第12話尋問

「あ、起きた」

倒れていた男はやっと目を覚ました。

「う、うう」

男は私に蹴られた腹を気にしてさすっている。私達は私を人質に取ったこの男が、少し身に着けている物が他と違い豪勢であるということからここの責任者のようであると推測した。

「早く起きなさいよ、狸寝入りは通じないわよ」

そういって、相手の頭をさらに蹴飛ばすマリーヌ、あまりにも容赦がない。

「うご!」

意識が完全に戻ると面倒なのでそこらへんにあった椅子に縛り付けておく。

「ローラ、慣れてるね。こういうことしたことあるの?」

つい慣れた手つきでやってしまったのでレイ皇子に怪しまれてしまった。第二次世界大戦で少し経験があるとは口が裂けても言えない。

「ははは、そうですかね」

「ローラがそんなのやったことあるはずがないでしょ」

そう言ってくれたマリーヌに感謝をしておこう。

「だれだ、てめえら」

男は開口一番そう言った。なるべく怖い声を出そうとしているようだがこの上では滑稽である。

「あんた、自分の立場わかってんの?」

男は彼女の呼びかけに対して無言で答えた。彼もなんだかんだ自分の立場が不利であるということは理解しているのだろう。

「まあいいわ、取りあえずあんたの名前とここの構造について教えなさい。あんたがここの一番上ってわけじゃないでしょ?」

男はこの問いかけにも無言で私達を睨むだけだ。

「この男が問いかけに素直に答えないたびに指を折らないか?」

このえぐい発想の持ち主はレイ皇子である。実はレイ皇子はマリーヌより過激な思想を持っているのかもしれない。

「いいわね」

前言撤回。そう言われたマリーヌは躊躇なく彼の右足の骨を二本折った。

「うがああ!」

たまらず男は声を上げる。

「てめえらナニモンだ、衛兵か」

前と同じセリフを彼は繰り返して言う。しかし顔にはすでに脂汗がいくつも浮かんでおり余裕といった表情ではない。

「違うわ、そうね。正義の味方……これとも違うわね。私の興味で動いているだけだもの。さすらいの探偵とでも呼びなさい」

さすらいの探偵、彼女のそんなワードチョイスに思わず笑みがこぼれそうになり必死で我慢する。彼女は自分たちをそのように客観視しているのか。

「さ、さすらいの探偵だと?ふざけているのか?」

「違うわ、大真面目よ」

男は戸惑い始めた。

「本題に入ろう。おい、お前。貴族の子息二人が呪いで殺されていた事件についてしていることがあるだろう、すべて話せ」

アラン皇子がついに本題に入った。

「なるほど、てめえら中身は貴族だな。話がやっと見えてきたぜ」

男はそう言ってにやりと笑う。

「マリーヌ」

「ええ」

「いっててえ!」

カチンときたのかレイ皇子はマリーヌにまた指を折らせた。可哀そうにこの四人の中での権限は半分以上マリーヌが握っていたばっかりに全身の骨がおられるのではないかという勢いである。

「で、どうなんだ」

男を少し可哀そうだと思ったのかアラン皇子の口調は少し優しくなっている。アラン皇子とは案外気が合うのかもしれない。

「……知らねえよ、そんな事件なんて。おれはほとんどこの地下の闘技場で過ごすんだ」

マリーヌが目を細める。しかしこの発言は俺たちにとっても大きなヒントとなりえる発言だった、男がほとんど外に出ないというが真実だとしたらここで貴族相手に稼いだ金を使っている者がいるはずである。

