6−11

一方、ユウヒと言葉を交わしたアサヒはゴリラに向かって狼を走らせていた。


「アリス、久しぶり。合図したらよろしく」


アサヒの声かけにプスっと鼻息で返事をする兎。

狼は先ほどよりも速度を上げて走る。


「ムーン、後で肉たっぷりあげるからもう少し頑張ってくれ」


ガウっと答えると狼は再びゴリラに飛びかかり、ガィンガィンと音が響き出した。

ゴリラは再び狼を振り払おうと後ろ足で立ち上がって、前脚を両腕のように広げて上半身を回転させる。

扇風機のように重く硬い腕が回り出すのを見て、再び距離を取る狼。


「やっぱ、普通じゃだめか。硬いな」


グルルと唸る狼。

銀月狼の爪も金属のように硬いが、装甲も硬いため有効打はお互い取れていない。


「あれしかないか」


アサヒは呟くと、狼に再度指示を出した。

再びゴリラに攻撃を仕掛けて離れ、仕掛けて離れを繰り返す。

ゴリラは石を吐いたり、前脚扇風機をしたりして応戦。

少しずつ場所を移動しながら、同じ展開の焼き直しをしているように見える戦いが続く。


傷ついた兵士達は救出され、後方に引き下がるのと同時に戦闘可能な兵士達が状況を見守る。

しかし、有効打も出せず足手まといになるのが間違いない状況で手出しができない。


ゴリラが地上に出てきた場所まで戦場が移動した。

引き続き同じように攻撃を繰り返す狼と振り払うゴリラ。


「そろそろかな」


呟くアサヒと狼は攻撃の手数を増やす。

ゴリラが攻撃を迎撃するために、足を少しずつ動かしていた時、ゴリラの後ろ足が地中に落ちた。

登場する時に使っていた地下へのスロープの空間である。

重量も重量なため、引きずられるように後ろ足が両足ともスロープに落ちてしまった。

ズシィンという重い音とともに下半身が地中に落ちたゴリラだが、上半身はまだ地上にある。


「これで準備完了、と。あとは仕上げだ」


呟くと、再びゴリラに近づいて、おちょくるようにゴリラの頭を爪ではたいて離れて叩いて離れてする狼。

痺れをきらしたようにゴリラがカパっと口を開けたのを見てアサヒが叫ぶ。


「アリス!」



——時間が止まる。


シンと音が消え、兎の目が赤く輝く。

アサヒと兎以外の全てが止まる。


アサヒは兎を小脇に抱えたまま狼から飛び降りて、口を大きく開けたゴリラの元に駆け寄った。

その口の奥には赤い光が見えて今にも魔法石が射出されそうである

アサヒは懐から金貨を数枚取り出すと石が出てこようとする穴に放り込み、踵を返してすぐさま狼の元に駆け戻る。


ひょいっと飛び乗って目標達成できたのを確認すると、兎に話しかけた。


「アリス、ありがとう」


10秒程のアサヒと兎の時間が終わった。


——時間が動き出す。



次の瞬間、ゴリラの口から爆音が聞こえた。

ドォン、ドドドォンと最初の爆発音が聞こえたと思った次の瞬間に爆発音が連続して起きる。

爆発音に合わせてゴリラの巨体が揺れて、装甲が中から膨らむように歪む。


「ムーン、逃げるよ」


その様子を見て、アサヒは狼に指示を出した。

狼はすぐにくるっと後ろを向いて全力で走る。


何事かと遠巻きに見守る兵士達。

その横を通るときにアサヒは一声かける。


「爆発するよ」


その声を聞いた兵士は周囲の兵士達に警告を発した。


「伏せろ!」


兵士達が地に伏せた瞬間、ゴリラゴーレムだったものが大きく爆発した。

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