6−12
扉を蹴飛ばして、山小屋の中に突入した領主と隊長。
中では青ざめた顔色の指名手配を受けた商人と、それを取り囲むように見張りの山賊達が待ち構えていた。
領主と隊長は落ち着いた声色で声をかけた。
「大人しく降伏しろ」
「抵抗するのであれば切り捨てる」
見張り達は武器を構えて迷いを見せるが、隊長が続けて降伏を呼びかけた。
「その構え見る感じ、兵士崩れだろう。お前らでは勝負にもならん」
「今武器を下ろすなら、小屋に入ってからここまで領主に剣を向けたことは忘れておいてやるが、どうする」
領主の言葉に、見張り達は武器を落として手を上げた。
その様子を見て指名手配を受けている商人は叫ぶ。
「なんで領主がこんなに早くここに辿り着けるんですか!」
「運び屋が教えてくれてな」
「外のゴーレムはどうしたんですか!」
「傭兵がなんとかしてくれてるな」
「結界石、結界石で守っているはずだったでしょう!なんで入ってこれるんですか!」
「運び屋に入れてもらった」
領主が面白そうに答える。
指名手配を受けた商人は叫んだ。
「馬鹿にしてるんですか!」
「ああ、馬鹿みたいだよな。ただお前らのやったことは馬鹿よりも許せんことだ」
「それもこれも、運び屋、運び屋。あのお嬢さんですか。許せない、許せない……」
虚な目で呟き出す商人に哀れむような視線を送る領主。
「壊れたか」
そこまで話したところで、山小屋の外から巨大な爆発音が聞こえる。
「何事だ?」
窓の外に広がっているのは巨大な爆発跡だった。
金属で補強されているスロープはかろうじて無事だが、周囲の地面はえぐれており、荒々しい焼け野原だ。
結界石で守られており無傷の山小屋の窓から、領主と隊長はどことなく遠い目でその様子を見る。
「おお、傭兵がやったか」
「しかし、兵士に怪我人が出ていますな」
「まあ、ゴリラをなんとかしろ、としか言ってないからな」
「ここを片付けたら確認しましょう」
自分の指示で起きた事象に少し引け目を感じている領主。
その様子に気づかず、虎の子のゴーレムが倒されたことにショックを隠せない指名手配商人。
そこにいる人間が呆然としている時、部屋の奥の一角の床が開いた。
中から、山賊の頭が上がってくる。
「だめだ、あれがやられちまった!次はどうする、と」
その場にいる人間達が一斉にそちらを振り向く。
「おいおい、なんでもう中に入られてるんだよ」
「山賊か?大人しく降伏しろ」
隊長が山賊の頭に降伏勧告をする。
その声を聞いて、ドアを開けひょっこりと顔を出すユウヒ。
「あ、船のおじさん」
「運び屋、お前かよ」
ゲンナリとした表情を見せる山賊の頭。
その様子を見て領主がユウヒに確認する。
「この男か?船を沈めた山賊かもしれない男っていうのは」
「うん、そうです」
「とすると、是非とも捕まえなければならんな」
剣を構える領主と隊長。
しかし、多勢に無勢。
降伏していた山賊の見張り達も、山賊の頭がきたことで武器を手に取り直すか迷っている。
そこに、ユウヒが開けたドアから数名の兵士が入ってきた。
「領主様!隊長!」
「おお、よく来た。どうやって?」
「突然結界の外に穴があいて入れるようになりました」
隊長が振り向くと、にっこりと笑うユウヒ。
「運び屋、助かった。総員、捕縛しろ!」
見張りはいよいよ抵抗を諦めてうなだれ、山賊の頭は周囲を見渡して状況把握しようとする。
その時、力無く呟いていた指名手配中の商人が懐から魔法石を取り出した。
その色は赤い。
隊長が叫ぶ。
「爆発の魔法石!?」
「ふざけるな!」
室内で使えば、間違いなく部屋の中のものは全員ただでは済まない。
商人が赤い石を手に取った時点で山賊の頭は地下に向かって全力で逃げ出した。
兵士や隊長が止めようとする間もなく、指名手配商人は魔法石をユウヒに向かって投げつける。
「伏せろ!」
「うわ」
領主が叫び伏せようとするが、ユウヒは間が抜けた声を出して飛んでくる魔法石を見ている。
次の瞬間、投げつけられた魔法石の周りに小さな球状の結界が張られた。
結界に魔法石がぶつかり、その中で爆発が起きる。
ドォンという音とともに、結界の中に炎が渦巻いた。
数秒後、結界は解かれる。
伏せようとしている領主は起き上がり、兵士達に指示をして石を投げつけたままのポーズで固まっている商人を捕縛する。
ユウヒは開いたドアから中を覗いていた結界の主に礼をいった。
「ウラシー、ありがと」
甲羅を光らせてのんびり欠伸する亀とユウヒの姿を見て、呆れながらも無事を問う領主。
「すまん、運び屋、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。ボクのお仕事はこれで完了かな?」
「ああ、あとはこちらの仕事だな」
残りの見張りも捕縛し、地下に逃げ込んだ山賊の頭と残党を捕まえに向かおうとする隊長。
しかし、その時地下から叫ぶような声が聞こえる。
「お前ら、早く逃げろ!」
「だめだお頭、スロープの先に狼がいます!」
「狼って、召喚士のか?」
「めちゃくちゃ涎垂らして唸ってます!」
「それは、まずいな」
一瞬の沈黙後。
山賊の頭と残党が両手を上げて、山小屋の中に上がってきた。
「降参、降参する」
呆れたように捕縛する兵士達。
ユウヒは窓の外、爆発が収まってからスロープの先に戻って待ち構えていた狼とアサヒに手を振るのであった。
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