「嘘だったら今度はろっ骨を折るわよ」

「嘘じゃねえよ、信じるかは勝手だが」

だとしたらこの男は相当な小物であるということになってしまうが……

「そもそも、この闘技場の出場者はどこから連れてきてるのよ?」

私が前々から気になっていたことをこいつに聞いてみる。

「……貴族の奴隷だとか、そこらへんのごろつきを捕まえて脅してるんだよ」

意地が悪そうな顔で男はそう言った。

「奴隷だと、そんなものは父上がなくさせたはず。適当なことを言うなお前!」

奴隷、という言葉にアレン皇子が反応して、剣を外して男に詰め寄った。

「父上?……まさかその仮面の下は」

皇子は自分の失言に気づいてすぐに仮面の下の口をふさぐ。

「おっと、それ以上は言わない方が身のためだよ。君の生命線を握っているといっても過言ではない」

レイ皇子はここできちんと杖を男の首に押し当てた。

「わ、わかったよ」

彼は両手をあげて降参の意志を示す。

「にしても、ろくな情報がないわ。なんか隠してるんじゃないでしょうね」

すっかり怖がって大げさに首を振る男。

「あ、いや。関係ないかもしれないけど」

何か思い出した風の反応をする男。

「なによ、なにも隠さないで早く言いなさい」

「呪いで母親と兄弟が殺された男なら知ってるぜ」

呪いで母親と兄弟が殺された?

「呪いってそんな簡単に使えるものではないはずだが」

「詳しく教えなさい」

男は少し考えた末、こう語りだした。

「これは半年ぐらい前の話なんだが、キツネの仮面を被った男がやってきたんだ。別にここじゃ珍しいことはないがな。ただその男はなにも言わずにじっと試合を見てたんだ。身動き一つしなかった。お金を出すこともないから迷惑な客だったんだよ」

「それで?」

マリーヌが一息置いた男を急かす。

「キツネのお面をかぶった男はもうここには来なかったよ。でも、俺の知り合いで情報屋をやっている奴がいてな。そいつがキツネのお面を被った男が来たというんだよ。情報屋のやつは男が自分の家族を殺した呪いを使った奴を探している、と言われたらしい」

話が見えてきた。

「それで情報屋は男に探していた奴の場所を教えたの?」

「いや、知り合いの情報屋は呪いを使えるものに心辺りがなかったらしい。だから男にはなにも言わなかったみたいだ」

この話で考えることはまず男の家族を殺した奴がマリーヌの知り合いを殺した奴と同じ人物なのかどうか。そしてこの話が本当かどうか、という点だろうか。人づての人づてなのであまり話としては信用できないな。

「で、あんたの処分なんだけど」

男の目に緊張が走る。

「衛兵に決めておらうことにするわ」

「ちょ、待ってくれよ。言えることは全部言ったはずだ」

目の前の男は必死に自分の保身を訴える。

「ええ、だからよ。殺されてないだけ感謝しなさい」

「おい、待て!」

私達は男を放っておいたままその場から去ろうとする。

「待て、待ってってば」












「兄様」

「なんだ、アレン」

闘技場での戦いが終わり女性人二人を送ったあと二人の皇子の会話は始まった。

「あの闘技場、あの男が仕切っていたとはどうしても思えません」

レイはその言葉に対して何も答えない。

「どこかの……貴族があの男を雇ったんじゃないでしょうか」

「なんで貴族なんだ」

重い沈黙が二人の間に流れる。

「かなり長い間、あのような行為が行われていたみたいですが衛兵があの場所を見つけられなかったとは思えません。そんなことができるのは貴族だけ」

アレンの言葉に自分の中でしかもかなり高位の、と付け加える。並みの貴族では衛兵を飼いならすことなどできない。

「アレン、もしかしたらこの国の差別は思っていたより続いているのかもしれないね」

アレン皇子とレイ皇子の父親は今現在ここマケドニア王国の君主として君臨している。民衆差別の禁止、市民でも字が読めるように学校教育の整備、国内の産業振興など業績は数知らず。中でも奴隷制度の撤廃は王がした看板事業だった。

「父上とこの国のためにも事件をきちんと解決しなければいけませんね、兄様」

「ああ、早速この事件の背景にいる貴族を見つけることからだ。父上に報告したうえでしっかりやるぞアレン」

皇子たちの物語もローラと同じくまた始まりだした。








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