第4話皇子様ってコト❓❓‼️
マケドニア、私はその名前に聞き覚えがあった。この国の名前だ。
「レイ様、予選トーナメントから参加したいというわがままの代わりに正体をずっと隠しているという約束だったでしょう。何をやってるいるのですか」
いつのまにか彼の横にはメイドが立っていた。服装や雰囲気から見るにおそらく私が彼の前に指した覆面の相手である。
「ソフィア、いいじゃないか今日ぐらい。やっと僕に叶う相手が見つかったんだから」
彼は笑みを口に含ませながらずっと笑っている。きわめて嬉しそうである。
「負けてしまいましたけどね」
「いいや、素晴らしい指し手だよ君は。もしかしたら僕よりも強くなってくれるかもしれない……」
そう言った後もうわごとをぶつぶつと空に向かって話している。
「申し訳ありません、ローラ様。皇子はいつも冷静なのですけど今日は少し興奮しているようで」
「では、本当にこの人は、、、」
目の前の白い髪の男は
「ええ、ご察しの通りマケドニア王国第三皇子マケドニア・レイ様です」
うへ―、結構身近に皇太子っているもんなんだな。
「どうだ、もう一回。」
腕を引っ張り対局させようと席に座らせてくる。
「今、私は負けましたわ。皇子は次も対局があるのでは?あまり待たせては相手に失礼ですよ」
「そうか。名残惜しいがしょうがない、絶対にまた指すからな!」
案外、皇子は簡単に引いてくれた。あんな感じでもきちんと大会に出た以上指し切るのは偉い。しかし、この時の私はこの皇子のチェスへの執念をまだ完全にわかってはいなかった。
「お嬢様、来客です」
次の日、今のところ徹夜続きで疲れていたのでゆっくりと休んでいるとエリーゼがやってきた。来客?今の所私に友達といえる友達はいない。(メイドのエリーゼは友達ともいえるかもしれないが)となると、アイル皇子やマレーヌの件についての調査員だろうか。身に覚えがないこと(本当にわからないこと)で聞き取り調査をしてもまったく意味がないのだが、それを調査員に行っても仕方がないことだろう。嘘だと思われて余計心証が悪くなる。私が彼らの立場でもなんとか言い逃れをしているのだろうときっと思ってしまうし。憂鬱な気分になりながらもどうにかドアへと行くと前には華のある女性が立っていた。
「ソフィアさん、であっていますか?」
「はい、レイ様専属メイドのソフィアでございます。先日のチェストーナメントの際一度挨拶いたしましたが、改めてお見知りおきを」
チェスの大会での地味な格好とは違い、今回の彼女は皇太子専属のメイドらしい華やかで洗練された格好だった。
「今日はどのようなご用件でいらっしゃったのですか?」
横に立っていたエリーゼが聞く。エリーゼもソフィさんもタイプが違う別嬪さんでつい見惚れてしまう。
「はい、今回はレイ皇子がローラ様を招待したいということで迎えに参りました」
皇子の楽しそうな顔が頭に浮かぶ、どうせ要件はチェスだろう。しかし、今の私はチェスのし過ぎでチェスの駒に追いかけられる悪夢を見たくらいの精神状態なのだ。はっきり言って飽きたので少なくとも今日はチェスをしたくない。
「お断っっつ!!」
笑顔でお断り申し上げようとしたが、途中で猛烈な痛みが足元を襲っている。エリーゼがヒールで私の足をぐりぐりと踏んでいるのだ。
「……喜んでいかせていただきます」
エリーゼとの猛烈なアイコンタクトの末、私はレイ皇子のいる場所に行かされることになった。それにしても、私とエリーゼは主人とメイドの関係のはず。なぜエリーゼは自然に私に危害を与えるのか。立場が完全に逆転している。
「ええ、その返事をきたいしておりました」
ソフィアさんもソフィアさんで私とエリーゼの一部始終を見ているはずなのにすさまじい営業スマイルで私に微笑みかけている。このメイド達、曲者だ。
「エリーゼ、チェスにはもうあきたんですけれど」
皇太子が住んでいるという王宮への移動中私はエリーゼに不満をぶつけていた。
「お嬢様、今のお嬢様はそんなこと言っていられる立場ですか???頼みの綱のチェス大会も勝てず、お家取りつぶしまであと二か月もないんですよ?せっかく第三皇子と伝手が作れるかもしれないんです。無駄にするわけに行けません」
それはそうだけど、、、、、なんて不満が顔に出ていたのだろう。エリーゼはそんな私の顔を覗き込むとまたこう言った。
「お嬢様の家がなくなるということは、なんでもお嬢様だけの問題じゃありません。お嬢様のご家族はもちろん、この家に務めている使用人や飼っているペットでさえも路頭に迷うことになります。一度貴族としての暮らしをしていた者が庶民の暮らしをすることは難しいんです。お嬢様がいま頑張らなくては、私やエリックも厳しい立場に置かれてしまうということをお考え下さい」
真面目な顔でそれを言われて、ハッとした。今まで自分のことしかあまり気が回っていなかったが、家が取りつぶされるということは私以外で仲が良い周りのものまで被害を受けることになってしまうのだ。確かにエリーゼが必死になるのも当然である。
「わかったわエリーゼ、私何とかやって見せるから」
「その意気です、お嬢様」
「いらっしゃい!!よく来たな、早く指そうじゃないか」
せっかく王宮に来たというのに彼の頭には私を気遣うという言葉が入っていないようであった。なんの前置きもなかったが彼の指にはすでにポーンがつままれており、目の前には高そうな盤に駒がすでに並んでいた。もう諦めて彼の目の前へと座る。
彼の部屋は殺風景な部屋だった。チェスの盤とベッド、軽い調度品。そして、おびた出しいほどのチェスの本。彼自身が作ったのかわからないがラベルを張られている物もある。
対局はつつがなく進むが、相変わらず彼は独特な手を指した。私がそれをひたすら受ける形が続く。
「チェスは誰に教わったのですか」
少し気になったので聞いてみる。
「ん?ああ、婆だ。マーキュリー・マケドニアっていう」
マケドニアという名前があるのでどうやら王家の親族なのだろう、二世代ぐらい上なのか。
「あの人は強くてさあ、一回も勝てなかった」
彼が一回も勝てないというのはとんでもなく強い婆さんだったんだな。
「去年亡くなってしまったけど、すごかったんだよ」
おばあちゃんっこだったのではないか。彼はそう言いながらも悲しそうな顔をしていた。
「ありがとうございましたローラ様、レイ様もたっぷりさせて満足そうでした」
何度か指して帰った後ソフィアさんは帰りもちゃんと送ってくれた。
「いえいえ、レイ様が楽しそうなので良かったです。……もう一週間は呼ばれたくないですが」
最後に小声で本音を言ったのだが、見事に笑顔で無視される。
でも、何で私なのだろう。多分、私より強いものはこの国にも少しはいるはずだ。
そのことを聞いてみる。
「……」
彼女は少し笑顔のまま固まったが静かに周りを見渡すと声量を落としてこう言った。
「これは大きな声で言えない話なのですが、ローラ様とマーキュリー様の指し方は非常に似ていらっしゃるためレイ様はローラ様に可能性を見出されてるのかもしれません」
これを聞き、疑問は腑に落ちた。確かに高齢ならば棋風は受けとなる可能性が高いだろう。
「ありがとうございました」
「いえ。では失礼します」
レイ皇子か、将棋を教えてみたら案外いい線行くんじゃないか。そう思って私はのんびりと構えていたが、タイムリミットは刻一刻と目の前に迫ってきていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます