6−13

山賊が降参してから1時間程度が経過した。


怪我をした兵士達の手当てを終えて、領主と隊長は一旦街へ帰還することが決まる。

捕縛された山賊達は、頭共々観念した様子で縄に繋がれて歩かされている。

爆弾石を投げつけた指名手配商人は、猿轡を噛ました上で簀巻きにして荷車に放り込まれていた。


「さてと、二人とも。今回はご苦労だった」


領主はユウヒとアサヒの2人に声をかける。

亀と狼は既に召喚解除されており、その場にいるのは二人と兎だけ。

兎は既にユウヒに返却されて、定位置の鞄から顔を出して耳をピコピコしている。


「お仕事完了ですね」

「仕事完了ですね」


2人が声をそろえて領主に応える。


「ああ、運び屋は兵士達の山小屋への配達、傭兵はゴリラをなんとかするという仕事だったが、満足いく仕事っぷりだった」

「それでは、配達完了書にサインお願いします」

「それでは、契約完了書にサインお願いします」


二人揃えて書類を領主に差し出す。

息の揃った行動に半ば笑いながら書類を受け取り、サインをする領主。


「書面の様式が同じだな。仕事の依頼先は同じなのか?」

「ボクは運び屋なので商業ギルドです」

「僕はフリーの傭兵です。いろんなところに顔出してお仕事ないか聞いてます」

「そうか、傭兵に仕事を頼みたいときはどうすれば良い?」

「お仕事もらえるのであれば、時々お屋敷に行きます」

「わかった、その時に聞いてみることにしよう」


話をして、二人を眺める領主。


「お前達、仲がいいのに別の仕事をしているのだな」

「お金返さなきゃなので」

「別々に稼いでます」


息のあった回答に、領主はため息をつきつつ二人に問いかけた。


「借金があるのか?理由はなんだ?」

「流行病になったお母さんの薬」

「お父さんが借りてました」


その答えに苦い表情を浮かべる領主。

領主自身も領主夫人のために費用を投じてきただけに、かかる費用が想定できてしまう。


「返却は順調なのか?」

「ボクは順調かな。アサヒは?」

「順調だったんだけど、前の仕事がタダ働きになった」


恨めしそうに山賊達を見るアサヒ。

ユウヒが問いかける。


「山賊してたの?」

「ううん。森は危ないから人が入ってこないようにしろって仕事」

「ああ、それでゴブリンがいたんだね」

「うん、山賊のお手伝いだとは思わなかった」


その話を聞いて、領主が答えた。


「それなんだがな、奴ら山賊をしていたわけではないらしい」


それを聞いて首を傾げるユウヒと、頷くアサヒ。

領主は続ける。


「山賊の噂を立てて、ここの地下倉庫を使って商売をしていたようだな」

「うん、人を襲う仕事なら受けなかった」

「人が来ないようにして、怪しげな薬草を栽培して荒儲けしてたみたいだな」


領主が補足するように伝えると、アサヒが顔をしかめる。


「もっと嫌な仕事だった」

「狼の遠吠えは我々への合図だったのか?」


しかめっ面をしているところに、領主が問いかけるとアサヒは首を横に振る。


「あの人達が給料払ってくれるか怪しくなってきたから。ムーン出して、踏み倒さないでねってお願いしてた。払うとは言ってたんだけど」

「アサヒいると思わなかったし、ムーンが吠えるの珍しいからびっくりしてたよ」


うんうん、と頷く双子。

その様子を見て領主は二人にあらたまって向きなおる。


「何はともあれ、お前達が助けてくれたお陰で今回の件は色々進みそうだ。お前達の借金の元でもある流行病の薬も、新薬が効いてくれれば薬で破産するようなことは減ってくるだろう。感謝するぞ」


その言葉を聞いて、二人は同時に答えた。


「「お仕事だから、大丈夫」」


顔を見合わせて笑い合う双子。

その様子を見て、領主も笑うのであった。


その後、領主と双子の間で報酬の受け渡し方法や仕事の依頼方法などについて話をした。

ユウヒは自分の街に戻る事にして、アサヒは報酬をもらいがてら仕事として隣街までの連行を手伝う事を決める。


領主一行が街にひきあげる時間になり、双子は別れの挨拶をする。


「もうちょっとでボクの分のお金返せるよ」

「僕の分ももう少しで返せると思う」

「じゃあ、お金返せたら一緒に仕事をしない?」

「運び屋?そうだな、傭兵よりかは楽しそうだ」

「うん、じゃあ待ってるね」

「うん、なるべく急いで返すよ」


アサヒはユウヒの鞄から顔を出している兎の頭を撫でる。

撫でられ終わると、ユウヒは呪文を唱えた。


『召喚:突撃河馬』


どしんどしんとカバが現れる。


「ヒポ、帰ったら野菜あげるね。よろしく」


声をかけながら飛び乗るユウヒ。

アサヒもカバに声をかける。


「ヒポ、元気か?今度遊ぼうな」


現れたカバに警戒する領主達ご一行をよそに、和やかにカバと話す双子達。

ぶもっと答えて双子達が笑っていた。


「んじゃね、アサヒ」

「またな、ユウヒ」


カバはどしんどしんと方向転換。

自分の住む街へと方向を合わせる。

ユウヒはカバの上で領主達を振り向くと、大声で挨拶した。


「ご利用ありがとうございました。運び屋兎、またのご利用お待ちしています!」


領主達達がそれに答えて手をあげると、ユウヒは進行方向に向いて掛け声をかけた。


「ヒポ、ゴー!」


木々を踏み倒しながら、カバとユウヒはその場から去っていくのであった。

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