大衆食事通
韮崎ニラ
第1話 洋食屋 ハンバーグと三種のフライ定食
物思いに耽る様に、私、
国道18号線を町田方面へバイクを走らせる事30分。白を基調とした小さな洋食屋が姿を現す。そこは寡黙な店主が織りなす昭和レトロな洋食屋であって私の行きつけである。
店周りに駐車場も無ければ駐輪場も無い。気の利かない立地だけれども、空が広い地域のため多少の時間、路上駐車をしてもお咎めないのだ。
店に入り、カウンター席に着くなり私はこう言った。
「ハンバーグと三種のフライ定食1つ。食後にコーヒーホットお願いします」
はいよ。と店主の簡素な返信がこれまた心地良い。近頃は「接客サービスを第一に」とか「SNS映え出来ます!」みたいな味を放棄した飲食店の成り損ないが目立つ。もちろん料亭やホテルレストランなどで行われる接客サービスには感心する。しかしながら大衆的な飲食店では接客より味にこだわってほしい。あくまで私の意見だが。
「はいハンバーグと三種のフライ定食お待ち」
やがて配膳されたのは3つの皿に分けられた定食。1つはハンバーグ及び白身魚フライ、エビフライ、クリームコロッケ、千切りキャベツの乗ったメイン皿。もう1つは平たい皿いっぱいに盛り付けられた白米。そしてお味噌汁だ。
メイン皿は言うまでもない。私が好きなのは平たい皿に盛り付けられた白米だ。通常、白米と言えば茶碗によそうべきものだが、しかしこの店では平たい皿に乗って出てくる。この光景を見ると洋食屋に来た!と思えて自然と頬が緩む。
昼下がりの陽光が差し込む時間。まずはハンバーグに箸を入れる。さほど肉汁は出ないがこれでもかと言うくらいにハンバーグ覆い隠すドミグラスソース。だがしかし、いざ口に入れてみると肉の味がしっかりしておりドミグラスソースに負けていない。
「んまいな……」
次は何をどう食そうか。何度も来ているはずなのに食べ方のバリエーションが豊富で2口目が悩ましい。
もう1度ハンバーグを取り白米にバウンドさせるも良し、揚げたてのフライに手を付けるも良し、健康を考えキャベツにがっつくも良し……考えても無駄なので目に入ったものと向き合う事にした。
タルタルソースがかかった白身魚のフライ。私は魚の種類について疎く、食べただけでは何の魚なのか見当もつかない。でも一つ言えるのは、
「んまいな……」
サクサクのフライの中はフワフワの身がぎっしり詰まっている。そしてタルタルソースは玉ねぎが少しばかし大きめにカットされていて時々シャキシャキ食感が混ざり私は一つの白身魚フライを食べただけで何か得をした気分になった。まだもう1つ白身魚フライが残っているのを横目にエビフライ、コロッケを平らげた。
2口目を食べ終えると順番やバランスなどどうでも良くなるのだ。
しばらくすると白米が目につく。提供された時は真っ白な輝きを放っていたのだが、何度もドミグラスやタルタルソースと触れ合った事で白米は美しく汚れている。
「あむっ」
先に述べた様にこの店の白米は平たい皿に盛り付けられている。これがもしも茶碗であれば二、三度おかずをバウンドさせたところで、かきこんでしまっただろう。でも平たい皿ではそんな豪快な食べ方は叶わない。横からこぼれ落ちたり散々な目に遭う事が容易に想像出来た。
だからこそ、かきこまずにいなかったからこそ純白を捨てたライスが完成したのだ。まだ残っているハンバーグと一緒に口へ運ぶ。それが私を満たしてくれる。
私はお味噌汁と言うものがありながら食後にコーヒーを注文している。それはいつもしてしまう美味しい過ちなのだ。
特別美味しいお味噌汁と言うわけでは無いが、あれを飲むと落ち着きを取り戻す。更に熱いコーヒーを流し込む事で暖まった状態で店を後にした。
物思いに耽る様に、私、韮崎通の人生は真っ直ぐだ。何も手につかなくなる程に食事に対して真っ直ぐだ。別にグルメなわけでは無い。自分が入りたいと思ったお店、たまたま見つけて気になったお店に行く。食前の私は好奇心に満ち、食後の私は悪魔の様に愉悦に浸るのだ。死んでも続けたい。
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