第10話わたしが彼女を好きな理由

※アイル皇子視点です

初めて彼女マリーヌと出会ったのは学園のパーティーという場所だった。

「アレン様」

「アレン皇子」

「アレンさん」

目の前の女生徒は口々に私の名前を呼び私を囲む、決しては私は彼女達と話したいとは思っていないがなぜ近寄ってくるのだろう、私が皇太子だからだろうか。私の父が王だからだろうか。私に言い寄ってくる女たちは皆同じ顔をしているように見えた。眼はみな同様に死んでいて、私ではなく私の後ろにある何かをみな見ているのだ。数少ない男友達であるマリックも遠巻きで苦笑いをしているだけだった。立ちっぱなしのまま周りの女性たちに断る手間すら惜しいと思い愛想笑いをし続けて、一時間もたつと楽しいはずのこのパーティーが早く終わらないかなと思う。私にはすでに父上が決めた許嫁がいるというのに。彼女もまた彼女で、少し人格的に問題はあるのだが目の前の無個性で何も面白くない女性たちよりは幾分かマシに見える。

「おい。お前、食事を持って行くな!」

そんな時突然どこからか騒がしい音がした。比較的穏やかな食事の会場にたっていたホテルマンが誰かを追っているようだ。つい、その目線の先を追ってしまうと食事の皿を山盛り持ってそのまま持って帰ろうとしている女を見つけた。その女はドレスとスーツ姿の学生が大半のこの場所で半袖に長ズボンという極めて庶民的な格好をしている。もしかしたらこの場所に迷い込んだのだろうか。

「あら、庶民の方がまぎれたのですかね」

「あなたみたいのが入ってくる場所じゃないのよ」

「早く出ていきなさいよ、貧乏人」

周りにいる女たちは彼女に対して決して好ましいとは言えないような言葉を吹きかける。彼女にも聞こえるような大声で言っているのだからたちが悪い。こういう状況の時にも彼女たちは同じような行動しかとれないのだろうか。私の父はこういう貴族の一般庶民に対する差別をなくそうとしていたのに、こいつらはと思うと少し彼女達に対して怒りがわいてきた。しかし、この怒りは彼女に裏切られることになる。

「ねえ、今の。言ったのあんたたちだよね?」

なんと彼女は持っていた皿をその場においてこちらに向かってきたのだ。青い髪をした彼女は怒りをふりまいているので他の生徒たちはすぐに避けていく。追っていたホテルマンでさえも彼女の怒りに驚き、なにも動かないでいた。

「ねえ!だれか返事しなよ、それとも貴族様は頭が空っぽだから返事ができないのかな!」

そう言うとまた一歩また一歩カツカツとこちらに近づいてくる。私の周りにいた女達は何かを察知してすっと逃げていった。そしてついに彼女は私の前までやってくる。私を品定めでもするように足から頭のてっぺんまで見渡すとこう言い放った。

「あんたが親玉?」

その時のマリーヌは今も覚えている。私を面白そうに見る楽しそうで野心的な目、真っ直ぐと私を指した指、私には彼女が着ていた服がこの場にいる誰が着ているそれよりも美しく見えたのだ。

「君は?」

のマリーヌよ、覚えておきなさい」

その日から彼女との濃密な日々は始まった。










彼女を探すのに全く支障はなかった。なぜなら彼女は同じ学年で変人として相当な有名人だったからだ。貴族、もしくは特別裕福な庶民しか入れないこの学園において一般市民として初めての特待生合格。しかも、苛烈で先生や上級生でさえも全く敬語を使わない性格らしい。

「やはり面白いな」

もっと彼女のことを知りたい、初めてそう思えた女性だった。しかし、いかんせん女性を誘う経験がないため(誘われた経験なら無数にあるのだが)やり方がわからない。

しかし、あまり悩んでもしょうがない。当たって砕けろ、そう思った私はマレーヌのクラスに行ってはなしてみることにした。



「どうも」

チャイムが鳴った後彼女が教室から出てくるのを待って声をかける。周りの生徒たちの視線を感じたが全く気にしない。今の私には彼女以外どうでもいいからだ。

「え、だれ」

彼女とのセカンドインプレッションはここから始まった。

「ほら、パーティーで会ったじゃないか。食事を盗んでたの覚えてるぞ」

覚えられていなかったことにめげず(今までそんなことはなかったので結構ショックだった)パーティーでの出来事に言及すると彼女は露骨に嫌そうな顔をする。

「あの時の親玉じゃない、なんの用よ」

なんの用か聞かれると、何もないとしか答えられない。君と話したいだけなのだから。

「君と話したいだけだよ」

正直にそう言うと、ものすごく気持ち悪いものを見るような目で彼女に見つめられる。

「気持ち悪い奴ね、あんた」

「始めて言われたよ」

よく見ると彼女の服は少しほつれていて記事も貴族が使うようなものではなく一般的な市民が使うものであったが彼女の圧倒的なオーラがそれを感じさせない。

彼女だけは他の死んでいるような顔をした女性と比べて本当の意味で人間として生きているように感じられたのだ。







そんな彼女がこの地下闘技場でのどこからの誰かの死を見過ごせないのは当然の帰結であった。目下彼女の命は危機に瀕しているわけだが、そんな向こう見ずでバカみたいでそれでいて人間として海に浮かぶ地平線のように真っ直ぐな彼女をやはり好ましいと思った。私は彼女を死なせるわけにはいかない。彼女がいる前の私の世界は全て退屈で灰色のモノトーンが入っているような世界だった。彼女こそが私の世界に色を入れた張本人であり、これからも私は彼女の隣にいたい。そのためにも

「ここで死なせはしない!」

私は観衆が釘付けになっている戦場へとその身を躍らせた。











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