6−8

ゴリラゴーレムは領主の方を見ると射程圏内に入るべく、進撃を開始する。

人が歩くのと同じくらいの速度で近づいていく。


「逃げた方が良いかな?」

「マリョクデカイ、アレ」


近づいてくるゴリラを見て呟くユウヒに、肩に止まっている梟が答える。

その答えを聞いて、ユウヒは梟が危ないことを悟り、呪文を唱える。


「デモン、一回戻ってね」

「ワカッタ」

『召喚解除』


梟が魔法陣の中に消えていく。

それを見ながら、領主が呟いた。


「さて、中々面倒そうな相手じゃないか。戦うか」


領主は抜剣して前に出た。

先ほどまでの落ち着いた雰囲気ではなく、ゴーレムを見据えて気迫のこもった姿である。

兵士達はその様子を見て領主を制止する。


「領主様、下がってください!」

「私が狙われるのであれば離れた方が良いだろう。運び屋と怪我人共々避難させろ」

「しかし!」

「言ってる場合か!各々やることをやれ!」


激を飛ばし、ゴーレムに正対しつつ、少しずつ横に動く領主。

その言葉を聞いて隊長や兵士達が反応する。


「領主様が出てしまったか!控えて欲しいといつも言っているのに!」

「領主様が怪我する前にゴーレムを止めなければ!」

「正面は危険だ!後ろからいけ!」


領主を1人囮にするわけにもいかない護衛の兵士は領主の脇を固め、捕縛に当たっていた兵士たちはゴーレムに対して攻撃を開始した。

兵士達は声を掛け合い、ゴーレムの側面や後方に回り込んで攻撃する。


しかし、装甲は硬く、キィンキィンと硬い音で弾かれるのみだ。

兵士達はさらに足止めしようとする。


「装甲の隙間を狙え!」

「足を攻撃しろ!」


まとわりついたりして、なんとかゴーレムの進行を止めようとする兵士達。

群がる兵士を払いのけようとゴーレムは後ろ足で立ち上がると、前脚を広げた。


「こいつ、立つぞ!」

「何する気だ!」


兵士たちが叫ぶ中、次の瞬間、腰の部分を起点に上半身だけ回転する。

群がる兵士達が遠心力で引き剥がして、再び前脚を地面についた。


そして、すぐ真下に石を吐き落とす。


パヒュンパリンドォンとほぼ同時に音が鳴り、ゴーレムの真下で爆発が起こる。

そして、群がっていた兵士達が爆風で吹っ飛ばされた。


「近くでもそれか!」

「こいつこの爆発でもなんともないのか!」


遠距離用と思っていた爆発石を自爆気味に使われて、兵士達が口々に叫ぶ。

倒れてうめきながら動けない兵士、距離をとって様子を伺う兵士達を見渡し、この場に敵はいないと見て再び領主達に前進を始めるゴーレム。


足止めも難しく、怪我人も増えている。

戦線も保てず、兵士達の様子に焦る隊長。


そこに、追い打ちをかけるように、後の森の中から声が聞こえてきた。


『召喚:銀月狼』


先日運び屋がカバを召喚する時によく似た光が見えたかと思うと、森の中から白い狼が戦場に登場する。

その背にはフードを被った少年が騎乗しており、ゴーレムとその進行方向を見渡した。


ゴリラゴーレムの方は一瞬狼の方に顔を向けるが、気にする様子もなく元々の進行方向だった領主達の方に顔を向き直らせる。

狼の姿を見て、顔をひきつらせる隊長。


「ここで、こいつも出てくるのか!」


ゴーレム達の足止めを考えていた兵士たちも後ろから現れた狼に動揺。

うろたえる兵士たちの間を風のように駆け抜け、ゴーレムに駆け寄る狼。

狼と少年は、ゴーレムの元に到着するとゴーレムに手を出すことなく、周りをクルッと周る。

ゴーレムの進行方向を確認すると、ゴーレムと一緒の方向を見た。


抜剣してゴーレムに向き合っていた領主だが、狼が隣についたところを見て汗が頬を伝う。


「あの二つが同時に出てくるのか。流石に戦線を保てんか」


領主は隊長の方を見て、目線を合わせると頷き合う。

2人同時に、声を合わせて叫んだ。


「「撤退!」」


逃げの決断を迷わず下し、兵士達が少しずつ遠巻きに離れようとする。

しかし、ユウヒ含めた怪我人を抱えている兵士達をゴリラゴーレムが見逃さなかった。

ゴリラゴーレムの口がパカっと開いた方思うと、心もち上方に向かって石を放出する。


パヒュンと打ち出された石が弧を描き、ユウヒの近くに向かって飛んでいる。

逃げる時間がないと瞬時に判断した領主がユウヒに叫ぶ。


「運び屋、伏せろ!」


その時、ゴーレムの隣にいた狼がユウヒ達の方に向かって走り、跳躍。

空中で魔石を前脚で捉えると、誰もいないスペースに石を叩き落とした。


パリン、ドォン。


ユウヒの前に狼が着地すると、狼の上の少年はフードを取った。

現れた顔はユウヒと瓜二つ。

少年はユウヒに声をかけた。


「よう、ユウヒ」

「あ、アサヒ。久しぶり」


殺伐とした戦場にそぐわぬ、普通の挨拶が交わされた。

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