5−6
執務室を出て、領主邸宅の出口に向かう2人。
その道すがら、ギルド長が、ボソッとユウヒに話しかけた。
「多分今回の件、あちらの領主様はそんなに怒ってはいないと思う」
「どうして?」
呟きに問いかけたユウヒに対して、ギルド長が説明する。
「あの森を荒らすことで困る人がほぼいないからね」
「そうなの?」
「魔物も出るし、山賊もでる。危険な割に木の実が取れるくらいだからね」
「ただ、呼び出した以上何か頼み事をされるかもしれない。それだけは心構えしておくんだよ」
「うん、わかった。気をつけるね」
説明し終えたところで、邸宅の入り口に到着。
再び邸宅内に戻るギルド長とユウヒはそこで別れた。
ユウヒは一旦商業ギルドに帰り、裏の倉庫にいって馴染みの商人に声をかける。
「やっほー、おじさん。野菜くださいな」
「よう、ユウヒ。なんか兵隊がお前のこと捕まえにきたって?大丈夫か」
「なんか、カバで森を荒らしたのがまずかったんだって」
「それは、お前、そうだろう」
頷く馴染みの商人。
「それはそれと、ヒポ用か?」
「うん、隣街までいってくる。」
「キャベツあるぞ。気をつけて行ってこいよ」
「了解、ありがとう」
商人はすぐそばに置いてあった箱に入ったキャベツを親指で指差す。
その様子を確認して、ユウヒは呪文を唱えた。
『召喚:突撃河馬』
のったりと河馬が現れる。
ユウヒはキャベツをひとつ掴んで見せると、カバは口を開けた。
ひょいばくんもしゃ、ひょいばくんもしゃ、ひょいばくんもしゃ。
ひょいばくんもしゃ、ひょいばくんもしゃ、ひょいばくんもしゃ。
ひたすらキャベツをカバに投げ込み続けるユウヒに、キャベツ提供者が話しかける。
「そういえば、山賊は魔物を使うんだって?本当か?」
「ヒポは違うよ?」
「山賊だって馬鹿じゃない。使わないだろうよ。そうじゃなくて、ゴブリンを使うとかって話だよな?」
「あー、そうだね。確かにゴブリンいたね」
山小屋で囲んでいたのはゴブリンだった。
ユウヒの目にも何かしらの指示を受けているように見えていた。
非力な商人にとって、ゴブリンはいやらしい魔物だ。
武装した一般人でも1対1ならなんとか倒せるくらいの強さで、護衛がなくても、なんとかなりそうな気がしてしまう。
護衛に金を払いたくないぎりぎりの弱さなのだ。
複数のゴブリンで護衛がいないところに襲撃を受けるところを想像して眉をしかめながら商人は確認する。
「召喚魔法でゴブリンとか呼べるのか?」
「うん、契約すればいいだけだからね。ゴブリンでも呼べるよ。ただ、あまりやらないかなあ」
「それは、なんでだ?」
首を傾げる商人に、キャベツを放り込みながらユウヒが答える。
「あんまり強くないでしょ?ヒポに轢かれちゃうくらいだし」
「そりゃそうだな」
「戦うだけなら、もっと強い子呼んだ方がいいと思う」
そこまで話したところで、河馬がようやく口を閉じて体から湯気を噴き出した。
「よし、ヒポお腹いっぱいになったね。また走るからよろしくね」
ぶもっと鼻息鳴らしたところで一旦カバの召喚を解除。
野菜を提供してくれた馴染みの商人に手を振って、今度は受付に向かう。
受付に姿を見せると受付嬢がユウヒに声をかける。
「ユウヒ、大丈夫だった?」
「大丈夫だよ、配達に行ってくるね」
「……そう、気をつけてね。サンドイッチの残り、包みなおしておいたから持っていきなさい」
「あ、やったね」
サンドイッチの包みを受け取り、ホクホク顔のユウヒ。
「んじゃ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい、ユウヒ、森の中は走っちゃダメよ?」
「大丈夫!」
「本当に気をつけるのよ!」
受付嬢の心配する声を背に、ユウヒは商業ギルドの扉から出る。
そのままテクテクと街の外に向かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます