第7話連続殺人事件はどこにでもあるらしい
マリーヌに手を引かれて乗った馬車の中でマリーヌは話し出した。
「まず殺されたのはルーベルト家の跡継ぎ、マリック。20歳で見目もよく頭の回転も速い。周囲からの評判もすこぶるよかったらしいわ」
ルーベルト家は私も一回学校で聞いたことがあるほど有名な家だ。確か、今の王政が始まるときも王を助けて貴族の中では一番高い地位にいる家の一つなのだとか。
「殺された方法は?」
犯人を見つけるにしてもそれがわからなくては見つけようもない。
「呪殺よ、呪いで殺されたの」
呪殺、日本にもあったのだとかなかったのだとか。人形を釘で打ち付ける姿が頭に浮かんだ。
「エリーゼ、魔法で殺されたという認識でいいのかしら」
「いえ、呪いというのは魔法とは全く違うものです。魔法を使えるものでもめったなことでは呪いを使うことはできません」
ふむ、呪いも魔法と同じように物理法則を超えたものだが魔法ではない、と。そう言うことか。
「どんな状態で死体は見つかったの?」
何故呪い殺されたと分かったのだろうか。
「とても大きな何かに押しつぶされたような遺体だったのよ。顔はわかるけれども全身の骨は全て折れていた。とても人間の技じゃ無理だわ。呪いを使ったというのが有力よ」
そもそも私には呪いというものへの基礎知識が全く足りない。
「呪いというのは、離れた場所から何か呪文を唱えることで発動するものなの?」
「ええ、そうよ。呪い殺したいものの頭髪や爪、酷い時には指もあったわね。とりあえず人の一部を持っていて呪文を唱えるとできるらしいわ、ただマケドニア王国では危険だという理由で全面的に禁止されているもので詳しいメカニズムはまだ分かっていない。だから、だれが人を呪う適正があるかどうかも分かっていないのよ」
これはなかなか骨が折れそうな事件じゃないか、そんな方法で人を殺されてしまったらどのように犯人を見つければいいのだろう。
「次の被害者の話に行くわね」
そうだった、彼女は複数事件があるような言いぶりをしていたな。
「次の被害者はバレンタイン家の長女、ミラ。彼女もまた見た目よし性格よしで周りの物からの評判は極めて高い。前のマリックと同様で誰かとトラブルを起こしていたとの証言はないわ」
将来有望だったであろう若者二人の命が失われたという事実にチクリと胸が痛む、しかもどちらも性格は良いらしい。なぜ、そのような若者から死んでいくのだろうか。
「ミラは第一皇子と婚約していました。そのため、狙われたのかもしれないと第一皇子様は嘆かれているそうよ」
第一皇子と婚約、か。そういえば前の私は第四皇子と婚約をしていたのだったな。かなりデリケートな話題なのだが気にせずマリーヌはずかずかと踏み込んでいる。
「ミラも呪殺なの?」
「ええ、こんどは彼女自身で首を絞めているのよ」
「それは自殺じゃないの?」
マリーヌはそれに対して首を振ると、続けてこう言い放つ。
「違うわ、だって本当に自分で首を絞めたなら途中で失神して死なないはずなのよ。でも、彼女は死ぬまで自分ののどを離そうとはしなかった。これだけでも十分の呪いで殺されたと言えるけど、彼女の人柄からも自殺する理由がなかったんじゃないかって言われてるわ」
王家にちかい有力な貴族の相次ぐ呪殺、確かにこれは重大事件だ。
「でも、なんであなたがこの事件の捜査をしているのよ」
最初から私が不思議に思っていた点を彼女にぶつけてみる。
「そうね、話さないとだめよね」
彼女はため息をつく。今まで明るかった彼女の雰囲気に少し影が落ちた。
「私、ミラとは友達だったのよ。学校で始めて出来た友達でね。私貴族じゃなかったから、なかなか友達もできなくて……すごく仲良かったの。だからミラの無念は私の手で晴らしたい。犯人をこの手で捕まえたい。そう思ってるの」
そんな経緯があったのか。でもそんなに大事な事件なら私なんかを巻き込んでいいのだろうか。
「まあ、私もあんたの手を借りるのは癪だけど猫の手も借りたい状況なわけよ。変なこと考えないでおとなしく協力しなさいよ」
「ええ、もちろん。若い子の命を奪うなんて許せないからね」
そう言うと彼女は少しおかしいもの似合ったかのような目をして。
「あんたも若い子じゃない」
ボソッとそうつぶやいた。
「それでこの馬車はどこに向かっているのかしら」
「ええ、呪殺と聞いて思い当たる場所が一つあるわ。冒険者ギルドよ」
冒険者ギルド、聞いたことがない名前だがギルドの意味は確か協会だとかそんな意味である。冒険者協会、冒険者の集まりだということか。
馬車が止まった建物は剣と盾の紋章がつけてある無骨な建物だった。遠目で見てみるとなにやら柄の悪そうないかつい男達が出入りをしているようである。エリーゼがいつか冒険者とは町に出る魔物を狩る依頼をお金で受ける者たちのことだと言っていた。確かにみんな腕はたちそうだ。
「ここ、なの」
「ええ、大丈夫。私はなれてるから」
彼女はそれだけ言うと私とエリーゼには何もなしに大きな木の扉へとずんずん歩いていく、そういうところは庶民なのだなと私は思った。
「邪魔するわ!」
大きな声で彼女はギルドに入ると、私とエリーゼは彼女の堂々としている背中に隠れるようにしてこそこそと入るがすっかり冒険者たちの視線は私達に集まっていた。見てみると、ドレスでここにきている者なんて一人もいない全員がカジュアルな服装であった。
「マレーヌか」
「ああなんだ」
「でも、お嬢様とメイドをあと二人連れてるぞ」
しかし冒険者と顔見知りというのは本当のようでマレーヌの方は注目はされていない。むしろ冒険者たちに好奇の目を向けられているのは私たちの方であった。
「マレーヌちゃん。久しぶり」
「お久しぶりです、ギルドリーダー」
ギルドリーダーと呼ばれた男が前から歩いてきた。腰には大きな剣を差しており体もぎゅっと引き締まっていることが見たらわかる。マレーヌはその男とも知り合いのようで談笑しながら中に案内された。
「で、今日は何の用だい」
冒険者からの視線が届かない位置に案内されると彼はそう聞いた。
「実は呪いを使えるものを探しているのですが」
マレーヌが一言そういうと相手の顔は一気に曇る。笑みを浮かべていた顔もいつのまにか口をキュッと結んでいた。
「それはなんでだい」
「実はこの国の有力な貴族が呪いで殺されるという事案が起こりました。なので犯人を捜している最中なのです」
彼は話に対して静かにうなずくと顎の下の髭を触り考え始めた。
「普通、呪いの使い手を見つけるのは難しい。それはわかってるよな」
「ええ、わかってるわ。でも、私の大切な人が殺された以上何もしないではいられないの」
彼女は真剣な顔をギルドリーダーに向けてする。
「そうか、嬢ちゃんがどうしてもって言うなら止めはしないさ。でも、呪いを使えるものからしたら嬢ちゃんもすぐに殺せるものでしかない。充分に気を付けた方がいい。それでもっていう覚悟があるなら、夜でも赤い武器屋を探すといいさ。残念ながらおれはそれ以上は言えないな。ギルドのリーダーとしての立場もあるし俺自身の立場もある」
彼はマレーヌの意志をくみ取ってくれたようでヒントらしいものをくれた。
「ええ、分かってるわ、ありがとう。ゴードンさん」
「あれでよかったの、ゴードンっていう人まだまだ何かを知っているように見えたけど」
彼女は少し沈黙して私に答えを返す。
「いいのよ、あの人もあの人で今大変だから。ヒントをくれたのに無理を言っちゃダメ」
マレーヌは優しそうな表情でそう言った。マレーヌがそう言うんだったら無理は言わない。
「次に探すのは赤い武器屋ね」
早く犯人が見つかってほしいなと思いながら私は彼女と一緒に馬車に乗った。
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