第2話80年ぶりの学校じゃが

現状に対するエリーゼのイヤーな講評を聞いたうえで学校に行くのは気が進まなかったが、この体の持ち主の両親に不審に思われてはまずいので今日も行くこととする。

どうにかこの状況を脱するためにアイル皇子に許してもらうか、家の名前を上げるか。いまいちこの世界がわからないが戦争で英雄にでもなればいいのか。

そんなことを考えながら学校の廊下を歩いていると、ひときわ大きな歓声が前のほうから上がった。なんだなんだと思いながら私もつい前を見る。

「アイル皇子よ」

「マレーヌと一緒だわ」

「新しく婚約したって噂の」

「平民なのに……」

前をふさいでいた群衆が二つに割れて、話題の2人が前から歩いてくる。一人は金髪で容姿端麗な背が高い男、もう一人は青色の髪の綺麗な女性だった。彼と彼女は二人とも華のある存在感を放っていて、男の方はカリスマ的な人を引き付ける雰囲気である。

「お嬢様、あの二人が………」

エリーゼが私の耳元でそうささやいた。

「ええ、わかってるわ」

野次馬たちが言っていたところによると男の方がアイル皇子で女の方がマレーヌなのだろう。彼らは野次馬の歓声をものともせず、恋人のように近くに寄り添って歩いていた。けれど、前方に私の顔を認めると彼等の顔にすぐ警戒の色が浮かぶ。どうやらこの警戒のされようは過去の身体の持ち主が相当酷いことをしたようである。次にアイル皇子と呼ばれている男は私を見るとマレーヌという名前らしい彼女を守るかのように、私の視線から完全に彼女を隠した。完全に敵対者への視線を感じる。

「こんにちは」

彼から見た自分の笑顔はきっと硬いだろうと思いながらも私はそう言った。

「……お前がしたことは忘れてないからな」

二人は私にそれ以外の気が利いた返事と背中を見せることなくその場から去っていった。こんな状況に陥らせた過去の身体の持ち主を心から殴りたいと私はそう思った。










「大体の状況は理解しましたわ」

「ええ、というわけでお嬢様は大変まずい状況に置かれているのです」

あの恨まれ方は尋常じゃない。ローラ・エクレアがやったことはエリーゼが言っていた、軽い嫌がらせのようなものに留まらずエスカレートし彼女の大事な物さえも狙ったのではないか。そうだったとしたらあと三か月で仲良くなるのはまず諦めた方がいい。どうにかしてエクレア家の名前を上げる方に集中するしかない。

「家の名前を上げるのにちなにかょうどいいものはないかしら、エリーゼ」

「通常、家の名前は学生決闘トーナメントなどで勝ち進む時や冒険者として強いモンスターを倒した時にあがります。しかし、お嬢様は魔法を使えないので、、、」

出ても勝つのは厳しいと。それは間違いない。そもそも私にはここでの戦いの経験が少なすぎる。

「魔法?」

「ええ、この世界には魔法と呼ばれる便利なものが存在しています。ものすごくわかりやすく言うと、自分の中にある魔力と呼ばれている物を消費することでなんらかの自然現象を現実世界に発現させることができるというものが魔力です」

なんだその物理法則に反しているものは。ここでもあまり見ていない気がする。

「……そう思われるかもしれませんが、実際にあるのです。ほら、私の指を見ていてください」

エリーゼは人差し指を天に向けて立てると小さな声で何かつぶやいた。

次の瞬間、彼女の人差し指には小さい炎が灯る。目の前で見た信じられない現象について、私は少しの間固まっていた。

「今までの常識は通じないということか」

ついこんな話ことばが出てしまった。

「ええ、口調にはお気を付けくださいお嬢様」

「私は使えないのですか、エリーゼ」

彼女はその質問に対し少し腕を組むとこう答えた。

「魔法を使うのに特殊な素質が必要なのです、だれにでも使えるわけではありません。しかし、お嬢様は今まで努力をなされていなかったので、そもそも素質があるかどうかでさえわかりません。もしかしたらあるかもしれませんがあと三か月で実践レベルまで追いつくことはなかなか難しいでしょう」

ローラ、あなたは今まで何をしていたのですか。私はまたそう言いたくなった。








学校には廊下や職員室の前などに張り紙がしてあって、大会やイベントの告知の張り紙が貼ってあった。昼休みを使ってそこに行ってみる。

「お嬢様、何を探しておられるのですか」

「盤上ゲームの大会」

もし将棋などがあったら、結果は残せるだろう。西洋風のこの世界にはあるとは思えないが。

「これはどうでしょう、チェスの大会ですが……」

彼女はそう言って、大会の張り紙を見せてきた。賞金一千万ベル、と紙には高々とそう書かれてあった。

「ベルっていうのはどのくらいの価値なんですの?」

気になってそう聞いてみる。

「一千万ベルもあれば一般庶民は家が買えます」

ほぼ円と一対一対応していると考えていいのか。

「これで優勝すれば今の状況はなんとかなりますの?」

「優勝すれば……何とかなるかもしれませんね。しかし、お嬢様チェスの経験はおありでしょうか?チェスはこの国の国民全員がやったことあるような国民的ボードゲームです。参加者も優に10万を超えるんですよ」

いける、気がする。元々チェスは息抜きでやっていたこともあるし本気でやればどうにかなるのではないか。大会の日付まではあと二週間ある。

その日から私はチェスの猛特訓を始めた。




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