5−7

街の外に出るとユウヒは再び河馬を召喚する。


『召喚:突撃河馬』


ぶもっと召喚された河馬は先ほどエネルギー補給済み。

やる気満々といった雰囲気で湯気を噴き出している。

ひょいっと飛び乗ると、早速ユウヒはカバを出発させた。


「ヒポ、出発。道を走るから、ゆっくり目でお願いね」


時速30km程度まですぐに上がる。

雲ひとつない穏やかな空の下、土煙と足音を鳴らしながら走るカバ。

周りから見れば恐ろしく賑やかな光景だが、カバの上だけはのどかな空気が漂っていた。


少し走ったところで、ユウヒはちゃらちゃちゃっちゃちゃーんと言わんばかりに包みを取り出した。


「サンドイッチー♪」


受付嬢にもたされたお弁当である。

カバの上で包を開くと、ひとつ手に持ちモグモグと食べる。

しばらく進んで、また一つ手に持ちモグモグと食べる。

ゆっくりと味わいながらカバの上のサンドイッチタイムを楽しんでいると、前方に同じ方向に向かう馬車が見えてきた。


「ふぁえ?」


馬車から手が出て、止まるように指示される。

サンドイッチを飲み込みながら、カバを停止させるユウヒ。

馬車からは先ほどの兵士達と青年が出てきて、その中で一番年配の兵士がユウヒに話しかける。


「停止感謝する。本当にクラッシュヒポポタマスに騎乗しているのだな」

「はい、そうですよ。今お届け物中なので、先行ってもいいですか?」

「配達?何を?」

「内緒。ただ、領主様のところに届けるから大丈夫だよね?」

「まあ、そうだな。ただ、この感じだとお前のほうが先に着いてしまいそうだな」


カバの上のユウヒと兵士が話している横で、別の兵士が青年に確認していた。


「これが噂のクラッシュヒポポタマスか?」

「は、はい。これです」


その様子に気づいたユウヒが青年に話しかけた。


「あ、この前のお兄さん。ご利用ありがとうございました」

「い、いや。こちらこそ、ありがとう」

「お兄さんも隣街に向かってるの?」

「そうだ、帰るところだよ」


情報を売り渡した引け目があり、なんとなく居心地の悪い青年。

そんな様子を気にすることなく、提案した。


「街まで乗ってく?」

「いやだ!」


提案に即否決して、震え出す青年。

年配の兵士は怪訝な顔をしながら、ユウヒに尋ねた。


「運び屋、もしかして1人なら乗せていくことができるのか?」

「2人くらいなら乗せられるよ」

「よかったら、乗せて行ってくれないか?」


兵士の提案を聞いて、全力で首を横に振り出す青年。

青年の様子を気にせず、ユウヒは兵士の提案に対して断った。


「うーん、お仕事としてならいいけど、ダメかな」

「そうか、この青年ならなんで良いのだ?」

「一回乗ってるからね。今日はゆっくり走ってるし、そんなに揺れないから。ヒポの名誉挽回しようかと思ったんだけど」


首がどこかに飛んでいってしまうのではないか、とユウヒが心配するくらい全力で首を横に振る青年。

その顔にははっきりと、ありがた迷惑の文字が見える。


年配の兵士は少し考えると、改めて提案した。


「配達物が何かは知らないが、先ほどギルドで話した件に関わることであれば私を連れて行った方がスムーズに仕事ができると思うが、どうだろう」

「おじさん、話が上手だね。わかった、おじさんだけなら乗せて行ってあげる」

「ありがとう」


同乗を決めた年配の兵士は礼を言うと、他の兵士に指示を出す。


「私は運び屋と共に先に街に戻る。お前達は予定通り馬車で帰還せよ」

「了解しました」


指示を受けて、馬車に再搭乗する兵士たち。

青年もホッと胸を撫で下ろして馬車に乗ろうとする。

先ほどまで同じ馬車に乗っていた年配の兵士が、青年に声をかけた。


「そんなに、カバの上は酷いのかな?」

「私は気を失いました。無事を祈っています」

「あ、ありがとう」


青ざめた顔で答え、青年は祈りの言葉を唱えつつ馬車に乗り込んでいった。


「……早まったかな」


その様子を見て顔に汗が垂れる年配の兵士に、心外だといわんばかりにユウヒが声をかける。


「今日はゆっくり行くから大丈夫だよ。乗ってね」

「お手柔らかに頼む」


自分の腰を気にしつつ、兵士がカバに乗ると、ユウヒから紐を使って体を落ちないように固定するように指示を受ける。

ますます不安が増えていく兵士なのであった。

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