6−7
山小屋の周りには木々が伐採されて整地されているスペースがある。
ゴブリンから渡された地図でドクロマークが描かれていた場所だ。
その一角で大きな音がしたとかと思うと、地面が噴き上がった。
「何事だ!」
前線で隊の指揮をとっている隊長が大声で叫び、その場にいた兵士達は土が吹き飛んだ方向を注視する。
噴き上がったのは地面の土だけでなく、割れた木の板なども含まれ、あたり一体に撒き散らされる。
そして、噴き上がった後には地下への大きなスロープが露わになった。
「地下か、なるほど」
後で戦況を見守っていた領主が呟く。
山小屋はそこまで大きくないので、山賊のアジトとして使うには狭いと考えていた。
地下に隠し倉庫を作っていたのであれば広さは足りる。
爆発でこじ開けられた入り口めがけ、地下からゆっくりと大きな足音がスロープを上がってくる音が辺りに響く。
地下の壁を金属で補強しているため、足音がより一層大きく聞こえるのだ。
ユウヒの耳にも届くその足音は、彼女の友達であるカバよりも大きく、重い音に聞こえた。
「おい、何か出てくるぞ」
「魔物でも飼ってるのか」
兵士達が動揺してざわついていると、スロープからゆっくりと少しずつ、重い足音の主姿を見せる。
太い後脚と少し長めの前脚、分厚い体を支えて四足歩行して歩き出してくるその姿はある動物を思わせた。
「ゴリラ?」
その様子を見たユウヒが思わず呟いた。
呟きを聞いた領主も、同意する頷きを返す。
動きやシルエットはゴリラそのものだが、まず大きい。
体長は5m程度、通常のゴリラと比べて倍以上の大きさがある。
表面には金属製の装甲があり、装甲の合間から見える肌も石のように硬質な素材に見えた。
隊長が現れたゴリラ型の動く姿を見て、兵士達に指示を出した。
「恐らく、ゴーレムだ!迂闊に近づくな!距離を取れ!」
兵士達は目先のゴリラから急いで距離をとって武器を構え直した。
ゴリラゴーレムは重い足音を響かせつつ、地上に完全に姿を見せて停止。
離れて取り囲む兵士達をゆっくりと見渡した。
警戒がゴリラに集中した時、指名手配の商人が見張り達に声をかける。
「早く小屋に入りなさい!」
見張り達はそれに応えてすぐに小屋の中に入った。
山小屋の外に山賊がいなくなると同時に、山小屋を光が覆う。
「結界石か」
隊長が呟く。
結界石を使うと言うことは、山小屋に攻撃できないと言うことを意味する。
しかし同時に、山小屋からも攻撃が来ないことも意味していた。
この二つの意味から山賊達の意図を理解した隊長が続けて呟く。
「我々ごとき、ゴリラで充分ということか。舐められたもんだな」
「隊長、どうしますか?」
指示を仰ぐ兵士に、隊長が作戦を伝える。
「こちらの攻撃が通じるかわからんが、動きは鈍い!距離をとってまずは安全に、と、なんだ?」
指示の最中に喋るのを止めた隊長。
視線の先ではゴリラゴーレムが兵士達の方を見て、カパっと口を開けた。
身構える兵士達に向かって、ゴーレムの口から何かが打ち出される。
パヒュン。
軽い音で打ち出されたのは赤く光る石。
大人が全力で投げるくらいの速度で飛んでいき、兵士達の手前に落ちる。
地面に石が落ちた瞬間、パリン、という音がなる。
次の瞬間、地面が大きく爆ぜた。
ドォンという激しい音と共に起きた爆発は、着弾地点の近くにいた兵士達に熱と爆風をもたらし数人の兵士達が吹き飛んで転がる。
直撃ではないが、流血するもの、痛む場所に手を当てているものもいて無事とは言い難い状況だ。
爆風は石を吐き出したゴリラの元にも届くが、硬い装甲をつけたゴーレムには全く影響が出たように見えない。
どこ吹く風とゴリラは首の向きを変え、別の兵士達に向かって続けて石を吐き出した。
パヒュン。パリン。ドォン。
何をしてくるかわかった兵士達は距離をとって身構えるが、また数人吹き飛ばされて怪我をする。
後方でその様子を見て、何が起きているのか悟った領主は思わず叫んだ。
「爆発の魔法石!?馬鹿げた使い方を!」
「あー、船に穴あけたやつだ」
驚く領主と、妙なところに納得するユウヒ。
この魔法石は鉱山などで使われる魔法石で高い爆発力を誇る。
ただ、戦闘用としてはほとんど使われない。
割れたら爆発するため、使用者も巻き込まれてしまうことと、もう一つ。
「もったいないなあ」
「同感だな、ゴリラが金貨吐き出してるようにしか見えん」
2人の意見が揃う。
爆発魔法石は一石金貨50枚以上する高級品だ。
気軽にポンポン使うようなものではない。
ただ、馬鹿げていようがもったいなかろうが破壊力は十分だ。
「各員散開!ゴーレムの正面に立つな!怪我人は後方に!」
隊長は矢継ぎ早に指示を出し、兵士たちはそれに応えて速やかに散らばった。
ゴーレムはその様子を見て、あたりを見渡しだす。
爆弾石を放り込む、1番効率の良い場所を探るような動きだ。
そしてその結果、人が一番集まっている場所にを見つけて頭を向ける。
「あれ、こっちみてる?」
「向いてるな、たしかに」
ユウヒと領主がいる方をゴリラが見ていた。
怪我人が下がり、護衛もついている領主付近が1番人が固まっている状態だった。
ゴリラは重い足音を立てて、領主とユウヒに向かって近づき出した。
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