6−10

走ることを領主と隊長に告げたユウヒは鞄から魔法石を取り出した。

配達の時に時々使う煙が出る魔法石である。

さらに説明するユウヒ。


「山小屋までは走ればすぐ、ボクについてきて」

「クラッシュヒポポタマスを使うんじゃないのか?」


ユウヒ達が今いる場所と山小屋の間は100m程度。走ればすぐにつける距離だ。

狼が戦いながらゴーレムを少しずつ位置を変えているので間に障壁もない。

ただ、ゴーレムに見つかってしまえば、爆発石を飛ばされることは容易に想像がついた。

安全のために確認する隊長にユウヒは首を横に振る。


「距離が近すぎて遅くなっちゃうし、乗ってる間にゴリラに見つかっちゃう」

「それもそうか」

「しかし、ついてからは?」

「ついた後は見つかっても大丈夫。じゃあ、行くよ」


カバを使わないのに納得した隊長だが、その後の行程に納得できない領主。

その様子を気にせずに、ユウヒは出発宣言を出した。

説明が欲しいところでもあるが、時間がないのも事実である領主と隊長は少し不安な表情を浮かべつつ頷いた。


「えい」


ユウヒが山小屋との間の位置に魔法石を投げつけた。

ヒューンと飛んでいった魔法石はコントロール良く狙ったところに落ちる。


パリン、ボフン。


一気に煙幕が広がり、ユウヒは領主と隊長に出発の合図を出して煙の真ん中めがけて走り出した。


「ゴー」


煙幕がはられているとはいえ、ゴーレムが人間と同じように視界に頼っているかはわからない。

領主と隊長はその不安を抱えてはいたが、ユウヒの大丈夫を無理やり信じて真後ろについて走る。

20秒ほどで走り抜けると、山小屋に張られた結界のすぐそばまで来ていた。

ユウヒは立ち止まって呪文を唱える。


『召喚:結界亀』


魔法陣が現れて中から亀が現れた。

亀は結界のすぐそばに出てくる。


「ウラシー、日向ぼっこは今度ね」


鈍く甲羅を光らせて同意を示す亀。

ユウヒは後ろからかけてきた領主と隊長に近づくように声をかける。


「こっちきて」


言葉に答えて亀の元にいるユウヒの隣に立った。


「ウラシー、よろしく」


鈍く甲羅を一回光らせると、亀を中心に結界が展開し始める。

驚く領主と隊長。


「兎、カバ、梟ときて次は亀か?サーカス団でもできそうだな」

「バリアタートルまで。召喚士というのは多才なものだ」


呆れたようにいう2人。

結界が3人を包みこむ頃には煙幕も晴れて、ゴリラ達がユウヒ達の様子に気づいた。

顔と向きをユウヒ達の方に向けようとするが、アサヒの乗った狼がゴリラの顔を蹴りつけて注意を逸らすことを許さない。

その後も飛び掛かって蹴って飛び掛かって蹴ってを繰り返す狼。

ガィンガィンと狼がゴリラを蹴りつける硬い音があたりに響き渡る。


ゴリラも痺れを切らしたように、足元に爆発石を吐き出した。

パヒュパリドォンと爆発音が響き渡り、ゴリラを中心に爆発が起こる。

しかし狼は爆風にうまく乗って跳躍して山小屋側に距離を取った。


狼の上に乗ったままアサヒが結界の中にいるユウヒに声をかける。


「もういいか」

「うん、ありがと」

「10秒使うぞ」

「おっけー」


謎のやりとりをかわして、アサヒと狼は再びゴリラ側に駆け寄っていく。

隊長がユウヒにやりとりの中身を尋ねる。


「今のやりとりはなんだ?」

「ゴリラはアサヒが倒してくれるから大丈夫。早く中に入ろ」

「あいかわらず会話が成立せんな」


ユウヒの回答に頭を抱える領主だが、早く中に入るべきというのは3人の総意だ。

しかし、山小屋は結界が張られており中には入れないためユウヒの次のアクションを待つ領主と隊長。

ユウヒは亀に話しかけた。


「ウラシー、お願い」


亀が甲羅を鈍く光らせると、山小屋の結界と重なるように自分の結界を広げていく。

接したところから二つの結界がつながり、トンネルのように通れるようになった。

呆気にとられる領主と隊長をよそに、ユウヒは山小屋の扉の前に歩く。

振り返って、領主と隊長にペコリと頭を下げた。


「お二人を山小屋まで届けました」


その様子を見て2人は苦笑するしかない。


「配達ご苦労、ここからはこちらの仕事だな」


領主と隊長は扉を蹴りあけた。

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