6−6

山賊討伐に向かう兵隊達一行は、静かに山小屋に向かっていた。

とは言っても20名を超える大人数の武装集団であり、完全に無音で迫ることはできない。

そのことは領主含めて理解しており、できるだけ悟られずに接近できれば御の字といった作戦である。


周囲に兵隊を展開して離れたところから包囲し、徐々に包囲の輪を縮めていく。

その時、突然山小屋の周りにいるゴブリンがぐぎゃぐぎゃと叫び出した。

そして、一匹、また一匹と同調するように叫び出し、段々とゴブリン達の声が大きくなっていった。


「気づかれたか」


隊長は呟くと、すぐさま兵士達に隠密行動をやめて堂々と進むように指示。

気づかれていなければ隠密行動には価値があるが、気づかれているのであれば逆に姿を見せて威圧した方がいいと言う判断で、事前の打ち合わせ通りの行動である。

兵士達は隠密行動をやめて、直線的に山小屋を目指して進んでいく。


その間にも、山小屋側から聞こえるぐぎゃぐぎゃという声は、一層大きくうるさくなってきている。

兵士達もそろそろゴブリンと接触するか、といったところで緊張が高まってきた時、唐突にゴブリン達の声が聞こえなくなった。


「一旦停止」


急にシンと静まった森の中。

隊長は状況の変化に反応して、兵士達の前進を一旦止め、後にいるユウヒに声をかけた。


「ゴブリン達がどうなったかわかるか」

「デモン、どう?」

「ゴブリン、イナクナッタ」

「召喚解除したみたいだね」

「そうか、しかし、なぜ」

「うるさかったんじゃないかな」


襲撃を受けた側の心理としては、少しでも戦力を保持しておきたいはずだ。

戦闘のプロとして、うるさいという理由でゴブリン達を召喚解除するのは納得いかない隊長。


「何か、他に理由があるのでは」

「ゴブリンを呼んでたら他の子を呼べないからかな」

「何、それはどういうことだ?」


ユウヒの発言に隊長は確認する。

ユウヒは召喚士の立場から見解を述べた。


「召喚士は召喚する時に魔力を使うんだけど、あんまりいっぱい同時には喚べないんだ」

「他の召喚獣を呼ぶために解除したと言うことか」

「うん、そうかも」


真の理由はユウヒが最初に指摘した、山賊の頭が五月蝿かったという理由である。

しかし、こちらの理由の方が納得できるので食いつく隊長。


「ということは、まさか、銀月狼が出てくるということか」

「あ、なるほど。出てくるかも」

「それは、結構まずいんじゃないか」

「どうかなあ、大丈夫だと思うよ」


銀月狼を見たことがない隊長にとっては脅威がわからないが、巨大な狼という時点で厄介な相手であることは容易に想像できる。

そして、この召喚士がいう大丈夫が信用ならないということは、短い付き合いでも理解できている。

隊長は顔をしかめてユウヒに問いただす。


「なぜ大丈夫なのか教えてくれないか?」

「出てきても襲ってこないから、大丈夫」

「だからなぜ襲ってこないのかを知りたくてだな」


引き続き問いただそうとする隊長だが、兵士達の指示を仰ぐ声が遮った。


「隊長、急いだ方がいいのでは?」

「逃げられてしまうかもしれません」

「ぐ、すまん。前進する!ただし、慎重にいくぞ!」

「了解」

「了解」


事態は一刻を争う状況で、ユウヒとしゃべっている暇はないと判断。

不安は抱えたままの隊長は、慎重に前進するように兵士達に指示を出した。



隊長の不安に反し、特段なんの抵抗もなく山小屋を視認できる位置に到着した兵士達。

山小屋の外には数名の山賊が武器を構えているが、兵士達を見て怖気付いているように見える。

ゆっくりと包囲したところで、隊長が大声で山小屋に向かって呼びかけた。


「山賊共、お前らは完全に包囲されている!大人しく投降しろ!」


どうしたら良いか困惑する見張り達に対して、窓を開けた中から応答する指名手配を受けた商人。


「投降したところで、我々が助かる保証はないでしょう!抵抗させていただきますよ!」

「警告は無駄のようだな。全員、かかれ!」


隊長の号令に従って、兵士達が山小屋に殺到しようとしたその時。

梟がユウヒに向かって警告を発した。


「マリョクデカイ、ナニカイル」

「ん、どこ?」

「コヤノ、シタ」

「下?」


ユウヒが首を傾げる。

同時に、山小屋のすぐ隣の地面が爆発音と共に噴き上がった。

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