1−4
「うわっ!ちょ!まっ!ぐえっ」
「お兄さん喋んない方がいいよ。舌噛むから」
「ん!んむ!む!」
カバは街中を荒々しく走り出した。
時速で40kmくらいは出ている。加えて揺れる。
青年はカバの上でポップコーンを作っているかのように飛び跳ねていた。
「衛兵さん、通るねー!」
あっという間に入り口に差し掛かり、ユウヒは叫んだ。
荒々しい足音とユウヒの声を聞いた衛兵たちも叫んだ。
「バカのカバ!注意!」
「道を開けろ!」
「轢かれるぞ、死にてえのか!」
衛兵たちの叫び声を聞き、その場にいた人たちも急いで道をあけながら目の前を通り過ぎるカバに声をかける。
「あらあら、久しぶりのカバさんね」
「兎、人は引くなよー」
そんな中、交通整理した衛兵たちは衛兵達は落とされそうになる青年の姿をしっかりと見ていた。
「ん!ん!んん!」
「隊長、無事に帰ってこれますかね」
「我々にできることは祈ることだけだ」
衛兵たちは、走り抜けるカバを敬礼で見送った。
街中を抜けると、ユウヒはカバの背中をポンポンと叩いて話しかける。
「ヒポ、調子はどう?」
ぶもっぶもっと鼻息混じりで余裕の態度を見せながら走り続けるカバ。
もはや言葉を出せずに必死に手すりにつかまる青年の方がどう見ても調子は悪い。
「お兄さん、もっとスピード出してもいい?」
「!?」
「妹さん早く助けに行かなきゃね」
「……」
おい待てふざけんな。
脅迫だろそれは。
言いたいことは山ほどある青年だが、口に出した瞬間に舌を噛むことは間違いない。
そんな様子を知ってか知らずか、無慈悲にユウヒは指示を出す。
「ヒポ、急ぐよ!」
ぶもっ、と元気に鼻を鳴らすカバ。
心なしか目にやる気が出ると、速度が上がった。
一気に時速60kmくらいに加速する。
加えて。
「そろそろ森に入るから、もっと揺れるよ。お兄さん落ちないでね」
「!?」
街道をそれて、森の中に突入するカバ。
速いが小回りがきかないため、目標に向かって最短距離を突っ走るようだ。
バキバキと木を薙ぎ倒しながら高速で直進するカバ。
当然、揺れは激しくなる。
「お兄さん大丈夫?」
「……」
「あ、おちちゃった」
時速60kmで動きながらの人間ポップコーンには青年は耐えられなかったようだった。
体は命綱でかろうじて固定されているが、精神は落ちてしまっている。
「ま、いっか。こっちの方が静かだし」
気にせず目的地に向かってカバを走らせるユウヒ。
30分後、山小屋の煙突から出る赤い色付きの煙を視認して速度を落として停止。
ユウヒは慣れた様子で、意識を失っている青年に気付け薬となる薬草を嗅がせた。
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