第4話

「ごめんなさい。やっぱり、私、香苗のことが好きなの」


「私も、お姉ちゃんのことが好きだよ」

 そう言いながら、香苗は私の肩に手を回す。

「違うでしょ、香苗のは……」


 私の「好き」は恋愛の好きだ。そもそも私が友樹と付き合ったのは、香苗に対する思いを消すためだ。


 でも、初めて香苗に会わせたとき、私が見ていたのは友樹ではない。香苗しか目に入らなかったのだ。誕生日プレゼントのことだって、友樹に香苗が取られてしまうのではないかという思いが、怒りに変わったわけで。


「違わないよ。お姉ちゃんからしたら、私はまだ子供かもしれないけどさ。『好き』の違いくらい、わかるよ」

「え……」


 私は香苗の顔を見る。香苗は真顔だった。

「私がお姉ちゃんの真似してるの、お姉ちゃんになりたかったからだよ。お姉ちゃんと、ひとつになりたいの」

「ひとつにって……」

 何を言っているのだろうか。まるで意味が分からない。


「ひとつになれば、私たちはずっと一緒でしょう?」

 香苗は微笑んだが、どことなく寂しそうだ。


 そんな香苗を見ていたら、私は香苗の唇にキスをしたくなった。

「キス、していい?」

 私がこんなことを聞いてみる。途端に香苗の顔が赤くなった。

「キス、していいの?」

 香苗はオウム返しのような反応をする。私はなんだかおかしくなってしまった。

「香苗が嫌じゃなかったら、するよ」


 私は少しだけ笑いながら言うと、香苗の唇にそっとキスをした。


「ねぇ、もっと……」

 香苗は甘えた声で囁くと、私をベッドに押し倒す。そして、何度もキスを繰り返した。香苗は舌を入れてきた。私はそれを受け入れる。


「んっ……」

 お互いの唾液を交換し合う。頭がクラクラしてきた。私は必死に香苗の背中にしがみつく。

「ぷはぁ」

 息苦しくなり、私は口を離した。

「はあ、はあ」

 私は呼吸を整える。香苗は私を見つめている。


「香苗、本当にいいの?」

 私は念のため確認する。

「うん。むしろ、今更ダメって言われても困るよ」

 香苗は私の首に吸い付いた。


「ひゃあっ」

 私は、思わず声が出る。

「キスマーク、ついた」

 香苗は誇らしそうな顔をしていた。

「……キスマークって……」


 私は恥ずかしくなった。首なんか、目につくではないか。私の心境を知ってか知らずか、香苗は吸い付いたところを撫であげる。


「私は、お姉ちゃん一色なの。お姉ちゃんも染めてあげるね」

 そう言うと、香苗は私の身体中にキスをする。私はされるがままになっていた。


 ……これでよかったのだろうか。そもそも、香苗はいつからこんなだっただろう。

 香苗は物心ついたときから、私の真似ばかりしていた。最初は手本となる年長者が私しかいなかったからで、やがて卒業するものだろう。


 ――いつからだろうか。香苗がいなくなることを恐れるようになったのは。


「香苗、いなくならないで頂戴」

 私は香苗の首に手を回す。

「お姉ちゃんも、いなくなっちゃダメだよ」

 香苗は唇を重ねてきた。


 私たちはこれから、どうなるのだろう。でも、今は考えられない――考えたくない、の方が正しいのだろうが。今はただ、香苗に染められる幸福を味わうことにした。

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朱に交われば 奈々野圭 @nananokei

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