2−4
その日の夜。
領主邸宅から少し離れたところに生えている大木の上にユウヒの姿があった。
兎は鞄の中でプスプスと寝息を立てている。
「さてと」
独りごちると、ユウヒは呪文を唱えた。
『召喚:
ユウヒの呪文に応じるように、魔法陣が形成される。
サイズは1mくらいの小さなものだ。
そこから一羽の梟が出現した。
「デモン、よろしくね」
「ユウヒ、ヒサシブリ」
機械的な声で挨拶を返す梟。
召喚されたのはデモンズアウルと呼ばれる梟の魔獣だ。
悪魔の森と読まれる森の最奥部に生息する梟で、非常に知能が高い。
挨拶を交わすと、ユウヒは鞄からおもむろに本を数冊取り出して梟に見せる。
「この前のお話の続き。見つけてきたよ」
「ウレシイ、ツヅキ、タノシミ」
ユウヒが差し出す本を一冊一冊確認する梟。
確認しては咥えて自分が出現した魔法陣に入れていく。
梟が全ての本をしまい終えたタイミングでユウヒが聞く。
「どうかな、これで大丈夫?」
「ジュウブン。アリガトウ」
くるっくるっと左右に首をまわして礼を言う梟。
それをみてユウヒは梟に話しかける。
「じゃ、今日のお仕事なんだけど」
「ナニスル?」
「あの屋敷にこっそり入って、令嬢にこの手紙を渡すんだ」
「キヅカレズ二?」
「うん、気づかれずに」
「ヤシキ、ミテミル?」
「お願い」
頼まれた梟はまん丸い目で邸宅をじっと見つめる。
その様子をみてユウヒは目を閉じて、梟に手を添えた。
すると、ユウヒの瞼に梟の視界が飛び込んでくる。
デモンズアウルの特殊能力、
梟の視力は人間の100倍程度で、色は白黒だが夜目もきく。
モノクロの視界で領主邸宅を見渡す梟。
「ケッカイイシ、アル」
「常時結界石つかってるんだ、贅沢」
「ヒト、オオイ」
屋敷には結界石による結界が展開されている。
そのうえで外目にも警備兵が散見され、警備が厳重なことがうかがえる。
「そうだね、ご令嬢のお部屋はどこかな」
「コノヒト、チガウ?」
梟の視界は二階端の部屋をとらえる。
バルコニーに開けられた窓越しにとらえられたのは一人の女性。
年のころはユウヒと同じくらいか。
揺り椅子に腰かけて編み物をしており、白黒の視界でも整った容姿が見てとれる。
部屋の壁には領主の家紋が掲げてあるのをみて、おそらく令嬢だろうと判断するユウヒ。
「うん、多分この人だね」
「ケイロ、カンガエル?」
「お願い」
ユウヒは一旦梟から手を放す。
それと同時に、梟が屋敷の方向を向きつつ、頭を小さく上下左右動かしだした。
15秒ほどで梟は頭を動かすのをやめた。
「カンガエタ」
「教えて」
ユウヒは再度梟に手を添える。
モノクロの視界は屋敷の入り口をとらえていた。
入り口には門番として衛兵。
交代交代で周囲を見回りに出て戻っている。
「モドルトキ、ハイル」
「うん、デモンの出番だね」
邸宅の門から庭園に向かって視界が動く。
手入れされた庭園には草花や樹木があり、その間を視界が横切っていく。
「カクレテススム」
「見回りも少なそうだね」
庭園を通過して、令嬢の部屋の真下で視界が止まった。
木の陰になっており、門からは死角になっているようだ。
「キヲノボル」
「立派な木だね、大丈夫そう」
視界は木の根元から上に向かって上がっていく。
木の幹がバルコニーから手を伸ばせば届く位置にあることが見て取れる。
「ツカマッテ、ゴール」
視界がバルコニーにうつって止まる。
その先には依然編み物をしている令嬢の姿が映っていた。
ユウヒは梟の示す侵入ルートをもう一度頭の中で再度流してみる。
「うん、大丈夫そう。デモン、ありがと」
「ドウイタシマシテ」
「じゃあ、配達開始だ」
「リョウカイ」
ユウヒのミッションスタート合図に梟が答える。
プスっと鞄の中の兎が同意するかのように寝息を立てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます