第11話 潜入成功
「シュナだったか……?初めて顔を合わせたが、こりゃあ噂にもなるな。かなり美人だぞ、おい」
この街のギルドマスターと名乗った強面の男が揶揄うように口にした言葉に反応することなく、私はそっぽを向いたまま無視だ。そのマスターの隣には副マスターだと名乗ったインテリ男が座り、横を向いた私に少し苛立った様子を見せている、
一癖も二癖もある冒険者を纏め統率しているような人達とは関わらないのが一番。下手に気に入られては面倒だからと敢えてこの態度だ。
「で、そこの美人さんを取り込めるのか?」
「その必要はないわ。そんな女が居なくても支障はないもの」
「それを決めるのはフローリアじゃなく、リーダーであるラニエだろうが」
いや、最終的に決めるのは私だからね……。
「魔族相手ですから、出来れば戦力は多いほうが良いと思っています」
「Aランクで攻撃系統の魔法に剣も使えるとなれば十分戦力になるからな」
部屋に入るなり強面がインテリ男から渡され目を通していた書類は私が書いた登録書だったのかと舌打ちする。別の街にある筈の登録書が此処にあるということは、前から目を付けられていたということだ。良い意味でか、それとも悪い意味でなのか……。
「だが、美人さんの機嫌は悪そうだぞ」
「当然でしょ。勝手に値踏みされて腹が立たないほうがおかしいわよ」
「此処は魔族領が近いから高ランクの冒険者は予め登録書を集めておいたんだよ。ラニエ、先に依頼内容を説明しておけ。断るのは聞いてからでも遅くはないだろ」
「良いんですか?」
「構わない。隠れて動くわけでもないからな」
横目で窺っていたラニエに促され顔を正面に向ける。ギルド長の隣に座るラニエは真剣な眼差しで口を開いた。
「俺達が受けた依頼は魔族領の偵察と魔王が復活しているかを探ってくることだ。この二つは国から依頼が出されていて今準備を進めている。数日後には魔の森へ入り、そこから出来る限り魔族領の中心へ進んで行くつもりだ。だから、シュナには是非一緒に来てほしいんだが、駄目か?」
「断るわ。魔族領なんて……そんな危ない橋は渡りたくないの」
すげなく断ると室内の空気が重くなるのを感じたが、それすらどうでも良いという態度を崩さない。
聖騎士が集まるこの街に絶対に近付こうとしなかった私が、ギルドが魔族領の調査に乗り出した時期に突然現れSランクパーティに接触した。偶然だとも思えるが捻くれた考えを持つ者なら私という存在は怪しく見える。
彼等が少しも疑っていないと思えるほど私は平和ボケしていない。
Aランクとはいえ悪評高く性格に難あり、パーティの一員であるフローリアが嫌悪している冒険者を入れれば不破を招くだろうに……大した技能もない冒険者をこうも熱心に誘うのだから怪しく思えてしまう。
だからこそ、ここはキッパリ断って仕方がなくといったていでパーティに潜り込むのが一番良い。
ふいっと顔を背けると、ダン……!とテーブルの上に杖が、刺さった……。
冗談でも比喩でもなく、真っ直ぐに杖が刺さっている。
「貴方ね、魔王が復活していたら人族は脅かされることになるのよ。それなのに断ると言うの……!」
ギルドマスターかローガン辺りが何か言ってくると思っていたので、私を毛嫌いしているフローリアが真っ先に口を開いたことに驚いてしまった。
「貴方みたいな人間にだって大切な人は居るでしょう!?その人達がどうなっても良いと言うの?」
「……」
「ちょっと、聞いているの!?」
コレ、彼女は本気で口にしているのだろうか……。
そーっと周囲を窺うと、想像以上に皆が真剣なことに再度驚いた。
……え、大丈夫なの?この人達。
こうして人間が偵察を送るのだから魔族だって同じようなことを考えて実行しているかもしれないと、情報を得るならギルドが狙われるし、内側から崩されないよう見知らぬ者をパーティに入れるべきではないとか、色々とあるだろうと逆に心配になってきた。
「……魔王が復活していたら勇者を召喚するしかないじゃない」
此方から試してみようかと勇者というワードを口にしてみた。これに対してどう反応するのかと思えばラニエが「そうだな」と呟く。
「もし本当に魔王が復活していたら、勇者を召喚することになると思う」
何でもないことのようにラニエが口にした召喚という言葉に誰一人驚く素振りはない。此処に居る者達はまるで絵物語のように語られてきた勇者召喚が実際に出来ることを知っているのだ……。
召喚魔法を扱える国を調べるには片っ端から各国の城に入り込むしかないと思っていたのに、このパーティと繋がっている国が当たりかもしれない。内心大喜びしながらも目の前に居る者達に肩を竦めて見せた。
「けれど、魔王が復活していなかったら必要がないことだ」
「だから調査に行けと?魔族はそこらの魔獣とは違うのよ?極力関わらないのが一番だわ」
「またあの悲劇を繰り返すわけにはいかない。だからシュナにも協力してほしい」
悲劇……確かに人間側からすれば前魔王様の行いは悲劇だろう。
人間だったなら彼等と同じ想いを持ち依頼を受けるのだろうが、生憎私は魔族だ。
「もし危険に陥った場合、逃げる手段はあるの……?」
「この国の王都にある城へ転移の許可を貰っている」
「城……?この街ではなく?」
「魔王が復活していた場合は直ぐに召喚準備に入るらしい。だが、そう簡単に召喚を出来るわけではないから復活していたとしても暫くは俺達で対処に当たる」
召喚には準備が必要と……ふむふむ。
「もし転移するような状況になったときは俺達が負傷しているときだ。致命傷を負わされたときのことも考え、戦力を残す形で三名は城に待機している。今回は調査だけのつもりだから無茶はしないつもりだが」
「特別な魔法が使えるわけではないわ。剣のほうが得意なくらいだし」
「高位の魔族と鉢合わせることがなければ剣も抜かない」
「余計な面倒事は嫌なんだけど……この面子に囲まれて、依頼内容まで勝手に話されたら嫌だなんて言えないじゃない」
そう諦めを見せれば、黙って聞いていたマスターと副マスターに向かってラニエが嬉しそうに微笑んだ。あれだけ文句を言っていたフローリアも黙り、ローガンは私の腕にベッタリくっついて離れない。
「交渉成立だな」
冒険者シュナとして魔族領へ向かうのは五日後。
さて、その前にカッリス様に会いに行かないとね……。
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