第11話ローラ・エクレア

※ローラ視点に戻りました

マレーヌが戦場へと体を躍らせた時、わたしは自身を恥ずかしく思った。目の前で起こっていることは多分間違っているそう思いながらも何も動けなかった私、彼女は躊躇いなくあの場へと駆け付けた。気づいたら私も観客席の安全柵に私は足をかけていた。

横目で私とほぼ同じタイミングで飛び出そうとしているアレン皇子の姿が見える。私はそのまま一気に下へとその身を躍らせた。

建物の三階ぐらいの高さから落ちたのだが、興奮を促す神経物質が出ているのだろう。足の痛みはほとんど感じなかった。

「きたのね、あんたたち。危ないから来なくてもよかったのに」

言い方の割に彼女の口は緩んでいてにやにやとしている。わかりやすい女である。

「おおっと、闘技場に乱入者か?」

その場を沈黙が支配する。突然の出来事に動転したのか少し止まっていた進行。そこからからアナウンスが入った。どうやら、彼らは私達もエンターテインメントとして客に提供するつもりのようだ。

「いい度胸ね、私たちを邪魔するならかかってきなさい!ここにいる全員でも相手するわ」

彼女がそう言うと、今まで戸惑っていた目の前の斧を持った男が素早い動きで彼女にむかって斧を振り下ろす。

「遅い!」

彼女の右足が動いた、そう思った瞬間相手は闘技場の壁へと吹っ飛ばされていた。

その一瞬の動きに今度は私の動きがフリーズする番だった。

マレーヌ、そんなに強かったの?

どう見ても私よりは強かった。いや、今まで見た誰よりも強い。人間業じゃないみたいだ。

「次はあんた達の番だからね」

彼女はそう言い捨てて観客たちの方を睨んだ。少しの静寂の後、観客たちはいっきに逃げ惑う。小さな出口はすぐにパンク状態になった。

「お客様、急がず出口へと向かってください。侵入者は警備部隊が対処いたします!お客様、急がずに……落ち着いてください!」

いくらアナウンスをしようともパニックになった群衆は止まらない。口々にどけ、だのじゃまだの様々な罵詈雑言周りに浴びせている。

「あなた達はお客様、ではないようですね」

いつの間にか前には仮面を被った男三人が男たちが登場していた。こいつらがアナウンスが言っていた警備部隊、という輩か。

「ええ、もちろんよ。あんた達で最後?」

体格のいい三人に前に立たれても彼女は全く怯むことがない。アレン皇子は剣を鞘から取り出した。私もなにか武器が欲しいな。できれば戦争の時に使い慣れていた銃が良いが多分この世界にはないだろう。しょうがないのでそこらへんに倒れていた男が握っていた斧を使う。やはりこの体には大分重い、なかなか力を入れることができないな。

「ローラ、戦えないなら無理しないでいいわよ。こんなやつら私一人で十分なんだから」

マレーヌにも気を使われてしまう。だけれど実際そうなのだろう、彼女の実力は群を抜いている。

「そう、じゃあ私は横で見ているわ」

私の力は後に温存しておこう。

「それが良いわ、じゃあさっさとこいつらを潰さないとね」

「潰されるのはお前らの方だよ」

戦いが始まった。一人をアレン皇子が、もう二人をマリーヌが担当している。

よくみるとアレン皇子の剣もなかなかのものである。

「お前ら、ただの貴族じゃねえな?何者だ?」

この二人と相対していた男がそう言った。目の前のトラの仮面を被ったものが皇子だと教えたらこいつらはひっくり返るんではないだろうか。不敬罪だぞ不敬罪。

「私はマリーヌ!ただのマリーヌよ」

そう言うと彼女の前にいた敵二人を拳で吹っ飛ばす。

「はあっ!」

アイル皇子の方もちょうど終わったようである。

私の方も仕事をしなければそこらへんに落ちていた剣を拾いもう人がいなくなった出口に向かう。

「動くな」

私はここで突然自分の後ろに男がいることに気がついた。首筋に細い刃物が当てられているのがわかる。冷たく低い声だった。

「おい、お前ら二人!」

声からおそらく後ろに立っていた人物は男であろうということがわかる。不覚だ。

「こいつの命が惜しければ今すぐ止まれ」

必然的に二人の顔と向き合う形になる。

「放しなさいよ」

そんなことを言っても意味がないのにマレーヌは少し怒ったような顔をしている。アレン皇子は全くのポーカーフェイスを保とうとしていたが剣を持つ手に力が入っているのがわかった。

「まず女だ、お前の手を男の方が縛れ」

「卑怯よ!男なら堂々と勝負しなさい」

マレーヌはがあがあとわめきながらもおとなしく手を縛られていく。

「じゃあ、次はそこのお前で剣を置いてここから立ち去れ」

「……」

アレン皇子は無言で男を睨みつけながらそのまま去っていくかのように見えた。そして男の雰囲気が緩んだその瞬間、

「土よ我が魔力を使い現出せよ!」

レイ皇子のそんな声が聞こえた。私と男の足元の土が明確に盛り上がっていく。

「え」

私の首元からナイフが外れたのを感じると驚いている男の腹に向かって蹴り上げる。

そして倒れこんだ男の断末魔を最後にその場は静まりかえった。







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