第6話 会議ですよ
侍従見習い達に囲まれながらドナドナされてやってきた会議室。
最早この行進は城の名物化としているのか、初めの頃とは違い道中行き交う人にギョッとされることなくスルーされていたりする。
リシュナが将来有望な魔族の子供達に目を付けているという大変不名誉な噂があると、二度目の会議のときにお父様から耳打ちされ即否定してもらえるよう頼んだのが懐かしい。
そもそも、厳しい顔をした侍従見習い達に逃げ出さないよう左右から腕を掴まれ連行される私を見て、目を付けているのではなく別な意味で目を付けられているのだと気付いてほしい。どこからどう見ても囚人の護送だというのに……。
「……あら、皆様もうお揃いで」
会議室の前に待機している護衛に扉を開けてもらうと、部屋の中には五大侯爵家の当主は勿論、その傘下の者達といった錚々たるメンバーが着席した状態で待って居た。
上座の席は空席のまま、その左右には私の父親であるリベリオ・サヴィオとヘイルの父親であるカッリス・スラッツイアが。
一斉に視線を向けられ内心ビクビクしながらも真っ直ぐ前を向いたまま上座の席に腰掛けた。
「リシュナ嬢は今日も綺麗だね」
左隣から掛けられた言葉にうっそりと微笑む。
カッリス様の持論では女性は褒めて愛でるものらしく、息子のヘイルとは違って社交辞令がとてもお上手だ。ヘイルも同じ遺伝子を持っているのだから、表面だけでも取り繕えるこの方を見習うべきだろう。
「私の娘が美しいのは当然だが、あまり褒めるな。調子に乗ると厄介だからな」
右隣のお父様からは痛い苦言が飛んできたがコレも毎回のことなので笑って流す。
厄介だと口にしながらもお父様は娘であるリシュナが可愛くて仕方がないのだ。流石に我儘が過ぎるとお説教が始まるが、それすら甘いものなのでリシュナが堪えることはなく次から次へと問題を起こしていた。
「娘は可愛いよね……うちは男の子ばかりだからリベリオが羨ましいよ」
「やらんぞ」
「それならヘイルを婿にやろうか?それでも私は構わないよ」
「必要ない」
五大侯爵を束ねているお父様を支えているのがカッリス様で、この二人は親友のようなものらしい。親同士は仲が良いのに子供同士は険悪で困っていると、二人からは度々愚痴を言われてきたが鼻で笑って気にしたこともなかった。
だから、私とヘイルが人間の街に視察に行ったことを知った二人は嬉しそうな顔をしていたが、残念ながらヘイルと私には越えられない溝があるのでお父様達の期待には応えられないだろう。
現に、私の背後に控えて居るヘイルからの視線と魔力が背中に突き刺さっている。婿という言葉が出た辺りから殺気まで飛んできている。お父様達の冗談なのだから軽く流してほしい。
「では、会議を始める」
お父様からの宣言によって始まった会議は、各領地の報告、資金対策や最近増えた冒険者に対しての防衛策など、魔族であっても人間と大差ない。領地があり税金も課され、災害だって普通に起こるので対策だってする。家族や友もいて、食事や睡眠だって必要。稀に魔力の豊富な他種族を食する者がいたりもするが、人間だって家畜を食べるのだからそれと同じことなのだろう。
例外があるとすれば排泄だろうか。お腹に入れた物は魔力に変換されるので出すものはない。
こういった会議は大切だが、月に一度か半年に一度でも良いくらいだ。
それなのにこうも頻繁に会議が必要となっているのは冒険者の所為で、各領地の報告を早々に終え最近頭を悩ませている問題へと話が変わった。
「ではそろそろ私のほうから良いだろうか。前回も報告したが、私の領地に入り込んでいる冒険者の数が多くてね。私はそれほど人間を嫌ってはいないから、此方に被害がない限りは多少のことも多めに見ているんだよ。でもね、他の領地では別だ。ある場所では冒険者狩りなどということを行っているらしく、それに対抗するかのように高ランクの冒険者が増えてきた。残念なことに、彼等は友好的な私の領民に対して少々横暴でね……そろそろうちも本格的に冒険者を狩るべきだという声が多くなってきたので皆の意見を聞きたいのだが」
カッリス様が何やら大事な話を始めたタイミングで、私はテーブルの上に用意されている紅茶を飲みつつ目の前にあるティースタンドを物色する。下段にはサンドイッチ、中段には温料理、上段にはデザート。その周囲にはジャムやクリーム、スコーンも用意されていて定番のアフタヌーンティーとなっている。
部屋の隅に給仕として侍従が控えて居るが、魔王様代理の私や五大侯爵の当主には専用の給仕が付き、リシュナの給仕は背後で不機嫌なことを隠しもしない部下三名だ。
これに関してはリシュナの我儘ではなく、カッリス様が決めたことなので私に非はない。
それなのに、ティースタンドと彼等と交互に視線を向けるが分かっていて知らない振りをされている……。
自分で取って食べても良いのだけれど、ナイフとフォークを使って綺麗に取り分けられる自信がないのだが……もしかしたら、リシュナなら素手でひょいと摘まんで食べても怒られないのでは?
「今はあまり事を起こしたくはないが、あまりにも目に余るようであれば仕方がないだろう。私兵で事足りるのか?」
「全ての人間を殲滅するわけではないから私兵で十分だよ。けれど、聖騎士が出てきたら厄介かな……城の護りは足りているかい?」
「魔王様のお側には常にリシュナと師団が控えているからな……リシュナ、何をしている」
「おや……?」
そろりと伸ばした手がサンドイッチを掴んだと同時に、右隣りのお父様からは咎められ、左隣からは苦笑交じりの声が聞こえた。
だって、ルトフィナ様と遊んでいたからお昼ご飯食べそこなったのよ……。
そーっとお父様を窺うと眉間に皺を寄せ左右に顔を振っている。駄目かと手を引っ込めるとカッリス様が「ヘイル」と物凄く低い声で息子を呼び寄せた。
「お前は何をしていたのかな?女性の給仕すらまともにできないとは、私はそのように教育したつもりはないよ」
「すみません」
「不甲斐ない……下がりなさい」
肩を落としたカッリス様がそんざいに手でヘイルを追い払い、ナイフとフォークを手に立ち上がり自ら給仕を始めた。普段はされる側であるというのに……完璧な給仕に流石カッリス様!と尊敬の眼差しを向けると甘く微笑んでくれる。
「私の好みで選んでしまったが、構わなかったかな?」
「はい。どれも好きな物ですから」
優雅な仕草で料理をお皿に取り分けそっと差し出してくれるカッリス様はヘイルなんかよりも余程絵本に出てくる王子様のようだ。お父様は常日頃からカッリス様の性格はよろしくないと口にしているが、今のところは優しいおじ様だし、ルトフィナ様と私に害がないのであればどうでも良い。
お皿の上に乗せられている物は全て一口サイズなのでパンやスコーン以外はフォークでパクリといただく。うん、美味しい!と感激していると、お父様の隣に座るご老人はコホンと小さく咳払いをしたあと口を開いた。
「どうも話が逸れてしまったようだが、冒険者狩りはどうするのだ?」
「一旦保留で」
モソモソと口を動かしながら右手を上げ冒険者狩りにストップをかけると、発言していたご老人から睨まれた。
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