105歳の爺さん、悪役令嬢に転生する

絶対に怯ませたいトゲキッス

第1話転生するお爺さん


権田正三は百五歳の爺であった。老齢と言えども、まだ体は元気に動くので趣味の将棋をいまだに指し続けている。

「儂の若さの秘訣かい?将棋を指し続けることだよ!」

プロ棋士をやっていた40歳のころから将棋の実力はいくらか落ちたが、今でもアマトップレベルの実力を持っている自信はある。

今日も今日とて、夏休みで曾孫と同じような年の子供たちに将棋を教えるために将棋道場へ行こうとしていた。老眼鏡をかけると杖を持って

「行ってきますよ」

一年前に老衰で亡くなった亡き妻の遺影に声をかけて外に出た。外に出た途端、太陽が今日も元気に世界を照らしている。

将棋道場へと行くまでの道は一つだけ危ない交差点がある。今まで何回も事故が起こっている場所だ。大きい通りの十字路になっていて交通量が多く、駅にもつながっている。

小さい男の子がそこで遊んでいた。信号は青色がちかちかと点滅していて、すでに黄色になろうとしている。周りの大人は気づいていない。親はどうしてるんだ、なんて考える暇もなく、私は体に鞭打って走り出し次の瞬間には男の子を庇って車にひかれていた。













私が次に目を覚ました時、目の前に倒れた若い女の人が倒れていた。来ている服はメイド?服だろうか?どういう状況だろう、これは。眼鏡をかけて金色の髪は後ろで縛ってあった。

「大丈夫じゃろか?」

手を差し出す。目の前の彼女は恐る恐るといった感情で、綺麗な細長い手を受け取った。

「え?」

ここで初めてがあることに気づいた。いつもの萎びた手ではなく綺麗な細長い手に、あまり曲がっていない腰。呼吸も邪魔されることなく正常にできる。

「どういうことじゃ」

いる場所もなじみがない洋風の建物で鏡にはうら若い綺麗な女性が映っていた。

「お嬢様?」

メイド(おそらくその通りであろう)の女性はこの状況に戸惑っているようであった。

「ここはどこなんじゃ?教えてくれないかのう」

驚くことにその女性の頬には平手打ちの跡が真っ赤に残っていた。誰がこんなことをしたのだろうか。

「どうかなされたのですか?お嬢様」

「儂が儂じゃないんじゃ」

そう言うと目の前の彼女は口をあんぐりと開け数秒硬直した。

「どういうことでしょう?」

私が聞きたい。

以下、聞いた説明をそのまま並べておこう。残念ながら私は横文字ばかりであまり理解ができなかった。

ここはマケドニア王国。この世界では大きい国だそうだ。私(の身体の持ち主)はローラ・エクレア。中級貴族エクレア家のご令嬢?らしい。年は18で、同じ年の許嫁がいるそうだ。ただ、政治的にまずい状況に置かれているらしい。他の生徒にした嫌がらせ?で処罰されようとしているとか。

「その、処罰というのはどれくらいのものじゃろうか」

「最低でもお家取りつぶしでしょうか、大層お怒りなので死刑もありえますね」

とりあえず、大変にまずい状況であるというのは理解ができた。

「お嬢様、しかしお嬢様は急にどうされたのですか?今までとは全く様子が違うようですが」

お嬢様、そういえばこの体の持ち主は女の人であるらしい。しかも、かなり高貴なお人だとか。

「わ、儂実は………ローラ・じゃないのじゃ」

「は?」

メイドの頭の上の?マークが見えた気がした。


「はあ。つまり、あなたはゴンダという異世界人で気づいたら目の前に私が倒れていたと」

「はい」

メイドはそれを聞くと顔の下に手を置いて考え始める。

「ふむ、ではいったんあなたを信じることにしましょう。しかし、口調は治してください。腐っても中級貴族、儂ではなく私。もう少しきちんとした言葉で話してください」

どうやら、納得したらしい。

「何も知らないのであれば、私の指示に従ってください。悪いようにはしませんので」

「信じてよいのかの?、メイドさん」

メイドはそれを聞くと私の足を思いっきり踏んづけた。

「信じてよろしいのでしょうか、と言ってください。そんな調子では怪しまれてしまいます。あと、私の名前はエリーゼです、これからはエリーゼと呼んでください。ローラ

その日は一日中口調を変えるのに費やされた。











「おはようございます、お嬢様」

「ん?だれじゃ私を起こすのは………おはよう、エリーゼ」

危ない危ない、またエリーゼにどつかれるとこだった。彼女は私が口調を間違えるたびに私を殴るのだ。

「学校に行く時間です、お嬢様」

学校!そうか、ローラという彼女は学生だったのか。昨日は口調の練習のせいで眠い目をこすりながらどうにか制服へ着替えると、家の前で馬車に乗った。馬車に乗るということで少しテンションが上がっている。

御者はもう乗っていて、ふかふかのシーツが馬車には敷き詰めてあった。学校に行くまで一人で寝ることもできそうだ。

「失礼致します」

そう言って、エリーゼは馬車に乗り込んできた。

「エリーゼは学校までついてくるのか?」

「ついて来られるのですか、と言ってください。お嬢様。私も同い年なのでもちろん、お嬢様と同じ学校に通っています。」

エリーゼはそう言うと、眼鏡と髪の後ろの留め具を外した。じっと見てみるとずいぶん美人なお嬢さんである、綺麗な二重だし髪も整っている。学校では大層人気があるのではなかろうか。しかし、少し見覚えがあるような気もする。西洋人のような見た目の彼女になぜ見覚えがあるのだろう。

「なんでしょう、お嬢様」

随分と長い間眺めていたので、不審に思ってエリーゼはそう聞いてくる。

「随分美人だなあと思ったんじゃが」

彼女は驚き、口をあんぐりと開けるばかりでこの時の口調は遂に注意されたなかった。










「大きい………わね」

子の口調でしゃべると違和感と羞恥心が心の中に湧き上がってくる。

「ええ、初めてなら圧倒されるかもしれません。しかし、お嬢様は初めてではありませんよね、そんなにきょろきょろ周りを見ないでください」

背中をバシッと叩かれると、私はどうにか前を向いて門へと進む。学校は四階建てのこれまた洋風な建物だった。しかし私が通ったような狭くて汚いものではなく、周りには木や花やらが植えられており、建物も新宿の伊勢丹のように壮大にそびえたっていた。また、どうやらここは西洋らしく髪も目も黒いものはなかなかいない。

エリーゼに案内されるまま、大学の講義室のようになっている教室につくと自分の席に着く。彼女の席は窓側の席で簡単に青空を眺めることができるいい席だった。机もこの年頃の女の子らしく整頓されて、鮮やかに彩られて。

確かに彼女の机はそこにあったが、教科書とノートというものがてんで存在しない机だった。

「教科書はないのかの?」

そう言った瞬間、横のエリーゼに足を踏まれる。

「いっ!!!」

「学校で不審に思われたら一貫の終わりだと散々申し上げたはずですが」

耳元で氷のような声で囁かれると、背筋に冷たいもとがつーっと、走る。やめてほしい。

「お嬢様は、、、、勉強などなさったことはなかったので」

この体の本来の持ち主は思っていたよりも放蕩していたらしい。自分の頃だったら、先生に殴られていたに違いない。

「じゃあ、教科書を見せていただけませんの?」

「こういう時に備えて、いつも教科書を二つ持ってきておりました」

仕事ができる人だ。

「メイドですから」

授業が始まったが、今まで全く聞いておらず一読しただけでは全くわからなかった。残念。確かにこれだけわからないと眠いかもしれないと、私はそう思った。









 「あー、疲れたわい」

学校に一日行った後の感想はひたすらこれだった。着慣れないドレス、全くわからない学校の授業。眼に入れるものはなんでも目新しかったが、昼頃になると逆にうんざりする。一番はお嬢様のふりをすることだったが。

「……学校に行ってお疲れのところ申し訳ありませんが、お嬢様が目下置かれている状況についてもう一度説明させていただきます」

エリーゼは眼鏡をかけ、また髪を後ろに結んでいた。

「そういえば、そんな話があったような」

「ええ、学校で視線を感じませんでしたか?お嬢様はいろいろ校内で有名なのですよ。悪い意味で」

「悪い意味で」

視線なんて今日は気にする余裕がなかったが、確かに私とエリーゼが通ると周りの人々がわっと散っていった気がする。

「許嫁の話はご存じですよね}

そういえば前言っていた気がする。

「その許嫁が問題なのです。彼はアイル皇子という言うのですが、王家の出であり有力な王後継者であるんですが、容姿端麗で人気が高い男子生徒なのです。ここまでは問題がなく20歳にはお嬢様とアイル皇子は結婚される予定でした。」

はあ。

「しかし、ここで問題が発生します。平民のマリーヌという生徒にアイル皇子が恋をしてしまったのです」

ほう、拗れてしまいそうだな。

「お嬢様はアイル皇子のことが好きでいらっしゃったので当然話は良くない方向へと進んでしまい、マリーヌという子に対してお嬢様は執拗に嫌がらせをするようになります。教科書を隠したりだとか、足をわざと踏んだりだとかそういうものです」

話が見えてきた。

「ええ、そしてそれがついにアイル皇子に見つかりお嬢様に危機が迫っているということです。貴族と言えどもエウレカ家はあまり身分が高くない家。皇太子にそんなことを言われてしまっては潰れて路頭に迷ってしまいます」

話を聞く限り、ローラの自業自得のように思えるのだが今は自分がローラなのでそんなことも言ってられない。どうにか、この体と家を守らなくてはいけないのだ。

「今は処罰を待っている状況なの?」

「ええ、あと三か月もすればこの家はなくなっているでしょう。その間にアイル皇子に許してもらうか、エウレカ家のご令嬢としてお取りつぶしを免れるくらいの偉業を成し遂げられるしかありません」

エリーゼはこう締めくくった。これが私の長い冒険の始まりだった。













作者の絶対に怯ませたいトゲキッスです、読んでいただきありがとうございます!感想やいいねなどいただけますとモチベーションがぐーんと上がるので首を長くしてお待ちしております!ドシドシお寄せください。

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