第2話 ラーメン屋 スタミナタンメン

 休日前夜、その日は「にんにく」の摂取が許される日。具体的に何を食べるのかは後ほど話すとして、とにかく私、韮崎通にらさきつうは東京西部の居酒屋が乱立するエリアにいた。


 元号が令和に変わり5年近く経とう言うのに平成に取り残された違法客引きの姿は実に滑稽である。彼らに声をかけられながらも目当てのお店へ到着した。


 明日は仕事が休みである。すなわち「にんにく」を食べても誰も文句は言うまい。


 ラーメンと書かれた赤い暖簾をくぐるとそこは楽園であった。にんにく臭漂う店内に厨房からチャーシューや醤油風味スープの匂いも流れてくる。嗅覚がテロ行為を受けているではないか。


 カウンター席のみの小さなラーメン屋。店頭に鎮座する食券機にて「スタミナタンメン」なるものをチョイスして、丸型の固定椅子に腰掛ける。


 目の前に広がる厨房では女性店員さんが中華鍋で野菜を炒めている最中で私が食券をそっとカウンターに置いた事に気づいていない。そのラフさが大衆的で私は好き。


 しばらくするとハッとした女性店員さんは駆け寄り、注文を繰り返してくれる。そしてまた中華鍋で野菜を炒めたり、麺を茹でたりと忙しない。


「無料トッピングいかがなさいますか?」


 次にハッとしたのはこの私。無料トッピングがある事に気づいていなかった。確か二郎系ラーメンのお店じゃ無いはずだけど……と、ふと視線を僅かに下げると無料トッピングの案内が貼られているのが目に入った。項目は3つ。全てを理解した私は咳払いを1つして、


「にんにくしょうがアブラマシ」


 何と3つの項目全てを注文した上にアブラに至ってはマシてしまったのだ。どこにもマセるなど記されていないが大丈夫だろうか。


 「スタミナタンメンにんにくしょうがアブラマシです」


 5分程で届いたスタミナタンメンに持つ印象はまず茶色。スープはもちろんの事、特に背脂が罪深い茶色をしている。


 まずチャーシューを探す。私はラーメンを食べる時、最初にチャーシューを頂く事にしている。理由は無いが何よりもチャーシューだ。本当に何となくだが。


 このお店のチャーシューは細切れになっていて1つ1つがレゴブロックのサイズ程。それを3つ口にしたが全てあまりの柔らかさに噛まずして消滅する。残ったチャーシューは終日無料サービスと表示されている白米と一緒に食べてみようかなと思案しあの女性店員さんに声をかける。


 すぐに白米が届いた。チャーシューを乗せ更に背脂、スープ、玉ねぎなどの具材を盛り付ける。ラーメンと白米を共に食べると言う事、つまり大カロリー摂取の始まりを意味しているわけだが私は一向に構わない。スープを白米にかける下品な食べ方もラーメン屋においては至高の逸品に生まれ変わる。


「んまいな……」


 続いてはメイン中のメイン、麺に取り掛かろうじゃないか。丼から引き上げた麺は中太でスープの影響だろうか、茶色に染まっていた。


 湯気を纏った麺に心細い息を吹きかけて一気にすする。


 「あつッ」


 中太麺だからか、麺にはニラ、玉ねぎ、背脂などの具材が纏わり付きジャンクさが増していた。特に玉ねぎが入る事によって麺のモチモチ食感にあのシャキシャキが加わり不思議な感覚が楽しめた。


 口の中の火傷も水を流し込めば気にならない。ニンニクの匂いと比べれば大した事は無いと言い聞かせてスタミナタンメンを食す。


 ラーメンと白米。たった2種類のメニューだけれどもラーメンの豊富な具材や白米の誰とでも交わえる協調性。そのおかげで私の食事スピードは加速する。あぁ、美味しい物を食べていると時間が過ぎるのが早すぎないでしょうか?教えてください食の神父さま。


 流石に終盤に差し掛かると背脂には堪えたがそれでこそ背脂である。最初はあんなに美味しい背脂が最後には受け付けなくなるのもラーメンの醍醐味だ。私は心の中で称賛を送った。


 「ごちそうさまでしたっ」


 にんにくを摂取し更には背脂と白米のマッチングにおける至高性を知った休日前夜だった。


 翌日。突如として出勤になるとも知らずに。




 



 


 



 


 



 


 


 


 







 


 


 

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