてものじゃない。ついたあだ名は『一等星』。

 でもそんな一等星にも弱点はある。それは……


 ……アルコールだ。


 そう、誓はアルコールに弱い。絶望的に弱い。

 どれくらい弱いかって、縁日の甘酒で前後不覚になったことがあるくらい弱い。パッチテストなんかやった日には白いお肌が真っ赤っ赤だ。

 だから誓はお酒を飲まないと決めている。たとえ何が起ころうとも飲まないって。甘酒でさえダメだったのに、もっと度数の高いお酒なんて飲んだら絶対ロクなことにならないからって。


 ……そのはずだったのに……。



 §



「てへへ~、まりなまりにゃ~。てへへへへ~」

「ほら歩いてー、しっかり自分の足で歩いてー」


 防ぎようのない事故というものは、時として起こってしまうもので。

 12月18日の夕方、わたしは完璧に酔っ払った誓を寄宿舎まで連れ帰ろうと奮闘していた。


 簡単に説明すると、事のいきさつはこうだ……たまたま仕事の関係で学校を訪れたOGの先輩が、差し入れで海外のお高いチョコレートを持ってきた。先輩がかつて生徒会長を務めていたこともあり、そのままジュースなんかも買ってきて楽しく菓子パにしたのだが、差し入れのチョコの中には洋酒入りのものも混ざっており、事もあろうに誓はそれを食べてしまって……ということなんだそうだ。わたしに助けを求めてきた生徒会の子がそう言っていた。


 かくして酔っ払った誓は正気を失い、わたし以外の言うことを聞かなくなった。そしてそのわたしの言うことですら全部は聞いてくれない。よくて半分くらいだ。

 だってほら、わたしはとっととこの子を連れて帰ってベッドに放り込んで寝かしつけなくちゃいけないのに、この子ときたら……


「ねーまりなぁ、えーがみにいこ! え、い、が!」


 なんて言って、わたしを引っ張って明後日の方へ行こうとしたり(しかもそっちの方角に映画館はない)、


「ねーねーまりなぁ、さむいからぎゅーってしてぇ?」


 とか言って、その場にへたり込んでしまったりで。

 普通に歩けば5分とかからない距離を、もうなんか30分ぐらいかけて歩いている気がした。


 ……はぁ……。


 いやーまさか、誓の酔ってる姿をこうしてまた見ることになるだなんて。11年ぶりの2回目か。あの頃はまだわたしのほうが背も高くて、力も強かったっけ。もしそのまま育ってたらこのお持ち帰り作業にも大して苦労しなかったんだろうな。

 ところが現実ではいつの間にか逆転してしまっていた。今や背は誓の方が15cmも高いし、力だってこの子の方がずっと強い。わたしなんて握力30kgもないのに、この子は(こんなほっそい腕のくせに)40kg以上あるんだから。

 おかげでわたしはもうへとへとだ。きっと明日は筋肉痛だろう。ベッドから起き上がれない可能性もある……。




 それでもどうにか寄宿舎へ辿り着き、ドアを開けて、居室に入る。自分で靴を脱ぐことすらできなくなった誓のローファーを脱がせて揃えて、カバンと上着を机の上に置いてやって、何かもにょもにょ言ってる本体をベッドの脇まで引きずっていく。


「よっこらせいっ」


 とベッドへ転がし、毛布をかぶせて「はい、おやすみ」。

 ふぅ、骨が折れた……。全く、ほとんど避けようのない事故だったとはいえ、しょうがない子なんだから。

 さてと。ああ、そういえば生徒会室の鍵、この子がまだ持ってるままなんだっけか。

 そしたらわたしが行って戸締まりしてこないと――と誓に背を向けようとした、まさにその瞬間。


 きゅっ、と。

 スカートの裾をつままれた。


「?」

「……で」

「なあに?」

「どっかいかないで」

「どっこもいかないよ、生徒会室の戸締まりをしてくるだけだよ」


 今度は寂しがり屋さんか、ほんとにしょうがない酔っ払いだなぁ。

 でも戸締まりはしなきゃだめなの。ちゃんと鍵をかけてキーを職員室に返さないと事務員さんに怒られちゃう。だから行ってこないとだめなんだよ。

 そう心を鬼にして……ちょっと色々ぐらつきかけたけど鬼にして、誓の手をそっと解いて。背を向けてしまおうとするんだけれど。

 またしてもきゅっとつままれる。


「あのね誓、すぐ戻ってくるから――」

「やぁだ、すぐでもやだっ。おいてかないでよぉ」


 ……うぐっ。


「こんなにあまえれるの、まりなだけだよ? なんでだめなの? おねがいだから、ひとりにしないでよぉ」


 ………………う、うぐぐぐぐっ……!


 わ、わわわわわわたしだけとか……! そんな! リトルいささかわずかにちょっぴり可愛らしい台詞を使ってみたって、わたしの心は揺らぎはしないぞ……! わたしの意志は『こう』と決めたら硬化テクタイトよりも硬いんだから。ほんとだぞっ。

 だからわたしは行く! 行くったら行く! 誓が明日事務員さんにお小言を言われて嫌な思いをしないためにも行かなくちゃならんのだ絶対わたしは行…………!!!!!!


「だめぇ……?」

「………………………………………………」


 ………………うーん。




 ………………鍵。

 生徒会の子にご足労願って、ここまで取りに来てもらうかぁ……。




 かくして硬化テクタイトは打ち砕かれた。甘えん坊で寂しがり屋さんの幼馴染に。

 わたしはLINKリンクで生徒会の子にメッセを送り、スカートの裾をつまむ誓の手を左手で握った。握って、指と指とを絡め合わせた。普段ならこんなこと絶対やんないけど、こうなってしまってはもう仕方がないから。特別だよ、今だけ特別。

 そして嬉しそうに顔を綻ばせる誓の頭を、右の手でそっと撫でてあげた。お姉ちゃんが妹にそうするみたいに。

 撫でて撫でて、なでなでして……そうしているうちに、誓はいつしか眠りに沈んでいった。




 で、翌日。

 酔っ払った自分が何をしていたか知らされた誓は顔面を大爆発させ、もう今後は絶対に、まかり間違っても一切のアルコールを摂取しないと、天の神様に誓ったのだった。

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