2−2
翌日、恋する男は恋文を抱えて執事とともに商業ギルドを訪れていた。
男の父親は羽振りの良い貴族であり、商業ギルドからするとお得意様である。
男は七光りを最大限に利用して商業ギルド長にアポを取り付けたのだった。
「どういったご用件でしょうか」
商談室に案内された男と執事は、中肉中背で穏やかな物腰の男性と向き合っていた。
「この前、父と話していた運び屋を紹介してほしいのだ」
「運び屋ですか?」
「なんでも届けるという触れ込みだとか。何といったかな」
「先日のお話では運び屋『兎』とおっしゃられていたかと」
執事のフォローを受けて眉間にしわを寄せるギルド長。
「『兎』をご要望ですか。何をどこに配送するのかお伺いできますか?」
言葉を詰まらせる男。
「うむ、なかなか言いづらい内容なのだ」
「『兎』は信頼できる運び屋です。物も場所も選びません。しかし費用はかなりかかります」
「覚悟はしている。どのくらいの費用が掛かるのだ」
「その費用が、危なさ等の事情によって大きくかわるのです。理由を教えていただく必要があります」
譲らないギルド長に押し切られる男。
ぼそぼそとその中身を白状する。
「……恋文だ」
「いまなんと?」
「恋文だよ!届け先は領主様の令嬢だ!」
「あ、あー。ナルホドー。」
身構えていたギルド長だが、思ったよりもくだらない、もとい些細な内容に拍子抜けする。
しかし、すぐに立て直して男に問いかける。
「なるほど、あのご令嬢となるとお届け先は領主様邸宅ですか」
「そうだ。しかし、直接渡しに行っても受け取ってもらえるとは思えん。」
「となると、恋文をご令嬢に直接とどけなければならない、ということですか」
「うむ、そこで『兎』とやらに頼みたいのだ」
少し考えてギルド長は答える。
「わかりました。『兎』を呼びます」
「おお、助かる」
「あと、本件に関しては表立ってご依頼受けるわけにはまいりません。くれぐれもご内密に」
「わかった」
「では、一旦失礼します。費用含めて『兎』と直接話していただけますよう、お願いいたします」
ギルド長は一礼して退出。
退出した後、閉じた扉をみて軽くため息をついた。
「意味がなくても、届けるだけなら問題ないか」
ギルド長はつぶやいてユウヒの部屋に呼び出しに向かった。
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